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がちゃり、と扉が開く音がする。そして、お兄様が玄関へと入ってきた。先生にそっと背を押されて、私たちは兄様へと近づいた。
「兄様、お誕生日、おめでとうございます!」
「お誕生日、おめでとうございます!」
「え⁉
リステリア⁉
リテマリア⁉」
今日だけは令嬢らしくないけれど、兄様に飛びつきに行く。兄様は驚きながらも危なげなくぎゅっと抱きしめてくれました。さすが兄様。
「どうしたの、急に」
「兄様。今日誕生日ですよね」
「え、そうだけど……」
「だから、頑張って準備しました」
「主役にはこれをかぶってもらうのです」
先生に抱っこしてもらって、花冠を兄様にかぶせる。未だに驚いたままの兄様の顔、なかなか面白い。え、と口に出しながら手を頭にもっていくと、何かが載っているのはわかったらしい。それを外そうとされたので、慌てて止めましたとも。
「さて、兄様。
会場へと移動しましょう」
「う、うん」
ほらほら、とカイ兄様に背を押されて兄様が会場へと足を向ける。私たちもその後をついていくように歩き出す。
「これはまた、すごいね」
会場を目にした兄様にそう言われて、(主に使用人がだけど)準備を頑張ったかいがありましたとも。満足満足。って、まだ始まってもいないんだった。それにそう言えば兄様を驚かせることじゃなくて、喜ばせることが目的だった。
「兄様の誕生日を祝うために、準備したのです」
「喜んでもらえましたか?」
席に座ってもらって、にこにこと兄様に話しかけると、きょとん、とした顔の後でふわり、と笑みを見せてくれた。は、初めて見たかも、そんな笑顔。どうやらそれはカイ兄様や先生も同じだったみたい。
「アシェルタってそんな顔もできるんだな」
「おい、それはどういう意味だ」
「まあ、カイフェーズと同意見だな」
「先輩まで……」
そんな会話をしていると、食事が運ばれてくる。会話をしながら食べ進めていくと、途中であれ、と兄様が声を上げる。
「もしかして、僕の好物ばかりにしてくれている……?」
リテマリアと顔を見合わせる。ふふふ、と思わず笑みがこぼれてしまう。
「本当にありがとう、2人とも」
「兄様に喜んでもらえて嬉しいです」
食事も終わり、後はデザート。パーティーだったら一口サイズのものを数種類置くのが普通だけれど、これは身内のパーティー。その辺りは緩くてもいいということで……。兄様が好きなケーキを大きいサイズで作っていただきました!
数人で運んで来てもらったときの兄様の顔に、ついつい笑ってしまったのは許してほしい。驚かせたかったけれど、あんなふうに驚くなんて。今日は兄様の新しい顔をたくさん見れている気がする。
「これは、すごいな……」
「好きなもの、いっぱいだと嬉しいですよね」
「好きなもの、大きいと嬉しいですよね」
「うん、そうだね……」
さすがにかぶりつくのは……、ということで残念だけれど切り分けてもらう。このくらい食べたい! と伝えると、その大きさで切り分けてくれるので、皆それぞれケーキの大きさが違うのがまた面白い。そして食べようとしたところで、ようやく父様が到着した。
「遅れてすまない」
「い、いいえ。
まさか、このような身内のパーティーに父様まで参加してくださるとは。
お忙しいでしょうに」
「まあ、2人に誘われたからな。
……お誕生日おめでとう、アシェルタ」
「ありがとう、ございます」
「さて、ケーキを食べるのを邪魔してしまったようだな。
私にももらえるか」
父様、まだ夕飯を召し上がっていないのに、ケーキから? とちょっとだけ思ったけれど、きっとこれもケーキだけでも一緒に食べようという優しさなのだろう。父様の前にもケーキが置かれたのを見て、ようやく口に運んだ。
「おいしい」
「おいしいね」
私たちも食べたことがあるケーキだったけれど、今日食べたものはなんだかいつもよりもおいしい気がする。思わず頬を緩めていると、周りが少し驚いた顔でこちらを見ていた。
「リステリアも、ずいぶんと自然に笑えるようになったな」
「そ、そうですか……?
あまりまじまじと見られてしまうと、少し恥ずかしいです」
「ああ、これはすまなかった。
でも、嬉しいよ」
そ、そんな慈愛に満ちた表情でこちらを見ないでください。もっと恥ずかしくなるではないですか!
「に、兄様!」
「え、はい、何?」
もうケーキほとんど食べ終わっているし、いいよね! リテマリアの方を見ると、ちゃんと意図を受け取ってくれたようで、うなずいてくれた。よし、リテマリアからも許可は得た。と言うことで、侍女に視線を向けると心得たように目的のものを持ってきてくれた。
「リステリア?」
「兄様、私とリテマリアからのプレゼントです」
今日何度目かもうわからないけれど、兄様が再び固まる。
「え、これを僕に?」
「はい。
リステリアと一緒に買いに行きました」
「え、買いに?
って、屋敷の外に出てってこと?」
「はい!
父様に許可をいただいて、カイ兄様と先生と一緒に行きました」
「ほう……」
ちょっと兄様? どうしてカイ兄様をそのような視線で見ているのですか?
「2人に頼まれたんだよ。
お前の好みがわからないから一緒に行ってくれと。
プレゼントを内緒にしたいと言われたら、お前に言うわけにもいかないだろう」
「くっ、それでも一緒に出かけたかった……」
「兄様、私たちと出かけたいのですか?」
「ああ、もちろん」
ほう。ちらり、とリテマリアと顔を見合わせる。なら。
「今度一緒にお出かけしましょう?」
「兄様のおすすめの場所、連れて行ってください」
「!
うん、もちろん」
「え、父様は?」
「父様はお忙しいでしょう」
「大丈夫だ、仕事を調整する」
「いいえ、ぜひお仕事頑張ってください」
あのー、お二方。一体何を言い争っているのでしょうね? よくわからなくてカイ兄様の方を見ると苦笑いして首を横に振っていた。これは気にしなくてよさそうだ。
まあ、少し思わぬ方向ではあったけれど、楽しく誕生日パーティーを終えられて何よりです。
「兄様、お誕生日、おめでとうございます!」
「お誕生日、おめでとうございます!」
「え⁉
リステリア⁉
リテマリア⁉」
今日だけは令嬢らしくないけれど、兄様に飛びつきに行く。兄様は驚きながらも危なげなくぎゅっと抱きしめてくれました。さすが兄様。
「どうしたの、急に」
「兄様。今日誕生日ですよね」
「え、そうだけど……」
「だから、頑張って準備しました」
「主役にはこれをかぶってもらうのです」
先生に抱っこしてもらって、花冠を兄様にかぶせる。未だに驚いたままの兄様の顔、なかなか面白い。え、と口に出しながら手を頭にもっていくと、何かが載っているのはわかったらしい。それを外そうとされたので、慌てて止めましたとも。
「さて、兄様。
会場へと移動しましょう」
「う、うん」
ほらほら、とカイ兄様に背を押されて兄様が会場へと足を向ける。私たちもその後をついていくように歩き出す。
「これはまた、すごいね」
会場を目にした兄様にそう言われて、(主に使用人がだけど)準備を頑張ったかいがありましたとも。満足満足。って、まだ始まってもいないんだった。それにそう言えば兄様を驚かせることじゃなくて、喜ばせることが目的だった。
「兄様の誕生日を祝うために、準備したのです」
「喜んでもらえましたか?」
席に座ってもらって、にこにこと兄様に話しかけると、きょとん、とした顔の後でふわり、と笑みを見せてくれた。は、初めて見たかも、そんな笑顔。どうやらそれはカイ兄様や先生も同じだったみたい。
「アシェルタってそんな顔もできるんだな」
「おい、それはどういう意味だ」
「まあ、カイフェーズと同意見だな」
「先輩まで……」
そんな会話をしていると、食事が運ばれてくる。会話をしながら食べ進めていくと、途中であれ、と兄様が声を上げる。
「もしかして、僕の好物ばかりにしてくれている……?」
リテマリアと顔を見合わせる。ふふふ、と思わず笑みがこぼれてしまう。
「本当にありがとう、2人とも」
「兄様に喜んでもらえて嬉しいです」
食事も終わり、後はデザート。パーティーだったら一口サイズのものを数種類置くのが普通だけれど、これは身内のパーティー。その辺りは緩くてもいいということで……。兄様が好きなケーキを大きいサイズで作っていただきました!
数人で運んで来てもらったときの兄様の顔に、ついつい笑ってしまったのは許してほしい。驚かせたかったけれど、あんなふうに驚くなんて。今日は兄様の新しい顔をたくさん見れている気がする。
「これは、すごいな……」
「好きなもの、いっぱいだと嬉しいですよね」
「好きなもの、大きいと嬉しいですよね」
「うん、そうだね……」
さすがにかぶりつくのは……、ということで残念だけれど切り分けてもらう。このくらい食べたい! と伝えると、その大きさで切り分けてくれるので、皆それぞれケーキの大きさが違うのがまた面白い。そして食べようとしたところで、ようやく父様が到着した。
「遅れてすまない」
「い、いいえ。
まさか、このような身内のパーティーに父様まで参加してくださるとは。
お忙しいでしょうに」
「まあ、2人に誘われたからな。
……お誕生日おめでとう、アシェルタ」
「ありがとう、ございます」
「さて、ケーキを食べるのを邪魔してしまったようだな。
私にももらえるか」
父様、まだ夕飯を召し上がっていないのに、ケーキから? とちょっとだけ思ったけれど、きっとこれもケーキだけでも一緒に食べようという優しさなのだろう。父様の前にもケーキが置かれたのを見て、ようやく口に運んだ。
「おいしい」
「おいしいね」
私たちも食べたことがあるケーキだったけれど、今日食べたものはなんだかいつもよりもおいしい気がする。思わず頬を緩めていると、周りが少し驚いた顔でこちらを見ていた。
「リステリアも、ずいぶんと自然に笑えるようになったな」
「そ、そうですか……?
あまりまじまじと見られてしまうと、少し恥ずかしいです」
「ああ、これはすまなかった。
でも、嬉しいよ」
そ、そんな慈愛に満ちた表情でこちらを見ないでください。もっと恥ずかしくなるではないですか!
「に、兄様!」
「え、はい、何?」
もうケーキほとんど食べ終わっているし、いいよね! リテマリアの方を見ると、ちゃんと意図を受け取ってくれたようで、うなずいてくれた。よし、リテマリアからも許可は得た。と言うことで、侍女に視線を向けると心得たように目的のものを持ってきてくれた。
「リステリア?」
「兄様、私とリテマリアからのプレゼントです」
今日何度目かもうわからないけれど、兄様が再び固まる。
「え、これを僕に?」
「はい。
リステリアと一緒に買いに行きました」
「え、買いに?
って、屋敷の外に出てってこと?」
「はい!
父様に許可をいただいて、カイ兄様と先生と一緒に行きました」
「ほう……」
ちょっと兄様? どうしてカイ兄様をそのような視線で見ているのですか?
「2人に頼まれたんだよ。
お前の好みがわからないから一緒に行ってくれと。
プレゼントを内緒にしたいと言われたら、お前に言うわけにもいかないだろう」
「くっ、それでも一緒に出かけたかった……」
「兄様、私たちと出かけたいのですか?」
「ああ、もちろん」
ほう。ちらり、とリテマリアと顔を見合わせる。なら。
「今度一緒にお出かけしましょう?」
「兄様のおすすめの場所、連れて行ってください」
「!
うん、もちろん」
「え、父様は?」
「父様はお忙しいでしょう」
「大丈夫だ、仕事を調整する」
「いいえ、ぜひお仕事頑張ってください」
あのー、お二方。一体何を言い争っているのでしょうね? よくわからなくてカイ兄様の方を見ると苦笑いして首を横に振っていた。これは気にしなくてよさそうだ。
まあ、少し思わぬ方向ではあったけれど、楽しく誕生日パーティーを終えられて何よりです。
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