『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio

文字の大きさ
66 / 178
4章 皇国

2

しおりを挟む

 あまり迷う必要はない。俺はすぐに返事をすることにした。

「皇国に行きます」

「本当にいいのですか? 
 これが最後の機会ですよ」

「惑わせるようなこと言わないでよ」

「あ、すみません」

 すみませんって。うん、でもよかったかもしれない。改めてどうするか選ぶことができて。俺は誰かに強制してじゃなくて自分で選択して動いているんだって、よくわかる。

「では、そうしましょう。
 詳しい話は皇国への道すがら話します。
 もう出れますか?」

 そうと決まったら行動が早いんですね、いや、まあもう出れるけどさ。でも出る前にリキートとフェリラには声かけていきたいかも。もう会うことはないだろうから、最後に声くらいかけていきたい。

「ここを発つ前に会いたい人がいるんだ」

「会いたい人、ですか?」

「うん、ここで一緒に行動してくれた人たちなんだ。
 彼らのおかげで、俺はここを目指せたから」

 リキートが養成校を目指すとか言っていなかったら俺は王都を目指すことも、サーグリア商会に再会することも、自分と向き合うことも、きっとなかったから。それにちゃんと学ぶことも。だから感謝しかない。

「わかりました。
 呼んでもらいましょう」

 呼んで、うん、そうなるか。偉そうで申し訳ない。じゃあ、とリヒトが立ち上がったその時。なんだか騒がしい声が聞こえてくる。何事だ、と互いに顔を見合わせる。少しして乱暴に部屋の扉が開けられた。

 って、リキート……? あ、なんだかフェリラの声もする気がする。

「ハール!
  よかった、まだいたんだね」

「え、あの、リキート……?
 なんでここに」

「おい! 
 勝手に入るんじゃない!」

 後ろで声が上がる中、リキートは部屋に入った途端に足を止めて目を見開く。その視線の先にいたのはリヒト? 見るとリヒトの方もリキートに視線が固定されている。

「リキッドレート殿……?」

「り、リヒベルティア殿?」

 ……え? えっと、どういうこと? リキッドレートってだれ? それに、リヒベルティアって、リヒトの名前だよね。なんでリキートが知っているんだ。だめだ、何一つわからない。

---------数分後---------

 よ、ようやく少し落ち着いた。リキートが乱入したときに、リキートやフェリラを止めようと追ってきた兵を説得、お引き取りを願った。そして、リキートとフェリラをとりあえず部屋の中に入れてお茶を用意してもらい、現在に至る、と。

「ごめん、最初から説明して?」

「それはこっちが言いたいことなんだけれど……。
 あ、これ。
 先生から預かってきた」

 ひょい、と渡されたのはCランクとなったギルドカード。おお、今までとは色が違う。って、これを本人に渡さずにリキートに渡したのかよ。確かに同じパーティではあるけれど。まあ、ありがたくいただきましょうか。

「ありがとう。
 ……で?
 リキッドレートっていったい誰のことだ」

「うっ。
 いや、一緒に行くって決めた以上ばれるのは当たり前だけれど。
 でもまさかこんなにすぐばれるなんて、心の準備が」

 なんだかひどく混乱しているね。フェリラは、と見てみるときょとん、というか平然と言うか、とりあえずあんまりよくわかっていないのはわかった。

「あの、なんだか余計なことを言ったみたいですみません」

「いえ……。
 えーっと、うん、もういいや。
 僕だって、わかっていて来たし」

 なんだかまだ混乱中みたいなので、落ち着いているように見えるフェリラの方を見る。もしかしたらここに来る前に何か聞いているかもしれないしね!

「ねえ、ハール。
 ハールって皇子様、なの?」

「うぇっ!?
 え、うん、そうだけど、急になに!?」

 は、話しかけようとしたところを逆に話しかけられるとこうもびっくりするのか。それに急に皇子って言われるとは。

「じゃあやっぱり、リキートの言っていた通りなんだ。
 国に帰るの?」

「う、うん、そのつもり」

「それ、あたしたちもついていくよ」

 ……え? いや、そんないい笑顔であっさりと言われても。ついていくっておかしくないか? だって、みんなはそれぞれやりたいことがあって、ここにきた。自由を、手に入れたくて。でも、俺についていくってことはせっかくの努力を無駄にするということ。

 それなのに、そんなあっさりと。

「あー、もう言っちゃったのか。
 まあ、僕もだいぶ混乱していたから助かったけれどさ。
 ……あのさ、前に僕がもともと貴族の出だって言ったよね」

「ああ、うん、言っていたね」

「その、僕の実家ってアベニルス家、なんだ。
 僕の本名はリキッドレート・アベニルス」

 知っている? とこちらを見るリキート。いや、俺が知っているのはせいぜい皇国の……、アベニルス?

「それって、もしかしてアナベルク皇国の、アベニルス公爵家……?」

 嘘だろ、という気持ちが隠し切れなくて、どうも言葉が途切れる。俺は知識としてそういった公爵家の名前とかを知っているだけで、実際に会ったことはない。それは、つまりお互い顔は知らないということで。だから全く気が付かなった。

「そう。
 だからあのときに、大会の時にハールが皇子だってこともわかった。
 消えた第七皇子の話も聞いたことがあったから、その人だろうって。
 まあ、ならどうして今まで気が付かなかったって話かもしれないけれど、こんなところにいるとは思わないから」

 孤児院出身だって言っていたしね、と付け加えるリキート。な、なるほど? まあ、俺がリキートが皇国の貴族って気が付かなったのと同じ、だよな。

「家でいろいろとあって、こうして逃げてきたわけだけど。
 でも、ハールが皇国に帰るなら一緒に行きたいって、そう決めてきたんだ。
 決心するまでずいぶんと時間がかかっちゃったけれど」

「あの、待ってください。
 つまり、リキッドレート殿も一緒に行くのですか? 
 あなたはあれらが嫌になって国を出たのでしょう?」

「はい……。
 だから、リキッドレート・アベニルスではなく、ハールと同じパーティのリキートとして戻りたいんです」

 なんて勝手な、とつぶやくリヒトはとうとう頭を抱えている。大丈夫か、リヒト。


しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...