元カレに囲まれて

一条咲穂(花宮守から改名)

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第4章 四つ目の恋

第7話*

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 向かったのは、彼が家に帰らない日に利用しているというホテル。シャワーを終えてベッドに行くと、彼は直前まで操作していたスマートフォンの電源を切った。入れ替わりに浴室へ行きながら、バスローブだけを纏った私の頬を撫でていった。
「綺麗だ」
 キュンと胸が鳴く。ベッドに座って天井を眺めた。シャワーの音。壁にくっついて設けられた机には、彼が唯一持ってきた荷物であるスマートフォン。このホテルのお得意様で、着替えやいくつかの私物をフロントに預けている。これが、竜司さんの日常なんだ。何年くらい、こういう暮らしをしているんだろう。
 好き、だけど。
 私でいいのかな。
 竜司さんは、私のどこが好きなんだろう。「同じ会社の中に君がいると思うと、元気が出るんだ」って言ってくれた。そこに自信をもっていいのかな。
「考え事?」
 深い声。静まり返った部屋の中では、小さくてもはっきりと耳に届く。私と同じバスローブ姿の竜司さん。吸い寄せられたように目が離せない。彼は明かりを絞り、私の隣に座った。手を握られて、指の先までドキドキする。その指が、交互に絡む。一本一本が密着して、熱を持ってくる。
「僕が君のどこを好きなのか、知りたい?」
「……顔に出てました?」
「うん。君のかわいいところ……凛としたところ……全部だ」
「んっ……」
 唇をなぞられてゾクゾクしている間に、抱きすくめられ、押し倒された。ローブの帯が解かれていく。下には何も身に着けていない。私の唇を食みながら自分のローブを脱ぎ捨てた彼も、同じ。たくましい体。バランスよく筋肉がついてる。羽のように触れる指先に、感度を呼び覚まされていく。
「あ、ぁんっ」
 ゆっくりと胸のふくらみを愛撫され、じんわりと濡れてくる。体の全てのラインを確かめて、自分仕様に作り変えていこうとするかのような抱き方。あくまでも優しい中に、仄暗い執着がこもってる。限られた時間の中、私を最大限乱そうとして、焦らしながら攻めてくる。恥ずかしくて、気持ちよくて、繋がる前から頭の中が真っ白になっていく。

「あ、あぁ――――っ……」
 もう何度目になるのか分からない絶頂に喘ぐ私を、彼は甘いキスで宥めた。舌先が触れ合い、何も考えられず絡め、吸った。
「君を愛してる……」
 ひとつになる直前、彼から初めて、直接的な愛の言葉が贈られた。
「私も、好き……」
 感じる私の表情を、声を、彼は一瞬一瞬楽しみながら入ってきた。竜司さんと、ひとつになれた……呼吸を合わせて、高みへ。「一緒に働いて、一緒に休んで。……一緒に、歩いていこう」って言ってくれた、彼の想いが伝わってくる。私を大事にしてくれる、あったかい、優しいセックス。この人となら、きっと――。

 体を重ねたのは、その一度きり。
 榊さんは海外展開のことで一段と忙しくなり、顔を合わせない日が増えていった。
 それでも、電話やメールはくれた。メールには、出先で見つけた花や、おもしろい形の雲、かわいい動物などの画像が添付されていた。何通かに一度、最後に「君に会いたい」と書かれていて、その一文を何度も読んだ。大丈夫。この恋は、育ってる。

 社会人として初めての夏休みは、先生と過ごした。ぴったり同じ期間に休みを取れるわけではないけど、ああ一緒に暮らしているんだなって、あらためて実感した。私が休みの間は、彼に代わって朝食作りを担当。お昼と夕食は、仲良く台所で並んで作った。
 お盆のお墓参りは、二か所。私のお父さんが眠る場所と……先生のご両親のお墓。
 彼のお父さんは、脳出血で三年前に他界。お母さんも、あとを追うようにして亡くなったそうだ。墓所は山の中。綺麗な景色が見渡せる。「天城家」と刻まれた墓石を洗い、心を込めて手を合わせた。
 長いこと、ご両親と話をしていた彼は、立ち上がって何かを言いかけた。
「俺に……」
「ん?」
 私も立って、彼が見ている方を眺めた。緑に囲まれた山間の町。
「兄貴がいるって、話したことあったっけ?」
「ううん、初耳」
 車のところまで下りながら、話してくれた。先生は、天城家の次男として生まれたこと。その後お兄さんが、叔父さん夫婦の家に養子として引き取られていったこと。
「叔父さんのところに、子供ができなかったから。二人目ができたらって約束していたらしい。俺は小さい時、よく熱を出してた。それで、丈夫な方が育てやすいだろうってことで、兄貴が」
「そう……」
「あいつ、父さんと母さんにこう言ったんだそうだ。『僕、叔父さんとこ行くよ。だから僕の分まで、恭一郎のこと、よろしくお願いします』って」
「すごい……大人」
「だろ?」 
 彼の顔には、最高の兄貴だ!って書いてある。
「あいつだって、小さかった。なのに俺のために、っておもちゃを全部置いていったんだ。持っていったのは、お気に入りの絵本を何冊か……それだって、母さんが持たせなければ置いてっただろうな」
「お兄さん……先生のこと、大好きなんだね」
 先生も、だよね。
 彼は光る青空を見上げ、過ぎた日を懐かしむようにした。厳しい暑さも、ここでは和らいで感じられる。
 先生のお父さん、お母さん、お兄さん。先生が今、私のそばにいてくれること……私と出会ってくれたこと、ありがとうって言わせてください。私のお母さんは娘から見てもかっこいい人です。一生懸命、生きてます。少々変わったところはありますけど、先生とはけっこう息が合っていると思います。末永く、よろしくお願いします。
 私の一方的な呼びかけに応えてくれたかのように、ふわっと風が吹いた。
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