元カレに囲まれて

一条咲穂(花宮守から改名)

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第3章 王子

第11話

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「お疲れ」
 社に戻ると、真に迎えられてホッとした。ふわっと生まれる親密な空気。高校の同級生なのは、部署の人たちももう知ってる。おかげですぐ馴染めて、昔からの仲間みたいに受け入れてもらえた。
 王子の薔薇は、榊さんのアドバイスで隠さず飾ることにした。廊下の一角に花瓶を置かせてもらい、『担当 香原』とプレートを置いた。「きっと一本では済まないからね」って、王子の性格を見抜いてるなぁ。プレートは、王子が来訪した時、ほかの人が世話をしていると思って拗ねないように。
「香原さん、助かったよー。カリーダのトップと親しいなんて。ありがとね」
「いえ、そんな」
 声をかけてくれたのは、私より三年先輩の女性。
「たまたまですから」
「そのたまたまが、すごいのよ。ね、そのスカーフ素敵ね」
「ありがとうございます。母が就職祝いにくれたんですよ」
「そっかー。……ん? これってアメリカ限定販売の柄じゃない?」
「そうなんですか? 母は今、アメリカにいるもので。仕事の関係で」
 私は見ていなかったけど、雑誌で紹介されて話題になったデザインということだった。そこから話が弾んで、ほかの女性陣とも距離が縮まった。お母さん、ありがとね!
 薔薇のことも、王子のキャラをみんなが一発で理解するいい材料になった。誰でも見られるところに飾ったのがよかったみたい。榊さんがさらっと「ライトナー氏は、香原さんの旧知でね」と話してくれたから、それ以上は詮索されない。
 真とも王子とも、私にとって最高のタイミングで再会できたのかもしれない。それを計算していたのだとしたら、二人とも私に甘すぎ。

 午後の就業時間は、定時まであと一時間ほど。初日だからこれで早帰りしてもいいし、定時まで部署や社内の見学をしてもいいということで、後者を選んだ。
 最後の三十分は、教育係の真が社内を案内してくれた。彼の説明は、明確でわかりやすい。私が何に対して疑問を 抱くか、質問したくなるかを心得ているから、なおさら。
 落ち着くなぁ、真の隣。
 私が頻繁に出入りすることになる部署を、優先的にまわってくれた。それぞれの窓口となっている人たちにご挨拶できて、いい刺激を受けた。
「まあ、こんなとこかな。さすがに全部はまわりきれないから、また明日以降な」
「うん。ありがと」
 定時過ぎ、屋上の手前。ひと息入れて、彼はこのあと残業。「榊さんと働けるなら、何時間だって最高に楽しい」と、軽やかに言ってのけた。かっこいい、充実した表情。榊さんが大好きなんだね。
 困惑と衝撃と、みんなの温かい心をたくさん感じられた一日。夢のような日が、暮れていく。真は今、地球の裏側じゃなく、私のすぐそばにいる。同じ夕日を見てる。時が、繋がった。
 感慨を抱いて窓の外の雲を眺め、すぐ下の桜の枝に目を移した時、彼の声が完全に、同僚から双子に戻った。
「おばさん、アメリカにいるんだって?」
「うん」
「今は……衣純は、実家?」
「ん、そうだよ」
「懐かしいな……。でも用心しろよ。戸締りする前に、変なところで寝るなよ」
 うっ。そうだ、真にはまだ言ってなかった。本気で心配そうな顔されると、黙っているのもなぁ……。だからって、どう説明すればいいのよ!?
「あ、うん。実はね」
「ん?」
「お母さん、再婚して。私は今、その再婚相手の人と一緒に住んでるの」
 沈黙。
「あの……真?」
「その家族構成、おかしくないか?」
 おかしいよ。その通りだよ。
「そうかな?」
「そうだろ。その人、何で日本にいるんだよ。おばさんについていかなかったのか?」
「仕事の関係で」
「怪しい仕事してるんじゃないだろうな」
「ううん、物凄くまじめな仕事だよ。……真、顔が怖い」
 あと、近い。ほぼ、壁ドンなんですけど。
「衣純……」
 近い近い近いっ。
「どういう関係でも、どんなやつでも、お前を泣かせる男は俺が承知しないから」
「真……」
 鼻の頭がくっつきそう。
「いいか。一人で泣くなよ」
「何で、私が泣く前提なのよ……」
 息が止まる寸前。
『俺はお前をつかまえていたい』
『俺の未来探しが終わった時、また会えたら』
 会えたけど。再会一日目でこれはない! いや何日経てばいいってことじゃなくてっ。真も王子も、一人で決断していなくなって、それなのにどういうつもり!? 先生の行動力には負けるかもしれないけどっ。
 三人とも、何なのよー!?
 昨日からの、あまりといえばあまりな出来事の連続に、限界が近付いてる。真の指が、耳に触れた。頭に血が上った私は、非常に理不尽ながら、真を引っ叩きたい気持ちが込み上げてきて――。
 ヴーッ ヴーッ
「……あ」
 着信音。二人ともだ。
「榊さんだな。ごめん、行く」
「う、ん」
「気を付けて帰れよ。また明日な」
「うん……また、明日」
 駆けていく背中を見送り、壁に寄りかかって息を吐いた。
「危なかったー」
 私に届いたメッセージは、一人目の元カレから。
『明日の朝。大根の味噌汁と、ワカメと豆腐の味噌汁、どっちがいい』
「味噌汁ぐらい、作るのに」
 頬がほころぶ。私を甘やかすお義父さん。「ついで」なんて言ってたくせに、私が食べたいものを聞いてくれる。忙しいのに、「今年から早く帰る」とも宣言してた。「腹を空かせた子供がいまして」って言えばいいんだって。
「んー、これは謎かけ……」
『大根が安いんだよね? 鶏と煮たのも食べたいな』
 送信すると、体感一秒で返事があった。
『正解』
「ふふっ」
 榊さんと、真と、王子と過ごした一日目が終わり、天城恭一郎が待つ家へ帰る。幸せすぎて、スキップでもしたくなる。会社の中ではしないけど。みんなが元気に私の前に現れたことに感謝して、鞄を取りに行った。


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