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第十一話 春の雪⑦
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「何が良かったんだ? 何も良くないだろう……!」
「え? だって俺、そうじゃなかったら、初日に振られてたんでしょ? 伊涼さんが今俺の目の前に居るのは、その嘘のおかげだもん」
笑みを浮かべる安理は、少し年齢よりも幼く見えた。そして、私に向ける眼差しは優しく温かだった。
「伊涼さんが嘘吐いてくれて良かった」
胸が締め付けられるようで、苦しい。罪悪感に苛まれている私に向けられた名田安理という男の言葉の優しさは、後悔と共に私のうちにあった秘めた感情を呼び起こした。
「君は……何故そんな風に思えるんだ。騙されていたのに」
「騙されてたなんて、大袈裟ですよ。俺、本当に毎週伊涼さんに会えて楽しかったし、誕生日に告白して恋人になって欲しいなって、ずっと想ってるんですから」
真っ直ぐに私を見詰める彼の目に偽りなどない。初めから、ずっとそうだったはずだ。一度もまともに安理を評価せず、斜に構えて見ていた私が恥ずかしい。
「……私は、裏表のない誠実な相手を最後の恋人にしようと思った。しかし誠実さを求める私こそ不誠実だった。最低だ。安理に想ってもらう価値はない」
誰かを信じることをせずに、あまつさえ嘘で相手を騙した。それに、先週私は「風邪を引いてダウンして来ないといい」などと酷いことを考えた。それが現実になった今、余りにも愚かな考えだったと自分の浅はかさに嫌気がさす。
「うーん、俺のこと随分高く評価してくれてるのは嬉しいですけど……でも、ぶっちゃけ昨日店に行ったのは打算ですよ」
「熱出したのは誤算ですけど」と言って安理は困ったように笑う。
「伊涼さんは真面目だから、俺が約束を破らない限り、付き合ってくれる気がしたんですよね。だから、この雪の中店に行ったって知ったら俺のこと見直すかなぁとか思って。マスターが来てくれてよかったけど、誰も来なかったらデンさん辺りに電話してたかも。証明してくれる人が必要だから」
打算だと言ったその内容は、少しも私の知る「打算」とは異なっていた。安理はこの約束を守って私に誠意を示そうとしただけだ。損はあっても、私がどう思うか次第で得にならないこともあり得るのだから。
「寒いわ傘は折れるわ、くたくたで家帰ったら熱出してるわ……最悪だぁって思ってたけど、今伊涼さんが俺の家に来て介抱してくれてるんだから、結果的にラッキーって感じです」
そう言って笑うと、再びうどんを食べ始めた。私は足元に落ちていた服を集めて、「洗濯しておく」と部屋を出る。
安理が何か言いたそうにしていたのが気になり、もしかしたら特殊な洗濯方法なのかと思い一応全てタグを確認したが、特に問題無さそうだ。
洗濯機を回して、脱衣所にあったタオルを一枚拝借して部屋に戻ると、安理がうどんを食べ終えてリンゴを食べているところだった。
「食べ終わったら解熱剤を飲んで。風邪薬も買ってきたから、熱が下がったら飲んでおくといい」
「はい、ありがとうございます」
食べ終えた食器をベッドサイドの棚の上に置いて、解熱剤を飲ませた。そして買ってきた保冷剤と冷却シートを取り出す。
平気そうにしているが、肩が下がり息が荒くなっていて、座っているのもつらそうだ。額に冷却シートを貼り、スポーツドリンクをコップ一杯飲ませる。
「え? だって俺、そうじゃなかったら、初日に振られてたんでしょ? 伊涼さんが今俺の目の前に居るのは、その嘘のおかげだもん」
笑みを浮かべる安理は、少し年齢よりも幼く見えた。そして、私に向ける眼差しは優しく温かだった。
「伊涼さんが嘘吐いてくれて良かった」
胸が締め付けられるようで、苦しい。罪悪感に苛まれている私に向けられた名田安理という男の言葉の優しさは、後悔と共に私のうちにあった秘めた感情を呼び起こした。
「君は……何故そんな風に思えるんだ。騙されていたのに」
「騙されてたなんて、大袈裟ですよ。俺、本当に毎週伊涼さんに会えて楽しかったし、誕生日に告白して恋人になって欲しいなって、ずっと想ってるんですから」
真っ直ぐに私を見詰める彼の目に偽りなどない。初めから、ずっとそうだったはずだ。一度もまともに安理を評価せず、斜に構えて見ていた私が恥ずかしい。
「……私は、裏表のない誠実な相手を最後の恋人にしようと思った。しかし誠実さを求める私こそ不誠実だった。最低だ。安理に想ってもらう価値はない」
誰かを信じることをせずに、あまつさえ嘘で相手を騙した。それに、先週私は「風邪を引いてダウンして来ないといい」などと酷いことを考えた。それが現実になった今、余りにも愚かな考えだったと自分の浅はかさに嫌気がさす。
「うーん、俺のこと随分高く評価してくれてるのは嬉しいですけど……でも、ぶっちゃけ昨日店に行ったのは打算ですよ」
「熱出したのは誤算ですけど」と言って安理は困ったように笑う。
「伊涼さんは真面目だから、俺が約束を破らない限り、付き合ってくれる気がしたんですよね。だから、この雪の中店に行ったって知ったら俺のこと見直すかなぁとか思って。マスターが来てくれてよかったけど、誰も来なかったらデンさん辺りに電話してたかも。証明してくれる人が必要だから」
打算だと言ったその内容は、少しも私の知る「打算」とは異なっていた。安理はこの約束を守って私に誠意を示そうとしただけだ。損はあっても、私がどう思うか次第で得にならないこともあり得るのだから。
「寒いわ傘は折れるわ、くたくたで家帰ったら熱出してるわ……最悪だぁって思ってたけど、今伊涼さんが俺の家に来て介抱してくれてるんだから、結果的にラッキーって感じです」
そう言って笑うと、再びうどんを食べ始めた。私は足元に落ちていた服を集めて、「洗濯しておく」と部屋を出る。
安理が何か言いたそうにしていたのが気になり、もしかしたら特殊な洗濯方法なのかと思い一応全てタグを確認したが、特に問題無さそうだ。
洗濯機を回して、脱衣所にあったタオルを一枚拝借して部屋に戻ると、安理がうどんを食べ終えてリンゴを食べているところだった。
「食べ終わったら解熱剤を飲んで。風邪薬も買ってきたから、熱が下がったら飲んでおくといい」
「はい、ありがとうございます」
食べ終えた食器をベッドサイドの棚の上に置いて、解熱剤を飲ませた。そして買ってきた保冷剤と冷却シートを取り出す。
平気そうにしているが、肩が下がり息が荒くなっていて、座っているのもつらそうだ。額に冷却シートを貼り、スポーツドリンクをコップ一杯飲ませる。
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