上 下
139 / 193
2章 学園生活

139話 貴族へのお披露目(3)

しおりを挟む
「あ、ああ、あの、お父、様? 
 先ほどのは、いったい……」

 顔が真っ赤になってる、絶対! 慌ててお父様のほうを見ると、驚いたように固まった後に、嬉しそうに笑った。

「ああ、あとでわかるさ。
 でも安心したよ」

 何に、と問う前にまた別の人が挨拶にやってきた。さすがにお客様をお待たせするわけにはいかない。
 そのまま挨拶周りに忙殺されていると、疑問は頭の片隅に押しやられていった。



「お疲れ様です、ウェルカ。
 大変そうでしたね」

 ようやくひと段落し、お茶を飲んで休んでいるとどこからかセイットがやってきた。前回の領民へのお披露目もそうだったのだが、正確にはセイットはチェルビース公爵家の当主一族ではない。そのため、今回もお披露目の対象にはならないのだ。

「セイットも体験してみればいいのよ。
 もう全然顔も名前も覚えきれないわ……」

 これは今度会ったときにうっかり初めまして、と言わないように気を付けないと。後で招待客一覧を見せてもらおう、そんな決心をしているとセイットはくすくすと笑っている。

「私がこれをやることはありませんよ。
 それは神子の仕事ではありませんから」

「神子の、仕事ですか?」

 ええ、とうなずくけれどこれ以上しゃべる気はなさそうだ。そのまま隣り合ってお茶を飲んだり、お菓子をつまんだりしていると、こちらに近づいてくる人がいた。

「大丈夫、ウェルカ?」

「お兄様……。
 なんというか、大変です」

 それしか言えない。もうぐったりだ。

「っと、セイット殿もここにいたのですね」

 お兄様はセイットに今気が付いたようで、驚いたようにそういう。あれ? お兄様ってセイットにそういう言葉使いだったっけ。なんというかとても堅い。

「ええ。
 皆さん、気がいい人ばかりでとても楽しいですね」

「それは何よりです。
 ここに招待されているのは近隣の領主一族だったり、臣下一族だったりするので気心が知られていますから」

 にこやかに会話をしているが、どう考えても従兄弟という関係性ではない。そんなものなのかな。

「ウェルカ?」

 ぼー、と2人の会話を聞いていると、セイットが心配そうにこちらに声をかけた。いけない、いけない。

「なんでしょうか」

「ぼーっとしていたようだけれど、大丈夫かい?」

「はい」

「疲れたのなら中で休んでいるといいよ。
 もう挨拶は済んだんだろう?」

 一人だけ休んでいるのもどうかと思ってためらっていると、この後もまだ用事があるのだろう? と言われてしまった。用事、用事……。あ、ヴァーレクト様のことかな。

「そうですね、お言葉に甘えて休むことにします」

 お父様にも軽く声をかけると、それがいいと賛同してくれた。なぜか自室ではなく、応接室にいるように言われて、私はおとなしくそちらに向かうことにした。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

神の威を借る狐

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:2

ミルクティー・ホリデー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:0

私は皇帝の

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:31

お菓子店の経営に夢中な私は、婚約破棄されても挫けない!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:937pt お気に入り:1,455

転生したら魔王の専属料理人でした

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:12

処理中です...