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文化祭編
sideレイヤ: 敵にまわしてはいけない人たち
しおりを挟む「ーーさぁ…て………」
思ったより低い声が出て、場の空気が一気に変わった。
「随分舐めたことしてくれてんなぁ、こいつ」
腕の中でスヤスヤ寝息をたてている存在をあまり揺らさないようにして、テーブルの写真を手にとる。
「クスッ、えぇ本当に。何かあるとは思っていましたが、まさかここまでだったとは……」
「いやぁ……俺のクラスの生徒にここまでする奴は初めてだな」
「これは、許せませんねぇ……」
「……チッ」
それぞれが、ハルが寝たのをいいことにそれまで隠していた苛立ちを見せ始めた。
「ってか本当量がえげつねぇな、これ」
「1000枚超えてるんでしたっけ、確か」
「…小鳥遊くんにこれだけの写真を送りつけるなんて、相手は何を考えているんだか……」
「……それだけ、ハルに執着してるってことだろ」
「この写真が、それを表してますね……」
月森が手に取ったのは、文化祭のクラスの出し物で着る衣装合わせをしていた時のだろうか…ハルが着替えている様子を事細かに撮っている写真。
「それはやべぇな……くそ、もっと他の教室使うよう指示出すべきだったか」
「上半身裸のドアップ…これは、いけませんねぇ……」
ーーそれは恐らく、ハルはこのストーカー野郎に:そういう目|で見られているという事。
「っ、くそが……っ!」
その事実に、どうしようもなく腹が立った。
「……んん…ぅ………」
「っ、龍ヶ崎、ハル様が起きますよ。抑えてください」
腕の中のハルが身動ぎし始めて、腕の力を抜いて動きたいようにさせてやる。
それから、もう一度きつく抱きしめた。
この小さい身体で、これだけの写真を撮られるという感覚に1人で耐え続けて、倒れるまで悩みまくって……
(相当怖かっただろうな、これは……)
そりゃ飯も喉を通らねぇし寝れねぇよな。
ごめんな、気づかなくて。
安心したように寝ているハルのまだ消えていないクマを、優しく撫でてやる。
「佐古、今日の迅速な対応に感謝する」
「……別に。俺はやるべき事をしたまでだ」
「ふふふ。佐古くん、本当に有難うございます。
ーーさて、どうしてくれましょうか………」
4人の視線が一気に俺へ向けられた。
「そうだなぁ…… 先ず、このクソ野郎は〝龍ヶ崎〟と〝月森〟に喧嘩を売ってるってことでいいよな、月森?」
「えぇ。月森として付いている:主人(あるじ)にこのような行為をするとは…… 正直、これ程までの屈辱を受けたのは初めてですね。勿論、全力で追い詰めさせていただきます」
「俺も、龍ヶ崎としてこれ程の事をしてくれたのは許せねぇ」
勿論、婚約者としても、だ。
「…まぁ、この学園に我々の家を知らない者はおりませんし、恐らく犯人は、ハル様に夢中で判断が鈍っている可能性があるかと」
「恋は盲目ってやつか……? くそっ、腹が立つな本当」
ーー嗚呼、許せねぇな。
「おい、佐古。お前は丸雛と矢野元にこの件を共有しろ。写真にあいつらも写ってるし、もしかしたら何か気づいてる可能性がある」
「チッ、言われなくてもそうする」
「月森は星野に共有しろ。それからお前らの親衛隊をいちから洗い流せ」
「えぇ、先ずは身内から疑ってまいります。それから他の親衛隊を調べます」
「教師陣は俺に任せろ。小鳥遊の話によると、体育中の1人で生徒会室にいる時間にも手紙が挟まれている。授業中に仕組まてるんじゃ、教師側も疑っていくしかねぇ」
「教師以外の先生方に関しましては、私が。シェフやコック・庭師・清掃員・警備員…全ての役職を調べ上げましょう」
「えぇ頼みます。梅谷先生、櫻さん。 俺は生徒会長として、全学年を見ていく」
佐古の人選は、素晴らしい。
ハルが佐古のことをよく褒めるのが理解できる。
学園の生徒から先生方まで、ここにいる5人で全てを網羅する事ができる。
「明日は土日だから学校は休みだ。何か予定のある奴はいるか」
「特にありませんね」
「寧ろこっちが優先だな」
「えぇ、私もこちらの方が大切です」
「……特にねぇ」
「よし。それじゃあ、明日明後日は各自都合のいい時間帯に俺の部屋を訪ねろ。この休みで調べ上げるぞ」
この大量の写真。
こんだけあれば、何処かに必ず犯人へと繋がるヒントがある筈だ。
それを、徹底的に洗い出す。
「佐古はハルが起きてからでいい。来れそうならハルも連れて来い。きついだろうが、こいつにはまだ訊きたい事がある」
「……あぁ、分かってる」
腕の中にある頭をそっと撫でた。
(ごめんなハル。辛いかもしれねぇが、もうちょっと話聞かせてくれな)
「月森も、明日は星野を連れて来い」
「かしこまりました」
「丸雛と矢野元は、俺たちが連れて来てやるよ」
「ふふふ、明日は4人でまいりますね」
「分かりました」
(これで全員集合、だな)
こいつと関わりのある奴全員で、徹底的に調べ尽くす。
(待ってろよ、ストーカー野郎……)
俺は…俺たちは、
ーーーーお前を、絶対許さない。
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