『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio

文字の大きさ
100 / 178
4章 皇国

36

しおりを挟む

 日が沈んだ後の広場。日中は自分たちを苦しめたかつての主君を一目見ようと訪れる民たちもこの時間にはほとんどいない。未だ新しい体制が整っていないながらも、騎士団から派遣された騎士が常に中央に鎮座するものを守っていた。

 皇宮内ではキャバランシア皇帝に付けるように言われてしぶしぶつけている護衛騎士も今はいない。そもそもシャリラントがいる時点で俺に護衛は必要ないのだ。

『本当にさらされているのですね』

『シャリラントとしては信じられない?』

『ええ』

 頭の中に響く声は嫌悪感を隠そうとしない。俺としても別に賛成しているわけでもない。だが、必要なことだと言われれば特に反対する理由もない。そう思っている時点でこの世界に染まってきているのだろう。

『それで、あなたが望んだ結果にはなりましたか?』

 望んだ結果……。俺は復讐を果たした、のだろう。あっけない、その一言しか浮かばない。まさか、あんな一瞬で終わるなんて。どうして、ずっと我慢していたのだろうか、なんて。幼いころの思い込みそのままに相手を過剰に強大にとらえていたのか、それとも思っていた以上に俺が力を付けていたのか。きっと両方なのだろう。

 あの時は、あんなに憎いと、敵と思っていたのに。今でもその気持ちは変わらないと思っていたのに。

『思っていたよりも、すっきりしませんでしたか?』

『シャリラントには全部ばれてしまうな』

 すっきり、という言葉が適当なのかわからないが、それ以外に当てはまる言葉も見つからない。でも、もっとそう、すっきりとすると思っていたのだ。これで皇国の影におびえることも、心の奥底に思いをしまいこむこともしないくていい。何よりも、母上と兄上の敵を取れた。それなのに……。ルックアランの最期が予想外のものだったからだろうか? 想像以上にあっけなく制圧が終ったからだろうか? 

『結局、あなたはどこまでも優しいのです。
 でもきっと。
 あなたの手でこれを成し遂げたという事実は大切なことです』

 そう、なのかな。

 何も言えないまま、ぼーっとその場に立ち尽くす。ああ、本格的に暗くなってきた。そろそろ戻らないと。

「ハール」

 ふいに、声が聞こえた。声が聞こえた瞬間、自分がその声を求めていたことに気が付く。振り返ると、こんな場にそぐわない表情をした2人が立っていた。

「リキート……、フェリラ……」

「ずっとこんなところにいたら冷えてしまうよ。
 もう皇宮に戻ろう」

「ああ、そうだな」

 ずっと一緒にいてくれた二人に会ったからか、なぜか涙がこみあげてくる。そんな情けない俺に近づくと、リキートはやさしく俺を抱きしめてくれた。

「……頑張ったね、ハール」

「り、リキート……」

「ハールが言っていた、やりたいことはちゃんとできた?」

「どう、なのかな?」

「どうなのかなって」

 ははっ、とリキートが優しく笑う。孤児院を出てから一緒に旅をしてきて。一緒に冒険者になって。リキートが、そしてフェリラが、こんなにも心休まる相手になるなんて全くおもってもいなかった。でも、2人の顔を見た途端、心が緩んだのは確かだった。

「母上も、兄上も、喜んで、くれるのかな……。
 俺のために死んでいった、2人は」

「僕はその方たちにお会いしたことがないからわからないけれど。
 でも、ハールがやると決めたことをやり遂げたなら、誇らしいんじゃないかな?
それが自分たちのためならなおさら」

「こんな、汚れた手で?」

「関係ないよ」

 だから、大丈夫。そう言ってくれる。いつの間にかフェリラもすぐそばにやってきていて、俺の背をなでてくれていた。なんとか我慢していたはずの涙はいつの間にかこぼれていた。


「ハール、大事な話があるんだ」

 あの後、皇宮に割り当てられている俺の部屋に戻ると、真剣な顔でリキートはそう切り出した。きっと、あの話だろう。視線で先を促す。

「僕は、公爵領を継ぐことにしたよ」

 そう告げたリキートの目はまっすぐで。もう一切迷っていないことがよくわかる。もともと、お家問題、と言えるものでリキートはここを出たのだ。それが解決したのなら元の座に戻るのは何もおかしなことではない。後継者になるための勉強もしていたみたいだし。祝福、しなくちゃ。わかっている。

「そっ……か。
 うん、それがリキートの、リキッドレートの望むことならいいと思う」

「ありがとう。
 でも、ハールは、フェリラは、これからもリキートって呼んでほしいな。
 僕も結局ハールのこと、ハールって呼んじゃっているし」

「うん、わかった」

 どうしても、返事が固くなってしまう。3人で一緒に旅に出よう。その話を一番初めに断ったのも、壊したのも俺だ。でも、この問題に片が付けばもしかして、なんて甘い思いが自分の中にあったと初めて気が付いた。

 そっけない言葉しか返せない俺に、リキートはさらに言葉をつづけた。

「ハール、君が僕を皇国に導いてくれた。
 僕よりもよっぽど過酷な過去があって、でもそれに向き合うことを決めた君に情けない僕は勇気をもらったんだ。
 君が居なければ、きっと一生目を背けていたと思う。
 だから、この出会いは運命だったんだって、今は胸を張って言える。
 僕は公爵になる。
 でも、ハールとフェリラ、3人で一緒に旅をしたリキートが消えるわけではない。
 いろいろと思うところも後悔もあるけれど、あのとき国を出て冒険者になることを決めた僕を、僕は誇りに思う。
 そして、ありがとう、ハール。
 これからもよろしくね」

 もう、ただの平民の冒険者だったころには戻れない。俺が戻れなくした。でも、リキートはまるで言い聞かせるようにそう言った。俺たちが冒険者を目指してした旅も経験も無駄じゃないって。皇国に戻ってきたのも間違えじゃないって。それに感謝をして、そしてこれから先もこの関係は続くんだって、そう言ってくれているんだ。

「うん……うん。
 これからもよろしくね、リキート」

「もちろん、フェリラもだよ!」

「うんっ!」

 ぎゅうぎゅうと、出会ってからこれまでしたこともないくらい強く3人で抱きしめあう。ああ、旅の途中で出会ったのがリキートでよかった。フェリラでよかった。何度も思ってきたけれど、今また心の底からそう思うよ。

 しばらくそうしてから離れると、リキートがそれと、と話を続けた。

「フェリラにも大事な話が、あるんだ」

 妙に緊張した面持ちで切り出したリキートに、フェリラと二人顔を見合わせる。どうやらフェリラにも思い当たることがないらしい。

 きょとんとする俺らをしり目にリキートはフェリラの前で跪いた。

「フェリラ、僕と結婚してくれませんか?」

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...