上 下
5 / 38
本編

4

しおりを挟む





「アーヴィング様!」

「リシェ。休憩か?」

「はいっ」

運命の番を見つけてから、休憩時間は訓練場へ行くのが日課になった。
ちゃんと薬を飲んでるから倒れることはもうない。
けど、どうしても熱くなる身体はどうしようもない。

(やっぱり運命だから効きづらいんだろうなぁ)

アーヴィング様は僕より10歳ほど年上で、出会った日から少しづつ話してくださるようになった。
パドル様のもとで勉強してると言うと「あの人は厳しいだろ? 俺も入りたての頃よく怒られていた」と苦笑しながら教えてくれて。

今日も、近寄った僕の頭に大きな手が伸びてくる。
背が高いからかな? どうも頭を撫でるのが好きみたい。


「これから王妃様のもとへ?」


「あぁ。もう少ししたらな」


暫く城にいるらしい彼は、王妃様の護衛に任命された。
騎士団長で且つ鼻が効かないのは、自分の番を安心して任せるに適任だったらしい。

(いい、な)

僕もあなたと一緒にいれたらいいのに。

運命というのは確かにあるけど、日に日に惹かれてる自分がいる。
大きな手とか、優しい体温とか、低い声とか……
匂いだって落ち着くし、離れたくない程安心する。

そんな彼が護衛するのは別のΩ。
大丈夫。ちゃんと仕事だって分かってる。

けど……


「運命の番だ」と告げる気は、まだ無い。
パドル様は僕を王妃にするのを諦めていない。
そんな中告げて、もし何か大変なことが起きてしまったらーー


(っ、駄目だ)


不安が残るまま動くのは危険。
今、この国はとても大切な時。
我慢して、慎重に見極めてなくては。


「さて、もうひと試合してくる」

「見ててもいいですか?」

「勿論。リシェがいるなら勝たねばな」

「っ、ふふ、頑張ってください」

戯れでも、そんな言葉が嬉しくて。
今日も眩しいくらいにかっこいい姿を、眺めていた。







しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,041pt お気に入り:2,919

雑に学ぶと書いて雑学 ~昨日より今日の自分が少し賢くなるかもしれない~

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:4

『恋愛短編集①』離縁を乗り越え、私は幸せになります──。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,260pt お気に入り:310

初恋の思い出はペリドットのブローチと共に

恋愛 / 完結 24h.ポイント:674pt お気に入り:44

エリアージュの夕焼け色は、

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:12

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:207,307pt お気に入り:12,435

【完結】契約妻の小さな復讐

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,104pt お気に入り:5,879

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,653pt お気に入り:23,938

処理中です...