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1.5章 逃走
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しおりを挟むさて、国境に着いたはいいが、どうやってここを超えるか……。ばれたらまずい。それは確かだ。続々と国境を人が通り抜けていく。さすがに国境というだけあって、ここはかなり厳しい。他の町には特にそういったところはなかったのに。うーん。
仕方ない、勢いだ。並んでいる人の列、その合間を狙って。そうだな、あのおばあさんとかいいかもしれない。あのおばあさんが国境を通って、少し待つ。よし、今だ。
「まって、おばあちゃん!」
「え、あ、はぁ!?
おい、待て坊主」
「待ってよ!」
「おい!」
とにかく走る。追いつかれたらおしまいだ。今僕はおばあさんに置いていかれた孫!
「な、なんだったんだ、あのガキ」
「もうほっとけよ。
あのおばあさんの孫なんじゃないか?」
「でもなぁ」
なんかざわついているが、一応なんだったんだ、で終わってくれる? よかった、なんとかなったみたいだ。一息ついて、前を向く。ここが、アズサ王国。やっと、ここまで来た。そうだな、当初の予定通りオースラン王国を目指そう。
ここまで来たら、少しだけ安心。何かトラブルを起こさない限り、きっと隣国の皇族のことを知っている人はなかなかいないだろう。よし、歩こう。
それにしても、だいぶにぎやかだな。あっちの方ではどうやって国境を超えるかで精いっぱいだったけれど、確かにあっちもにぎわっていた。皇国とは言えさすが、というべきか。
ひとまず、何か食べられるもの。なんだか食べ物を求めてばかりだ。そろそろお金の残量を考えると、どうにかやりくりするべき、か? ……ああ、ここにも親子がいっぱいだ。皆、楽しそう。
「ん?
おい坊主、一人か?」
ひっ! 誰!? ぱっと振り返りながら、後悔する。目、開けたままだった。せめて、と慌ててフードを持つ。せめて紺色くらいに見えてくれ。
「ああ、驚かせて悪かったな」
「い、いえ。
一人、です」
本当に誰? ああ、失敗した。
「お前、名前はなんていうんだ?」
「な、まえ?」
「ああ。
名前くらいあるんだろう?」
なんでいきなり名前? 怪しい、怪しすぎる。それなのにどうして、こたえたいってそう思ってしまうんだろうか。
「ス、……、ハール」
とっさにスーと言おうとした口を閉じる。この名前は捨てないと、とっさにそう思ったから。思い出とともに捨てよう……。
それに少しでも気づかれる可能性を低くしたい。ここまでくれば皇国ほどは蒼の瞳が特別視されないだろうけれど、警戒はしとかないと。
これから先、ずっとそうやって生きていくしか……。
「お、おいおい、名前聞いたくらいでそんな顔しないでくれよ。
ハールだな」
よろしく、そういって差し出された手が、今の僕が持てる唯一のつながりのように見えて、思わず手を伸ばしてしまった。どうやらあまり気づいていなかったけれど、ここまでの旅で相当弱っていたようだ。
「それで、ハールはどこを目指しているんだ?」
「どこ……。
オースラン王国に行きたい、と」
「オースランか!
結構遠くを目指しているんだな。
でもちょうどいい。
俺たちもそこまで行くんだ」
乗ってけよ、にかっと笑うその人。え、何を言っているんだ、この人は? 僕と、一緒にって正気か?
「どうした?」
「え、いや、何を言っているんですか?
今あったばかりの人間と一緒に行くって」
「うーん、まあそうかもしれないが……・。
まあいいじゃねえか!
俺たち、サーグリア商団っていうのやってるんだ」
しょう、だん? 移動式の店、ってことだよね。
「な、来ればいいい。
俺はサーグリア商団長、バーレンだ。
よろしくな」
「バーレン、さん」
「おう!」
いいの、かな。この人に甘えてしまって。ここに来るまで、正直僕を探しているっていう話は聞かなかった。もちろん気は抜けない。気を抜いた瞬間に見つかっては意味がない。でも、でも。少しだけ、疲れてしまったのだ。一人で立っていることに。
「よろしく、お願いします……」
「よろしくな、ハール」
「はい」
頭……。今度は怖くない。うん、大丈夫だ。
「じゃあみんなに紹介するよ。
こっち来い」
い、いきなりだ! でも、こんな急に現れた僕のこと、皆さん受け入れてくれるかな?
「本当によかったのですか?」
いいからいいから、というバーレンさんに連れていかれた先。そこは商店だった。いや、確かに商団と入っていたけれど、てっきり馬車の前でやっているのかと。店構えている?
「あ、おやじ!
どこ行ってたんだよ!」
「わりぃ、わりぃ。
こいつ拾ってた」
ひっ、そんな雑な説明!? し、視線が怖い……。ああ、フードを握るのがすっかり癖になってしまった。
「いや、誰だ?」
「く、くく。
お前おびえられてんじゃねぇか」
「え!?
あ、ごめんな?
別に怒ってはいないから」
「あ、い、いえ……。
そのやっぱりご迷惑ですよね!?」
なんでのこのこついてきてしまったんだろう。きっとこの人だって本当についてくるなんて思っていなかったはず。
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待てって。
あー、とりあえずちょっと着替えるか」
「おお!
いい案だな。
捨てようとしてたケリーの服、ちょうどいいんじゃないか?」
「え、あ、ごめんなさい……」
どうしよう、猛烈に恥ずかしい。ずっと服変えていなかったし、体も洗っていない……。大丈夫、といってバーレンさんは僕の手を引いてくれた。
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