新しい日を、君と

藤間留彦

文字の大きさ
7 / 22

第七話 春の雪③

しおりを挟む
 あまりの寒さに目が覚めた。嫌な予感がして、カーテンを開け放つ。

「雪……」

 すでに辺りの屋根や車、歩道には雪が薄く積もっていた。そういえば先週、安理《あんり》が季節外れの雪が降ると言っていた気がする。
 スマホでニュースサイトを開くと、「季節外れの雪 首都圏大荒れ」「午後からさらに風雪強まる予報」「電車の運休相次ぐ」など、不安を煽るようなタイトルが並んでいた。

 こんな天気ではどこにも出掛けられない。今日は大人しく家に居よう。
 冷蔵庫から冷凍ピザを取り出し、オーブンで温めながら、ふっと頭に浮かんだのは、安理のことだった。

 ──まさか、こんな日に店に行ったりはしないだろうな?

 毎週土曜日、私の誕生日まで欠かさず店に来ること。その時想いに答えるかどうかを決める。安理と交わした約束だ。
 しかし交通機関がまともに動いていないし、恐らく店も休業だろう。さすがに私も鬼では無いから、今日のような日に店に来なかったとしても文句はない。

 少々気掛かりだったが、読書をして時間を潰した。夕方になると風が強く吹き始め、ベランダの窓ががたがたと音を立て、窓の外は真っ白になっていた。

 久々にどこにも出掛けない土曜日を過ごし、日曜日の朝、日の出前に目が覚めた。「少々気掛かり」などと言ったが嘘だ。寝つきが悪く眠りが浅くなる程度には気になっている。

 ベッドから降りて窓の外を見ると、雪は止んでいて昨日の景色が嘘のように暖かく、空には薄い雲がかかっている程度で晴れのようだった。
 スマホの天気予報では、最高気温十八度と書かれていた。昨日は最低気温が氷点下二度まで下がっていたというのに。

 今日は店はやるのだろうか。寧ろ昨日は開いていたのだろうか。
 そういえば、バーに初めて行った日にSNSのアカウントがあるとマスターが言っていた気がする。フォローをしてくれと言われたが、SNSはやっていないからと断った。

 ネットでバーの名前と住所で検索すると、バーのSNSアカウントがすぐに出てきた。最新の投稿をチェックすると、昨日の19時過ぎに「雪のため、店は休業しています。誰も来ないとは思いますが念のため。マスターは雪掻きしに行ってきます」と投稿されていた。

 若者ならSNSで簡単にこの情報を見て行ってはいないだろう。そもそも電車が動いていないし、タクシーさえ捕まらないと予想できる。

 日が昇り、午後になって雪はほとんど解けてしまい、道の端に寄せられて山になった雪だけが残っていた。
 なかなか読書に集中できないまま、何度かSNSを見ていると、午後四時過ぎに「今夜は通常通り営業します。十九時開店です」と投稿されていた。

 日曜の夜には行ったことがない。しかしこのままでは落ち着かない。
 マスターが昨日店に雪掻きに行ったというなら、安理が来ていたかどうか分かるはずだ。それだけでも聞きたい。勿論来ていないと言われたとして約束を反故にしたとは思わないし、寧ろ安心するために聞きたいのだ。

 バーの開店時間に着くように服を着替えて家を出る。駅に着くと電車はまだ少しだけ遅延していたが、動いていたので問題ない。
 いつもの道を通ってバーに着く。店のドアの横に解けていない雪の小さな山が残っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

愛と猛毒(仮)

万里
BL
オフィスビルの非常階段。冷え切った踊り場で煙草をくゆらせる水原七瀬(みずはらななせ)は、部下たちのやり取りを静かに見守っていた。 そこでは村上和弥(むらかみかずや)が、長年想い続けてきた和泉に別れを告げられていた。和泉は「ありがとう」と優しく微笑みながらも、決意をもって彼を突き放す。和弥は矜持を守ろうと、営業スマイルを貼り付けて必死に言葉を紡ぐが、その姿は痛々しいほどに惨めだった。 和泉が去った後、七瀬は姿を現し、冷徹な言葉で和弥を追い詰める。 「お前はただの予備だった」「純愛なんて綺麗な言葉で誤魔化してるだけだ」――七瀬の毒舌は、和弥の心を抉り、憎悪を引き出す。和弥は「嫌いだ」と叫び、七瀬を突き放して階段を駆け下りていく。 「……本当、バカだよな。お前も、俺も」 七瀬は独り言を漏らすと、和弥が触れた手首を愛おしそうに、そして自嘲気味に強く握りしめた。 その指先に残る熱は、嫌悪という仮面の下で燃え盛る執着の証だった。 毒を吐き続けることでしか伝えられない――「好きだ」という言葉を、七瀬は永遠に飲み込んだまま、胸の奥で腐らせていた。

有能課長のあり得ない秘密

みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。 しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...