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4章 皇国
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しおりを挟む「あのですね、アベニルス公爵は未だにあなたを探しています。
あの弟君が公爵として領地を治められるわけがないでしょう?」
「でも、そんな弟を跡継ぎにすると決めたのは父上でしょう?
そのあたりは僕には関係ありません。
僕は、あくまでハールを支えるために行きたいんです」
譲らないリキートに、リヒトが深くため息をついている。さっきからなんだか心労が半端なさそうだけれど、大丈夫? ってさっきからそんなのばっかり。
「あのですね、あなたが国に帰ってきたら問答無用で面倒ごとに巻き込まれます。
もともと公爵家嫡男として、第一皇子にも顔を知られていますからね。
断言しましょう。
それでもいいというなら、帰ってきたらいいでしょう。
で、そちらの方は?」
諦めたようにリヒトが言い切る。そのあとにようやくフェリラの方に視線がいったらしい。まあ、リキートのことは俺もかなり驚いた。これからどう呼べば……?
「あ、あの、フェリラといいます。
リキートとハールと同じパーティに入れてもらっています」
「あの一応確認なのですが、あなたは皇国の人だったり、貴族だったり……」
「ない、ないです!
あたしは普通にこの国の平民です!
て、ていうか、あんたらが皇国の貴族と皇族って、そっちがおかしいからね!?」
もともと知っていたから今まで落ち着いていたようだが、唐突に話を振られたからかあー、もう‼ と叫びだす。もしかしたら俺が皇族だってことは知っていたけれど、リキートが貴族だってことは知らなかったのかもしれない。まあ、俺も公爵家だとは思っていなかったし。
そんなフェリラにリヒトがそっと肩に手を置いた。あなたの気持ちはよくわかりますって、いったいどういうことだ。
「はー、すみません。
えっと、あたしは村から出たくて、それでハールたちについていくことにしたので。
だからただの平民です」
「わかりましたから」
「あ、でもフェリラは治癒魔法が使えるよ。
後は弓が得意」
「治癒、魔法?」
こくり、とうなずく俺たち。あ、ふっと微笑みだした。もう知らないって顔している。まあ、確かに光魔法を扱える人は珍しいって言っていたものね。これ、俺も特殊属性を持っているだけは持っているって言った方がいいのか……? いや、でも今まで使ったことないし、ほぼ使えない魔力量って言っていたし、うん、言わなくていいか。
「えーっと、それで、結局三人とも皇国へ?
……いいのか、これ。
いや、まあどうにかならないことも、ない、よな?」
「僕たちも連れて行ってほしいです。
きっと役に立つでしょう?」
「役に立ってくださると?
あなたなら、この場にいる誰よりも状況をよくご存じでしょう」
「まあ、ある程度なら。
今どうなっているかは存じ上げませんが」
なら、いいでしょう、とリヒトが言う。なんだか話がついたみたい? 結局二人とも一緒に来てくれる……?え……?
「い、いや、そんなのだめだよ」
「ハールは、あたしたちが一緒に行くのは嫌?」
「いや、そういうわけではないけど、でも!」
「じゃあ、一緒に行かせてよ。
もともとのあたしの願いはさ、あんたたちと旅に出れた時点で叶っているから。
だから、今のあたしの願いは二人と一緒にいること」
にかっと笑うフェリラ。でも、そんなのは俺に都合がよすぎるよ。俺は二人と冒険者として活動する未来を、自分の都合で切り捨てたのに。それなのに、追いかけてきてくれる?
「そんな顔しないでよ。
僕たちは僕たちで望んでここにいるんだから。
それに僕だってきっといつかは向き合わなくてはいけないことだったんだよ。
だから機会をくれてありがとう。
冒険はさ、全部終わったら一緒に行こう」
「フェリラ、リキート……」
「……よし!
では決まりですね。
予定とは少々、いえ、かなり変わりましたがまあいいでしょう。
詳しい話は馬車でしましょうか。
もう出発できますか?」
「はい。
もともと荷物はそんなないんです」
「それは良かった。
少々お待ちください、馬車を用意してきます」
そういうと、リヒトは一度部屋を出る。改めて三人きりになったということだ。
「リキッドレートって……」
「ああ、僕の名前ね。
ハールも同じでしょ?
えーっと、確か第七皇子の名前は……、えーっと」
「スーベルハーニ、だよ。
俺の名前。
スーベルハーニ・アナベルク。
もう二度と名乗ることはないと思っていたけれど」
「そう、スーベルハーニ皇子!
噂程度にしか聞いたことなかったから、すっかり頭から抜けていたよ」
「そのまま忘れ去ってくれていてよかったんだけれどね」
「スーベルハーニとかリキッドレートとか、なんだか長い名前だな。
あたしはハールとかリキートの方がなじみがあるけれど、そう呼んじゃダメなのか?」
「僕のことはむしろリキートと呼んでほしいな。
あくまで別人と言い張りたい」
いや、それは無理だろう。顔ばれているって言っていたし、何よりリヒトがすぐに気が付いていたし。でも、今まで通りリキートって呼べるのは嬉しいかも。
「俺のことは、スーベルハーニなのかな?
一応皇子として戻るつもりだし」
「が、頑張る」
頑張る、か。まあ言い間違えられてもそこまで困ったことにはならないだろうからいいんだけれど。
「お待たせしました。
少々手狭ですが我慢してくださいね」
お、早かった。とうとう、出発、か……。
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