元カレに囲まれて

一条咲穂(花宮守から改名)

文字の大きさ
76 / 80
第5章 嵐

第5章 嵐 第5話

しおりを挟む
 翌日、金曜日の朝。和室で目覚めると、彼の姿がなかった。台所で、コトコト物音がしてる。時間は、私がいつも起きるのより十分遅い。大丈夫、出勤には間に合う。
 台所では、彼が鍋を見ながら新聞を読んでいた。エプロン姿の、かっこいい横顔。私の気配にこっちを見て、微笑んだ。先生、初めての恋人、お義父さん……今はもう、境目が見えない。
 背中から、抱き着いた。
「おはよう、衣純」
 新聞を畳んで、手を重ねてくれる。
「おはよ……恭一郎さん」
「うん」
 五年ぶりに、おはようのキス。夢じゃなかった。彼の唇も腕も、「衣純が好きだ」って叫んでる。昨夜言ってくれたことが頭の中に響く。「一瞬も、忘れられなかった」……それなのに、いいお義父さんを演じてくれていた。五年前、私にひと言も反論せず別れた。卒業式の日、「出会えただけで幸せだ」って……「俺はこの先もお前の味方だ。ずっとな」って、送り出してくれた……。五年分の彼を抱きしめたい。彼も貪るように寝起きの私をとろけさせる。あの頃より激しい。前は教師と生徒だったから、あれでも抑えていたんだと思い知らされる。恭一郎さん……恭一郎……あなたが好き――。
 熱い朝の挨拶は、鍋がタイマーで止まったことを機械の声が知らせるまで続いた。

 朝食は、野菜スープ、お粥と、フルーツにヨーグルトをかけたもの。お腹にも、気持ちにも優しい。ひと口ごとに、彼の愛情と執着を体に取り込む。彼の手で、私が作られていく。
 玄関へ向かう時、少しふらついた。
「送ってく」
「え……いいよ。お仕事、遅れちゃうでしょ」
「連絡入れるから大丈夫だ。俺が、その状態のお前を置いていけるとでも?」
「……じゃあ、頼っていい?」
「当たり前だ」
 倒れる前に、頼ってこい――彼の口癖。キスをしてから、玄関を出た。車は五年前と同じ。家族、だもん……おかしくないよね……。ぼんやりする頭で、窓の外を眺めた。ラジオが、私がいつも利用する路線が事故で遅延していることを伝えた。
 会社には、いつもより早く着いた。車を降りたのは、五十メートルほど手前。その頃には、気分はだいぶよくなっていた。
「どうもありがとう。行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる。気を付けてな。無理はしないこと」
「うん、行ってきます。……また夜にね」
「ん」
 眩しそうに見つめてくる彼を、車が見えなくなるまで見送った。
 
 電車の遅延は、いくつもの路線に影響を与えていた。今日は私が一番。みんなが来る前に、榊さんにメールを書いた。
『昨日は途中ですみません。元気に出勤してます』
 送信したところで、真が現れた。
「おはよう、衣純」
「おはよう」
 彼は、まじめな顔で私の頭を撫でた。
「昨日のことは聞いた。行き届かなくてごめんな」
「あ、うん。ちょっとショックだったけど、いろいろあるんだなーって思った」
 咄嗟に出た言葉はそんなのだったけど、真には伝わった。
「傍から見ればややこしいかもしれないけど、どれもお前がまじめに努力して掴んだ結果だから。単純なことなんだけどなぁ」
「ありがと。もっと頑張る」
「お前はすぐそっちに行く……」
「あ、そっか」
 軽く笑って、温かい視線を交わす。
「榊さんからすぐ連絡あって、知る必要のある人間にだけ簡単に伝わってる。お前にも状況聞くかもしれないけど、その時は俺が担当するから」
「うん、分かった」
 会社に出てくるのは、重い気持ちもあったけど、すでに対処が始まっていることに安堵した。私はまた、ひとつひとつの案件を丁寧にやっていこう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...