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4章 皇国
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ソファに目を向けると冷たく射貫くような皇后の目と、こちらを見つめてくる皇子が目に入る。ああ、よかった。今日は大丈夫そうだ。シェーベラントに促されて二人の前に跪く。今更こんなことに屈辱を感じたりはしない。
「お前が、例のものか。
ハール、といったな」
「はい、母上」
はい、と答えそうになったところに皇子の声が重なる。よかった、今ここで口を開いていたら何を言われたかわからない。
「面をあげよ」
言われてそのまま顔を上げる。ふ、と初めて皇后と眼があった。途端嫌そうに顔をゆがめる。
「ああ、そなたのような下賤なものがその瞳を継ぐとは。
古き血が、とは聞いてはいたが……。
まあ、よい。
そのものを従えてこそ、わが皇子の価値も増すというもの。
よく勤めなさい」
ああ、なるほど。どうして皇后が、俺がルックアラン皇子付きになることを許したのか不思議だったが、この瞳が原因か。くだらない。深く頭を下げて皇后の言葉に応えると、皇后はすぐに席を立った。不快なにおいが鼻をつく。
『今すぐに切り伏せたくなりますね』
『だめだよ、シャリラント』
『ええ、わかっておりますとも』
シャリラントの言葉に少し心が軽くなる。ああ、そうだ。俺にはいつもシャリラントが付いていてくれる。さて、と空気が切り替わる。皇后が部屋を出ていったことによって、顔を上げてもいいといわれた。
「侍従としての仕事よりもまずは皇宮の地図を覚えてもらわないとな。
ひとまず、今日はこれを見て学んでくれ」
そう言って渡されたのはかなり大きめの紙。いや待って。これを全部覚えるのは無理だって……。本当に広すぎる。戸惑っていると、まずはこの辺りを、と印を付けられた。午前中は覚えることに集中し、午後からは実際についていくみたい。
ひとまず先ほどの部屋で必死に地図をにらみつける。……あれ? どこにも私室の記載がない。さすがにそこまで不用心ではないのか。この地図を見ると主要な場所はわかるがそれだけだ。そうして地図をにらみつけたまま、時間はあっという間に過ぎていった。
「皇子の午後の予定は騎士団に顔を出したのち、皇后陛下のお茶会に顔を出される。
その際、我らは会話が聞こえないところで控えている。
それと、茶会に出る際は上着を着替えることになる」
早口で伝えられる情報を必死に頭に入れる。でもそこまで多くの予定が入っているわけではないから、ちゃんと覚えられそう。
「茶会の会場はどちらですか?」
「本日は重臣のみの茶会だ。
四阿で行われる」
えーっと、騎士団はあそこらへんで、四阿はあそこらへん? なんとか頭に叩き込んだ地図を思い浮かべる。いや、でもやっぱり歩いてみないとわからないか。しばらく地図を見ながらの行動でもいいとお許しをもらえたので、ありがたく地図を持ち歩きます。
「ルックアラン皇子、ようこそいらっしゃいました」
騎士団に着くとひとまず歓迎を受ける。そのまま、皇子は訓練に交じり始める。……意外と真面目にやっているのか。ガキンッ、と先ほどから重い打撃音が聞こえる。襲撃する際、あいつらを守る騎士にさえ注意しておけばいいと考えていたが、これは少し予想外だな……。今度シントたちに会ったとき、ルックアラン皇子をどうするのか相談しておいた方がよさそうだ。
汗をかいた皇子にタオルと水を差しいれて、そのまま皇子の居室に戻る。そして簡単な湯あみと着替えなど身支度を整えると次はお茶会に。ただひたすらに側に控えているだけだが、どうにも気分が悪い。何ともない皇后ならまだしも、ああして猫を被っている姿は生理的に受け入れられないらしい。すまし顔のまま、なんとかシャリラントと会話をすることで何とか茶会の時間を乗り切った。
そして部屋に送り届けると、交代で休憩を取ることになった。なるほど、この部屋はこういう休憩時にも使えるようになっていたのか。
「初日お疲れ、ハール。
難しいことはなかっただろう?」
「ええ、確かに。
ほとんど皇子に従っていただけですから」
「本当はもっとやることがあるんだが、まあ仕事量以上に侍従が付いている。
積極的にやってくれる奴にでも任せておけばいいさ」
「そういうものですか」
呆れた俺の言葉に、そうそうといううなずきが返ってくる。ただ立ち尽くすのも疲れるけどな、という言葉には同意だ。どうやら侍従の中には皇后に大きな借りがあるものもいるらしく、そういったものは役に立たねばと気を張っているらしい。だから、何か仕事があっても、そういう人が居れば任せるのかお互いのためだとか。そう言われたら従うしかないよね。
なんとか一日が終った……。気疲れもあるのだろう。思っていた以上にくたくただ。一緒に離れに帰ってきた人に部屋を教えてもらうと、倒れこむようにベッドにダイブした。どうやらここは一人部屋のよう。さすがに各部屋に一つ浴室が付いていることはないが、それでも下働き用と比べると何もかもがワンランク上、といった様子。
ベッドからぐるりと部屋を見渡すと、ようやく体を起こす。さっさとご飯を食べて、明日に備えないと……。
「お前が、例のものか。
ハール、といったな」
「はい、母上」
はい、と答えそうになったところに皇子の声が重なる。よかった、今ここで口を開いていたら何を言われたかわからない。
「面をあげよ」
言われてそのまま顔を上げる。ふ、と初めて皇后と眼があった。途端嫌そうに顔をゆがめる。
「ああ、そなたのような下賤なものがその瞳を継ぐとは。
古き血が、とは聞いてはいたが……。
まあ、よい。
そのものを従えてこそ、わが皇子の価値も増すというもの。
よく勤めなさい」
ああ、なるほど。どうして皇后が、俺がルックアラン皇子付きになることを許したのか不思議だったが、この瞳が原因か。くだらない。深く頭を下げて皇后の言葉に応えると、皇后はすぐに席を立った。不快なにおいが鼻をつく。
『今すぐに切り伏せたくなりますね』
『だめだよ、シャリラント』
『ええ、わかっておりますとも』
シャリラントの言葉に少し心が軽くなる。ああ、そうだ。俺にはいつもシャリラントが付いていてくれる。さて、と空気が切り替わる。皇后が部屋を出ていったことによって、顔を上げてもいいといわれた。
「侍従としての仕事よりもまずは皇宮の地図を覚えてもらわないとな。
ひとまず、今日はこれを見て学んでくれ」
そう言って渡されたのはかなり大きめの紙。いや待って。これを全部覚えるのは無理だって……。本当に広すぎる。戸惑っていると、まずはこの辺りを、と印を付けられた。午前中は覚えることに集中し、午後からは実際についていくみたい。
ひとまず先ほどの部屋で必死に地図をにらみつける。……あれ? どこにも私室の記載がない。さすがにそこまで不用心ではないのか。この地図を見ると主要な場所はわかるがそれだけだ。そうして地図をにらみつけたまま、時間はあっという間に過ぎていった。
「皇子の午後の予定は騎士団に顔を出したのち、皇后陛下のお茶会に顔を出される。
その際、我らは会話が聞こえないところで控えている。
それと、茶会に出る際は上着を着替えることになる」
早口で伝えられる情報を必死に頭に入れる。でもそこまで多くの予定が入っているわけではないから、ちゃんと覚えられそう。
「茶会の会場はどちらですか?」
「本日は重臣のみの茶会だ。
四阿で行われる」
えーっと、騎士団はあそこらへんで、四阿はあそこらへん? なんとか頭に叩き込んだ地図を思い浮かべる。いや、でもやっぱり歩いてみないとわからないか。しばらく地図を見ながらの行動でもいいとお許しをもらえたので、ありがたく地図を持ち歩きます。
「ルックアラン皇子、ようこそいらっしゃいました」
騎士団に着くとひとまず歓迎を受ける。そのまま、皇子は訓練に交じり始める。……意外と真面目にやっているのか。ガキンッ、と先ほどから重い打撃音が聞こえる。襲撃する際、あいつらを守る騎士にさえ注意しておけばいいと考えていたが、これは少し予想外だな……。今度シントたちに会ったとき、ルックアラン皇子をどうするのか相談しておいた方がよさそうだ。
汗をかいた皇子にタオルと水を差しいれて、そのまま皇子の居室に戻る。そして簡単な湯あみと着替えなど身支度を整えると次はお茶会に。ただひたすらに側に控えているだけだが、どうにも気分が悪い。何ともない皇后ならまだしも、ああして猫を被っている姿は生理的に受け入れられないらしい。すまし顔のまま、なんとかシャリラントと会話をすることで何とか茶会の時間を乗り切った。
そして部屋に送り届けると、交代で休憩を取ることになった。なるほど、この部屋はこういう休憩時にも使えるようになっていたのか。
「初日お疲れ、ハール。
難しいことはなかっただろう?」
「ええ、確かに。
ほとんど皇子に従っていただけですから」
「本当はもっとやることがあるんだが、まあ仕事量以上に侍従が付いている。
積極的にやってくれる奴にでも任せておけばいいさ」
「そういうものですか」
呆れた俺の言葉に、そうそうといううなずきが返ってくる。ただ立ち尽くすのも疲れるけどな、という言葉には同意だ。どうやら侍従の中には皇后に大きな借りがあるものもいるらしく、そういったものは役に立たねばと気を張っているらしい。だから、何か仕事があっても、そういう人が居れば任せるのかお互いのためだとか。そう言われたら従うしかないよね。
なんとか一日が終った……。気疲れもあるのだろう。思っていた以上にくたくただ。一緒に離れに帰ってきた人に部屋を教えてもらうと、倒れこむようにベッドにダイブした。どうやらここは一人部屋のよう。さすがに各部屋に一つ浴室が付いていることはないが、それでも下働き用と比べると何もかもがワンランク上、といった様子。
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