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2章 意外な出会い
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しおりを挟む「これで完璧です」
最後にぎゅっとのど元のリボンをアベルがしめる。その顔はどこか満足そうだ。もちろん今日もしっかりと眼帯をしています。準備が整ったということで鏡の前で一度くるりと回ってみる。今日は陛下に謁見するということもあり、いつもよりもかっちりとした服を着ることになったのだ。
胸元のリボンが目立つフリルのついたシャツに黒のシンプルなジャケット、半ズボン。シャツは置いておいてシンプルだからこそ生地の良さが目立つ。こういうの着ると、ああお貴族様なんだなー、とどこか他人事のように認識するはめになる。いや、ありがたいんだけれどね。
「玄関ホールの方へまいりましょう。
皆様お待ちですよ」
僕の準備が整ったのを確認すると、さっそくサイガが声をかけてくる。実はいまだにこの屋敷の見取り図を把握していないので、おとなしくサイガの後ろをついていかないと迷子にすらなる可能性があるのだ。
ホールに行くといわれた通りみんな待っている。皆公爵家へ行った時よりもかっちりとした服を着ているけれど、緊張はしていない様子。さすが慣れている。ちなみに、イシュン兄上たちは辺境伯家の本家ではないので、こういう時は一緒に行かないのだそう。久しぶりの王都ということで個々で出かけているらしい。
「お待たせいたしました」
「まだ鐘はなっていないから大丈夫だよ」
よかった。さすがにこれに遅れるわけにはいかないものね。それにしても……。
「もしかして、兄上の服は制服ですか?」
見覚えはないのだけれど、なんとなくそう思って聞いてみるとそうだよ、と返される。こういう場にも着ていけるって便利だ。
「かっこいいです!」
「ありがとう」
ふふ、とほのぼのしているとカーン、と鐘の音が聞こえてきた。結構ぎりぎりだったみたい。
「行くか」
「はい」
どんなに近くても移動は馬車で。そんな面倒なしきたりを守り、もちろん馬車に乗りこみます。母上が乗り込むときに自然にエスコートをする父上、さすがです。乗るときにおお、と感動してみていると、なぜか降りるときに兄上が手を差し出してくれた。いや、やってほしくて見ていたのではないよ⁉
すでに国王様は謁見の間にいるようで、王宮に着くとすぐに謁見の間に通される。ちょっと待って、こう心の準備の時間とかないかな!! もう少し時間あると思っていたから、急にお会いできることになって緊張しないわけがない。というか大分今更だけれど、お披露目の前にこうしていろいろ顔を出していていいのか? 現実逃避したくていろいろ考えていると扉が開かれる。はい、諦めます。
中に入ると、前を見ないようにして父上の後ろをついていく。そして父上に合わせて膝をつき、頭を下げる。このまま声がかかるまで下を向いていればいいんだよね。
「よく来た、カーボ辺境伯よ。
みな顔を上げよ」
その言葉を受けて、ゆっくりと顔を上げていく。よし、これであっているはず。そしてそのまま国王様の言葉を待つ。
「息災だったか?」
「はい。
陛下も息災なようで何よりです」
父上の言葉に嬉しそうにうむ、とうなずく。もう見ていいよね、と陛下の方に視線を向けると、思っていたよりも若々しい方がいた。細められた黄の目はとても優し気で、今まで緊張していた体からようやく力を抜くことができた。
「そちらのものが末の息子か?」
気を抜いていたら急にこちらに話が振られたので、思わず肩がびくりと揺れる。やってしまった。けれど、誰もそれを責めないでくれたので助かりました。
「アラミレーテ・カーボと申します」
そうか、とうなずくとこちらの方をじっと見てくる。これはやっぱり怒られるのかな……。思わずびくびくしていると、くくっとかすかな笑い声が漏れ聞こえてきた。
「そのようにおびえなくともよい。
何もせぬよ。
そうか、話には聞いていたが、本当にナルヘーテの子はすべて宝石眼なのだな」
そうか、僕の目を見ていたのか。そう納得していると、父上がそうですね、と答える。
「そなたとフェルシアの子なら、と思ってはいたが予想以上だ。
それに、まさかアラミレーテのような眼の子が生まれるとはな」
その言い方に、この人はきっと僕がオッドアイなことも、色が赤と青のことも知っているのだと思った。ほかに聞いている人がいることを考えて少し濁してはいるけれど、きっとそういうことだ。それに、その言い方だときっと多くの人は、『そういう』のことを隻眼だととらえるのだろう。現にその発言の後、なんだか同情めいた視線が向けられているし。
「そう、ですね」
「ぜひ、息子の相手となってくれ」
「はい、喜んで」
「それにフェルシアはまたなかなか面白いことをしているそうだな。
妻がそなたのところでドレスを頼みたがっていたぞ」
「光栄なことです。
後ほどご挨拶にまいりますわ」
「ヘキューリアは、なんでも学園で優秀な成績を残しているそうではないか。
そろそろ連れ添う相手は決めたのか?
年頃のご令嬢はソワソワしているだろうに」
「もったいないお言葉です。
相手は、今は……」
次々と声をかけていく国王様。お忙しいはずなのに、一人一人をちゃんと把握しているってすごいよね。そっか、それにしても兄上はまだ婚約者も決まっていないものね。でもいずれは結婚していくのか……。
「では、辺境伯はまたあとでな」
一通り声をかけ終わると下がってよい、と言う。それに従って僕たちは謁見の間を出た。
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