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2章 学園生活
105話 宿泊(1)
しおりを挟む「あのね、ウェルカ。
今日はこのまま王宮に泊まらない?
私の部屋の隣を使ってもいいと許可をいただいているから」
そろそろ寮に戻ろうか、と席を立ったタイミングでお姉様がそう声をかけてくる。私が王宮に泊まるとはどういうことだろうか。
「せっかくですが……」
「泊っていくといい。
もう準備はできている」
やんわりと断ろうと口を開くとすかさず殿下にもそんなことを言われてしまう。そうなると分が悪いのは私。特に強く断る理由もないのだ。
「泊って行ったらどうですか?」
そこでセイットにもそんなことを言われてしまう。なんとなくセイットがそんなことを言うのが不思議でそちらを向いてみると、思いのほか心配げな表情を浮かべていた。そこでお姉様と殿下の顔を見てみると、2人とも似た表情をしていた。
その理由はわからないけれど、なんとなくこれは素直に誘いを受けるべきだと、そう思った。
「では、そうします」
「ええ!
すぐに部屋に案内するわ」
私が返事をすると、お姉様は少し安心したように微笑んだ。そして殿下とセイットを残してその場を後にした。
そのまま案内された部屋は、お姉様が言っていた通りに宿泊する準備が整えられていた。そして部屋に入るとすぐにゆっくり休めるようにと、部屋着へと着替えることになった。本当に準備がいい。
それが終わると、またお茶を入れてくれる。どうやら先ほどとは違う茶葉のようだ。
「ねえ、ウェルカ。
今回は本当に大変だったわね」
一口、紅茶を口に含むとお姉様がそういいながら、また抱きしめてくる。その暖かさに、また気が緩むのを感じたけれどお姉様が部屋に戻られたら、もう何も気にしなくていいから。あと、少しだけ。
「もう、我慢しなくて大丈夫だから。
もう、安心して大丈夫なのよ」
無言でまた紅茶に手を伸ばした私をさらに抱きしめると、お姉様がゆっくりと言葉を紡ぐ。
『もう、大丈夫』。もう、気を緩めていいのだろうか。もう……。
「ウェルカ、よく頑張ったわね」
どうしてなのか、理由はわからない。それでもいつの間にか、私は泣いていた。
「怖かったでしょう?
急に戦いの場に放り込まれて。
次々とけがをした人が運びこまれてきて」
怖かった。そう、怖かったのだ。今まではずっとそんなことを言っている暇がないほどに怒涛で。帰りの馬車でも考えないようにしていた。
「しんじゃ、ったらどうしよう、って。
こわかった」
「うん。
よく頑張ったわね」
そうしてゆっくりとお姉様は頭をなでてくれる。それはとても久振りで、とても懐かしい感覚だった。お姉様にそうしてなでられるたびに無視をしていた感情が浮かび上がってきて、したったらずな言葉とともに涙を流していく。
お姉様は私がそのまま眠ってしまうまでそうして話を聞いてくれた。
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