『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

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1.5章 逃走

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「ついでに風呂も行くか。
 大衆のところでいいか?」

 お風呂! 久しぶりに入りたいかも。もう体も相当汚れているし。……ってちょっと待って。お風呂ってことは素っ裸、だよね? つまり髪も目も隠せるものは何もない。それはまずい。ここはまだ国境を越えたばかりなのに。

「ご、ごめんなさい、お風呂はちょっと」

「お、そうか?
 じゃあ体ぬぐうだけにしとくか」

 あああああ、反応できないうちにどんどん話が進んでいる! って、いつの間にか服もある! え、えっとさっきの話的にこれがケリー、さんの服ってこと?

「ほれ、それ脱げ。
 後でうちのに洗ってもらおう」

「あ、フード……」

 どうしよう、フードを取るの怖い。顔、髪を隠せないのが怖い。これだけが今まで頼りだったのに。

「フードか?
 ちょっと待ってろ」

 え、あの、どこに? 本当にフットワーク軽い人だ。そして戻ってきたかと思えば、その手には今僕が来ているようなマントが。え、本当にあったの?

「この時期には暑いかもしれないが、まあ詳しくは後で考えよう」

「あの、悪いです。
 お金を!」

「ガキがそんなの気にしてんなよ。
 それにちょうど捨てようとしてたやつだし。
 ほれ、早く」

 ほらほら、とせかしてくる。ちょ、ちょっと待って!

うう、覗かないで、とか女子みたいなことを言ったら笑われた。でも、覗かねぇよ、と約束してくれたので良しとしよう。

 一度、兄上から託された剣を外す。受け取ってから初めて外したけれど、やっぱりこれ相当重い……。一気に体が軽くなったもの。っと、人が来ないうちに早く準備しないと。

 母上の時計も一度おいて、と。ああ、体をぬぐうだけですごく気持ちいい。それと髪もぬぐって、っと。ふう、一息付けた。ああ、わざわざ申し訳ない。でも、マント落ち着くな……。

 よし、これで大丈夫!

「すみません、お待たせしました!」

「早かったな。
 まあちょっとでかいが着れるだろう」

「あの、ケリー、さんとは?」

「ああ、俺の孫だよ。
 まあそのあたりの自己紹介は後でな」

 その時、きゅるるるる、とおなかが鳴る音が。まずい、僕の音だ。ううう、恥ずかしい。でも仕方ないじゃないか! さっきからすごくいい香りがしてくるんだ。

「は、はははは!
 腹減ったか。
 ちょうど夕飯時だもんな。
 もう少ししたら飯もできるだろう。
 少し待ってろ」

「あ、あの?」

 今さら遠慮すんなよ、と言われてしまえば強く言えない。どうしよう、僕によくしてくれすぎて、逆に信用していいのかわからなくなってきた……。いい人、ではあるんだけれど。

「お義父さん、夕飯できましたよ。
 あら、その子がシラジェが言っていた?
 よかった、ケリーの服着れたのね」

「おお、ありがとうな、ミグナ。
 そうだ、俺が連れてきた」

「ふふ、お義父さんはまた。
 初めまして、私はミグナというの。
 あなたのお名前は?」

 また人が増えた……。というか、どうしてこんなに怪しい僕を、この人たちは受け入れてくれるの? う、名前待ちされている。

「は、ハール、です」

「ハールね!
 よろしくね。
 さあ、夕飯を食べに行きましょう」

 さあさあ、と背を押すミグナさん。いや、自分で歩けるから!

「あれぇ、見ない顔っすね。
 あー、なんかシラジェさんが言っていたような?」

「おい、お前はもっと覚える努力をしろ!」

「えー、いいじゃないっすか」

 えっと、お取込み中でしたかね? なんか似た顔の人が言い争っている。兄弟、かな? あああああ、人の目がたくさん……。人見知りとかしない性格だったはずなのに、ここまでの旅ですっかりだめになっている。こわいのだ、本当に。

 興味、不審、蔑み、そんな目にばかりさらされていたら、こうなっても仕方ないってもうけれど。目を開けなくても、そういった負の感情の目にさらされているとわかるものなのだ。

 こうなってわかった。僕はあの離宮で、宿舎で、守られていたんだって。

「おーい、ハール?
 固まってどうしたの?」

「え、あ、いえ」

「おい、親父、もうこっち来てたのかよ」

「お前が最後だぞ」

「親父を探してたんだよ!
 お、ちょうどよかったみたいで何よりだ」

「バーレンさん、早くその子紹介してくださいよ」

「ハールだ!
 今日拾ってきた!」

「いや、なんだその説明は。
 ハール、本当にいいのか?
 親御さんとかは?」

 親……。ひたすら横に首を振る。口に出したくすらなくて、行動で示してしまった僕に。みんなは何も文句を言わない。

「父さん、その子一緒に行くの?」

「ケリー。
 まあ、本人が望むなら」

「! 
 やった!
 年が近い子!」

「はは、坊はずっと遊び相手欲しがってたもんな」

「無理に付き合わせたらだめだぞ」

 ああ、ものすごい会話量。だめ、まったくついていけない。

「ねえ?
 料理冷えるんだけど、食べる気ないってことでいいのかしら?」

「な、ナミカ!
 ちょっと待て、食べるから」

 くらくらしてきたところで救いの一声。皆すぐに目の前の料理に集中し始めた。ハールも、と勧められて座ると、すぐにおいしそうなスープが置かれた。これ、食べていいってこと?

「ほら、温かいうちに」

 ごくり、思わず唾を飲み込む。暖かい食事なんていつぶりだろう。固いパン以外の食事なんて、いつぶり?

 一口食べたら後はもう止まらなかった。スープにパン、サラダ、そしておかず。どれもこれもおいしいものばかり。

「そんなにおいしかったかい?」

 おいし、かった。暖かい料理ってこんなにおいしいもの、だったんだね。

「はは、作ったかいがあるね」


 食事が終わりひと段落。そうなると、当然また僕に注目が集まるわけでして。う、視線苦手……。

「さて、それじゃあ、新たな仲間に自己紹介といこう。
 俺はもうしているからいいだろ?
 シラジェからでいいだろ」

「あー、はいはい。
 ハール、俺はそこのお前を連れてきたやつの息子。 
 シラジェっていう。
 よろしくな」

「次は私ね。
 私はシラジェの妻、ミグナよ。
 次は、ほら」

 そういって少年の背を軽く押す。あ、ケリーさん、だよね。この服のもともとの持ち主。

「俺ケリーっていうんだ。
 年が近いやつ初めてで、すっごく嬉しい!
 よろしくな」

「よ、よろしく、お願いします」

「はは、固いなぁ。 
 いや、礼儀正しい、の方があっているかな。
 はじめまして、ブラサだ」

「俺、フィーチャっていうっす。
 よろしくな、ハール」

「俺はハミド。
 隣のこいつ、フィーチャの兄だ」

「次は私かしら。
 私はナミカ!
 よろしくね、ハール」

「俺は、グルバークだ。
 ミグナの兄、だ」

「あ、僕ウィリー、っていいます」

 名前がいっぱい……。僕、これ本当に覚えられるかな?それにしても、どうしてみんなこんな僕を受け入れてくれるの?

「ほら、そんな顔してるなよ。
 順番に覚えて行けばいいんだ」

「あ、ありがとうございます」

---------------------
「それで? 
  本当はどうしてあの子を連れてきたんだ?」
 
 「本当はってなんだよ」

 「なつかしいわ、お義父さんが私たちを拾ってくれた時のこと。
  私たちは知らなかったけれど、父が、知り合いだったのよね?」

 「ああ、そうだったな」

 「あの子も知り合いの子か?」

 「いや、違う。  
  だがよ、孫と同じくらいの子が、じっと親子を見てたんだ。
  一人でよ。
  俺は、なんだか放っておけなくてよ」

 「……なるほどなぁ。
  だが、あの子はなんだ? 
  どうしてあんなに人の視線におびえてる?
  フードを手放せないって……」

 「見守りましょう、今は。
  いつかあの子が心を開いてくれるように」
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