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4章 皇国
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しおりを挟むあまり迷う必要はない。俺はすぐに返事をすることにした。
「皇国に行きます」
「本当にいいのですか?
これが最後の機会ですよ」
「惑わせるようなこと言わないでよ」
「あ、すみません」
すみませんって。うん、でもよかったかもしれない。改めてどうするか選ぶことができて。俺は誰かに強制してじゃなくて自分で選択して動いているんだって、よくわかる。
「では、そうしましょう。
詳しい話は皇国への道すがら話します。
もう出れますか?」
そうと決まったら行動が早いんですね、いや、まあもう出れるけどさ。でも出る前にリキートとフェリラには声かけていきたいかも。もう会うことはないだろうから、最後に声くらいかけていきたい。
「ここを発つ前に会いたい人がいるんだ」
「会いたい人、ですか?」
「うん、ここで一緒に行動してくれた人たちなんだ。
彼らのおかげで、俺はここを目指せたから」
リキートが養成校を目指すとか言っていなかったら俺は王都を目指すことも、サーグリア商会に再会することも、自分と向き合うことも、きっとなかったから。それにちゃんと学ぶことも。だから感謝しかない。
「わかりました。
呼んでもらいましょう」
呼んで、うん、そうなるか。偉そうで申し訳ない。じゃあ、とリヒトが立ち上がったその時。なんだか騒がしい声が聞こえてくる。何事だ、と互いに顔を見合わせる。少しして乱暴に部屋の扉が開けられた。
って、リキート……? あ、なんだかフェリラの声もする気がする。
「ハール!
よかった、まだいたんだね」
「え、あの、リキート……?
なんでここに」
「おい!
勝手に入るんじゃない!」
後ろで声が上がる中、リキートは部屋に入った途端に足を止めて目を見開く。その視線の先にいたのはリヒト? 見るとリヒトの方もリキートに視線が固定されている。
「リキッドレート殿……?」
「り、リヒベルティア殿?」
……え? えっと、どういうこと? リキッドレートってだれ? それに、リヒベルティアって、リヒトの名前だよね。なんでリキートが知っているんだ。だめだ、何一つわからない。
---------数分後---------
よ、ようやく少し落ち着いた。リキートが乱入したときに、リキートやフェリラを止めようと追ってきた兵を説得、お引き取りを願った。そして、リキートとフェリラをとりあえず部屋の中に入れてお茶を用意してもらい、現在に至る、と。
「ごめん、最初から説明して?」
「それはこっちが言いたいことなんだけれど……。
あ、これ。
先生から預かってきた」
ひょい、と渡されたのはCランクとなったギルドカード。おお、今までとは色が違う。って、これを本人に渡さずにリキートに渡したのかよ。確かに同じパーティではあるけれど。まあ、ありがたくいただきましょうか。
「ありがとう。
……で?
リキッドレートっていったい誰のことだ」
「うっ。
いや、一緒に行くって決めた以上ばれるのは当たり前だけれど。
でもまさかこんなにすぐばれるなんて、心の準備が」
なんだかひどく混乱しているね。フェリラは、と見てみるときょとん、というか平然と言うか、とりあえずあんまりよくわかっていないのはわかった。
「あの、なんだか余計なことを言ったみたいですみません」
「いえ……。
えーっと、うん、もういいや。
僕だって、わかっていて来たし」
なんだかまだ混乱中みたいなので、落ち着いているように見えるフェリラの方を見る。もしかしたらここに来る前に何か聞いているかもしれないしね!
「ねえ、ハール。
ハールって皇子様、なの?」
「うぇっ!?
え、うん、そうだけど、急になに!?」
は、話しかけようとしたところを逆に話しかけられるとこうもびっくりするのか。それに急に皇子って言われるとは。
「じゃあやっぱり、リキートの言っていた通りなんだ。
国に帰るの?」
「う、うん、そのつもり」
「それ、あたしたちもついていくよ」
……え? いや、そんないい笑顔であっさりと言われても。ついていくっておかしくないか? だって、みんなはそれぞれやりたいことがあって、ここにきた。自由を、手に入れたくて。でも、俺についていくってことはせっかくの努力を無駄にするということ。
それなのに、そんなあっさりと。
「あー、もう言っちゃったのか。
まあ、僕もだいぶ混乱していたから助かったけれどさ。
……あのさ、前に僕がもともと貴族の出だって言ったよね」
「ああ、うん、言っていたね」
「その、僕の実家ってアベニルス家、なんだ。
僕の本名はリキッドレート・アベニルス」
知っている? とこちらを見るリキート。いや、俺が知っているのはせいぜい皇国の……、アベニルス?
「それって、もしかしてアナベルク皇国の、アベニルス公爵家……?」
嘘だろ、という気持ちが隠し切れなくて、どうも言葉が途切れる。俺は知識としてそういった公爵家の名前とかを知っているだけで、実際に会ったことはない。それは、つまりお互い顔は知らないということで。だから全く気が付かなった。
「そう。
だからあのときに、大会の時にハールが皇子だってこともわかった。
消えた第七皇子の話も聞いたことがあったから、その人だろうって。
まあ、ならどうして今まで気が付かなかったって話かもしれないけれど、こんなところにいるとは思わないから」
孤児院出身だって言っていたしね、と付け加えるリキート。な、なるほど? まあ、俺がリキートが皇国の貴族って気が付かなったのと同じ、だよな。
「家でいろいろとあって、こうして逃げてきたわけだけど。
でも、ハールが皇国に帰るなら一緒に行きたいって、そう決めてきたんだ。
決心するまでずいぶんと時間がかかっちゃったけれど」
「あの、待ってください。
つまり、リキッドレート殿も一緒に行くのですか?
あなたはあれらが嫌になって国を出たのでしょう?」
「はい……。
だから、リキッドレート・アベニルスではなく、ハールと同じパーティのリキートとして戻りたいんです」
なんて勝手な、とつぶやくリヒトはとうとう頭を抱えている。大丈夫か、リヒト。
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