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4章 皇国
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さて、イシューさんたちとも別れた旅路は順調に進んでいく。この辺からはもう、栄えていることもあって基本野宿は回避。リキートはもう驚かないが、リヒトも安宿を気にしないらしい。とにかく空いているところを、と探して泊まっていた。
「なあ、一ついい?
あんたら、本当に貴族なんだよね……?」
清潔とは言えない環境の中、ためらいもなく部屋に入る二人を見て、ある日フェリラがそうつぶやく。いや、本当に。うんうんとうなずくと、なぜか呆れた目で見られてしまった。
「ハールもそれに入っているんだが?」
「え、いや、俺は孤児院でも長かったから。
でもこの人たち、一応公爵家の人間だぞ?」
お前は皇族だろう、とそんな目を向けられても知りません。でも、最初の方は平気そうな顔をしていても、どこか気づかわし気だったフェリラが本当に打ち解けてきたみたいだ。さすがに他人行儀だと寂しいし、ずっと気を張っていると疲れるだろうから、本当によかった。
「ほら、明日も移動なんです。
さっさと寝ましょう」
あきれ返ったようなリヒトの視線を受け、そそくさと布団に潜り込む。なんだか修学旅行みたい。そんな気持ちにもなってくる。リヒト、リキート、そしてフェリラ、三人のおかげで。
そして。
「ここが、皇国」
隣でゴクリ、と息をのむ音がしそうなほど緊張した顔をしているフェリラ。いやいや。
「ここはほかの国と変わらないだろう」
「いや、そうだけどさ」
俺たちの中にはリヒトがいる。だが、リヒトもここには秘密裏に来ている関係で、貴族として行き来はできないのだそう。そのため、偽名で取得した通行手形を使って手続きを済ませる。俺たちは、便利なギルドカードがある。それを使ってなんとか皇国へと入ることができた。
「なんだかようやく帰ってきた、という感じがするかも」
「本当はもう戻る気なんてなかったんだけどね」
ああ、本当に戻ってきたんだ。さっきフェリラにここは他と変わらないと言った。それは嘘ではない。でも。どうしてだろう。皇国に入った。そう認識しただけで、俺の心臓はバクバクと音を立てる。
「ハール……?」
ああ、大丈夫だって笑わないと。本当に何にもないんだ。それに、皇国に足を踏み入れただけでこれなのに、皇宮に行ったらどうなる? 不意に、手を暖かいものが包む。あれ、俺手が冷たくなっていた?
「大丈夫、大丈夫だよ、ハール」
手から、温かいものが体に巡っていく。固くなっていた体が感覚を取り戻していく。ああ、きっとフェリラが光魔法を使ってくれているんだ。俺、そんなにひどい顔している?
ふとリヒトたちの方を見ると、こちらを心配そうに見ている。……、うん、もう大丈夫。一人じゃないもんな。
「ありがとう、フェリラ。
もう大丈夫」
さあ、皇宮まであと少し。
皇国に入った後も馬車を進めていく。さすがにその日のうちにつくことはなく、そのあとも宿に泊まりつつ、皇都を目指す。そして、ようやく皇都へと。戻ってきた、帰ってきた、その言葉はあまりにも自分の心情にあっていなくて。
ああ、こうやって遠くからしっかりと見るのは初めてだ。こんな風に見えるのか、皇宮は。見た目だけは、きれいなんだな。
「さて、皇宮に行く前に私の屋敷に寄りましょう。
準備をしなければ」
「なんの準備?」
きょとんと首をかしげるフェリラ。そのやり取りにハッとする。さすがにこのまま行くのはまずいと言うのはわかる。が! どうしたらいいのか、実は何も考えていません。
「お二人は基本的に私の屋敷に滞在してもらいます。
そこから皇宮内のダンジョン討伐の隊に合流する、でいいですかね。
ああ、ひとまずリキート殿は髪を切りましょうか」
「え、髪?」
「少しでも印象は変えましょう。
それと、スーハル皇子は服装を整えなければ」
うへ―、今まで何気にきちんとした格好ってしたことないんだよね。ちょっと整った、くらいのがせいぜい。一体どんな格好を……。少し憂鬱になりながらも、ひとまずリヒトの屋敷に向かうことになった。
リヒトは以前は皇宮内の騎士団寮に暮らしていたはず。でも、今は屋敷に暮らしているのか。そんなことを考えつつ、馬車は屋敷へと到着した。
馬車が止まって少し。扉が誰かの手によって開けられる。
「おかえりなさいませ、リヒト様。
お疲れさまでした」
「戻った。
準備してもらいたいものがあるのだが……」
出迎えの執事さんに連れられて、リヒトが馬車を降りていく。俺たちはどうしたら、そう思っていると別の人が俺たちを案内してくれた。馬車を降りてようやく屋敷をしっかりと見ることができた。
う、うーん? 確かにでかい。だけど、正直もっとでかいと思っていた。あ、でも俺たちを堂々と誘えたってことは、ここにはおそらく家族はいない。別宅ということだろう。え、別宅でもこんなに大きいのか。
「さすが公爵家……」
思わず言葉が出てしまった。
「なあ、一ついい?
あんたら、本当に貴族なんだよね……?」
清潔とは言えない環境の中、ためらいもなく部屋に入る二人を見て、ある日フェリラがそうつぶやく。いや、本当に。うんうんとうなずくと、なぜか呆れた目で見られてしまった。
「ハールもそれに入っているんだが?」
「え、いや、俺は孤児院でも長かったから。
でもこの人たち、一応公爵家の人間だぞ?」
お前は皇族だろう、とそんな目を向けられても知りません。でも、最初の方は平気そうな顔をしていても、どこか気づかわし気だったフェリラが本当に打ち解けてきたみたいだ。さすがに他人行儀だと寂しいし、ずっと気を張っていると疲れるだろうから、本当によかった。
「ほら、明日も移動なんです。
さっさと寝ましょう」
あきれ返ったようなリヒトの視線を受け、そそくさと布団に潜り込む。なんだか修学旅行みたい。そんな気持ちにもなってくる。リヒト、リキート、そしてフェリラ、三人のおかげで。
そして。
「ここが、皇国」
隣でゴクリ、と息をのむ音がしそうなほど緊張した顔をしているフェリラ。いやいや。
「ここはほかの国と変わらないだろう」
「いや、そうだけどさ」
俺たちの中にはリヒトがいる。だが、リヒトもここには秘密裏に来ている関係で、貴族として行き来はできないのだそう。そのため、偽名で取得した通行手形を使って手続きを済ませる。俺たちは、便利なギルドカードがある。それを使ってなんとか皇国へと入ることができた。
「なんだかようやく帰ってきた、という感じがするかも」
「本当はもう戻る気なんてなかったんだけどね」
ああ、本当に戻ってきたんだ。さっきフェリラにここは他と変わらないと言った。それは嘘ではない。でも。どうしてだろう。皇国に入った。そう認識しただけで、俺の心臓はバクバクと音を立てる。
「ハール……?」
ああ、大丈夫だって笑わないと。本当に何にもないんだ。それに、皇国に足を踏み入れただけでこれなのに、皇宮に行ったらどうなる? 不意に、手を暖かいものが包む。あれ、俺手が冷たくなっていた?
「大丈夫、大丈夫だよ、ハール」
手から、温かいものが体に巡っていく。固くなっていた体が感覚を取り戻していく。ああ、きっとフェリラが光魔法を使ってくれているんだ。俺、そんなにひどい顔している?
ふとリヒトたちの方を見ると、こちらを心配そうに見ている。……、うん、もう大丈夫。一人じゃないもんな。
「ありがとう、フェリラ。
もう大丈夫」
さあ、皇宮まであと少し。
皇国に入った後も馬車を進めていく。さすがにその日のうちにつくことはなく、そのあとも宿に泊まりつつ、皇都を目指す。そして、ようやく皇都へと。戻ってきた、帰ってきた、その言葉はあまりにも自分の心情にあっていなくて。
ああ、こうやって遠くからしっかりと見るのは初めてだ。こんな風に見えるのか、皇宮は。見た目だけは、きれいなんだな。
「さて、皇宮に行く前に私の屋敷に寄りましょう。
準備をしなければ」
「なんの準備?」
きょとんと首をかしげるフェリラ。そのやり取りにハッとする。さすがにこのまま行くのはまずいと言うのはわかる。が! どうしたらいいのか、実は何も考えていません。
「お二人は基本的に私の屋敷に滞在してもらいます。
そこから皇宮内のダンジョン討伐の隊に合流する、でいいですかね。
ああ、ひとまずリキート殿は髪を切りましょうか」
「え、髪?」
「少しでも印象は変えましょう。
それと、スーハル皇子は服装を整えなければ」
うへ―、今まで何気にきちんとした格好ってしたことないんだよね。ちょっと整った、くらいのがせいぜい。一体どんな格好を……。少し憂鬱になりながらも、ひとまずリヒトの屋敷に向かうことになった。
リヒトは以前は皇宮内の騎士団寮に暮らしていたはず。でも、今は屋敷に暮らしているのか。そんなことを考えつつ、馬車は屋敷へと到着した。
馬車が止まって少し。扉が誰かの手によって開けられる。
「おかえりなさいませ、リヒト様。
お疲れさまでした」
「戻った。
準備してもらいたいものがあるのだが……」
出迎えの執事さんに連れられて、リヒトが馬車を降りていく。俺たちはどうしたら、そう思っていると別の人が俺たちを案内してくれた。馬車を降りてようやく屋敷をしっかりと見ることができた。
う、うーん? 確かにでかい。だけど、正直もっとでかいと思っていた。あ、でも俺たちを堂々と誘えたってことは、ここにはおそらく家族はいない。別宅ということだろう。え、別宅でもこんなに大きいのか。
「さすが公爵家……」
思わず言葉が出てしまった。
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