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6章 再会と神島
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しおりを挟む「あの、申し訳ございません。
あの方は力も人格もとても素晴らしい方なのですよ……?
神剣を賜っていないにも関わらず、マリナグルースと共にこの島の結界を支えている人でもあります。
まさに教皇にふさわしい方です。
ですが、今日は素でいらしたのであのような……」
部屋を出てすぐ、ティアナ様がそう言って謝ってきた。まあ、嫌な人ではなかったと思う。とても親しげにこちらに接してくれていたし。それにしても初対面の俺相手に素を出してよかったのだろうか。
「納得していないって顔しているね。
まあひとまず休もうか。
さすがに疲れてしまったよ」
「そうだな。
そうだ、歓迎の宴の時は俺も腕をふるうから楽しみにしておいてくれ」
「あ、ありがとうございます」
俺たちの話がひと段落したところで各々自分たちの部屋に戻ることになった。俺以外はこの本神殿に個室があるらしい。さすがだ。
「それではご案内しますね」
あ、忘れていた。話している間ずっと控えていてくれたようだ。すみません、と声をかけるとにこやかに笑ってお気になさらず、と言ってくれた。うーん、爽やかな青年といった感じだ。
案内された部屋は船の部屋を彷彿とさせた。もちろん全く同じなわけでは無いし、こちらの方が部屋が広く多い。だが、そのシンプルながらも気品ある室が船での部屋を思い起こしたのだ。
「すごいですね……」
思わずこぼれた言葉に案内をしてくれた人があなたはミベラの神剣の主様ですから、と口にする。ああ、なるほど。やはりここではアナベルク皇国の皇子であることよりもシャリラントの主であることが重要なのだろう。
「滞在中、何か御用がございましたら遠慮なくお申し付けください。
これと同じデザインの服を着ているものでしたら、誰に申し付けても大丈夫です」
「ありがとうございます。
あの、あなたの名前は?」
そういえばバタバタとしていて名前を聞けていなかった。知らないのも失礼かと思って尋ねるとえ、と小さく声が漏れる。
「あ、えっと、ユベリナ、と申します……」
待て待て。なぜそこでほほを染めるんだ。そんな変なことは聞いてないんだが。
「あの、どうかしましたか?」
「い、いいえ……。
まさか名前を聞かれるとは思っていなかったものですから……」
「聞かない方がよかったですか……?」
まさかここではむやみに人の名前を聞かない方がいいとかあるのか? それなら誰か教えてほしかったんだが。
「そんなことは!
ただ、わたくしのようなものにも気をかけてくださるとは思わなかったものでして」
「えーっと?」
自分のようなもの、と言われても、そもそもこの人がどういう立場の人なのかわかっていないからな。戸惑っていると、急にすみません、と青年が慌てだした。
「あまり興味がないかと思いまして、きちんと話しておりませんでしたね。
わたくしは最近本神殿に上がることが許されたものなのです。
位は助祭となっており、主に神殿での奉仕を行っております。
あ、でも、決してスーベルハーニ様のことをないがしろにしているわけではないのですよ⁉」
「いえ、疑ってはいないですよ。
ではよろしくお願いいたします、ユベリナ様」
「さ、様ですか⁉
い、いえ、いえ!
わたくしのことはどうぞユベリナ、と。
教皇猊下すらその名のみで呼ぶことを許されているお方に恐れ多い!」
助祭がどういう立場なのかよくわかってないし、ひとまずそう言っておこうくらいの軽い気持ちだったのにめちゃくちゃに恐縮されたんだが。一瞬少し、ほんの少し面倒と思ってしまったことはばれていないはずだ。
「それにわたくしに丁寧に話される必要もありません」
「わかった。
じゃあユベリナと」
「ええ、そのように。
では後程夕食を持ってまいります。
湯舟にはつかられますか?」
「あーつかりたいかな。
夕食後に準備をお願いできるか?」
「かしこまりました。
では、また後程」
深く頭を下げてユベリナは去っていった。なんかこっちが委縮しそうなくらいだったな。
ようやく一人になれて一息つく。ユベリナは立ち去る前に置いて行ってくれたお茶と茶菓子を楽しみながら窓の外を見てみる。そこからは本神殿下の町が一望できた。ここはかなりいい部屋なのだろう。
「きれいだな」
白亜の都、というには屋根がカラフルだが、壁は白さが目立つ。さすが神島といったところか。
「疲れましたか?」
「うん、そうだね。
……とうとう来てしまったんだね」
「実は、またここに戻ってくるとは思っていなかったんです」
「そうなの?」
「ええ。
またこうして、共にいたいと思える主に出会えると思っていなかったものですから」
「そっか」
一人ではここに戻らないつもりだったのか。結局ここに戻ってきたことがいいことなのかどうか……。いや、もうそんなことを言っても仕方ないか。
「今日はゆっくり休んでください」
「そうするよ。
船でもゆっくり休ませてもらったけれど、やっぱり常に揺れていたからね。
疲れがたまってたかも」
そんなことを考えていたら急に眠くなってきた。きっと緊張していたのもあったのだろう。夕食まで、そう考えながら俺はいつの間にか眠りについていた。
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