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最終話 気高き羊王と運命の番⑦
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風が頬を撫ぜるような感触に、重い瞼をゆっくりと持ち上げる。
「……アル」
俺を見詰めるその美しい生き物は、まるで全てを包み込むような慈愛に満ちた眼差しを向けていた。
風だと思ったものは、俺の頬を包むアルの手だった。
外はすっかり明るくなっていて、一日降り続いていた雨も上がっている。
「おはよう」
アルは目を細め、僅かに口角を上げて「おはよう、ロポ」と囁くように言った。
「っ……いっ、た……!」
身体を起こそうと上体を持ち上げた瞬間、下半身に鈍い痛みが走って思わず声が出た。
「ロポ……痛むのか」
そう言って俺の腰の辺りを擦るアルを、俺はぽかんと口を開けて見る。
今まで俺を一度も対等に見たことが無かったのに、俺を労わるなんて。あまりの変化に驚く。
しかし、「番」というのは、きっとそういう関係性であるべきなのだと思う。
「うん……ちょっと痛いけど、平気!」
アルを心配させまいと痛みに耐えながらベッドから降りる。そして足元に落ちていた服を拾い集める。もはやどれが自分のだか、生地や形が似ているせいでよく分からない。
と、自分の部屋に走ってくる足音が聞こえた。かと思うと、部屋のドアが激しくノックされる。
「ロポ! 起きているか? 陛下が何処にも――」
ドアが開いて、ちょうど正面に居た俺と目が合う。慌てた様子のスウードだった。そして、その後ベッドの方に視線を向けた瞬間、顔が硬直した。
「……申し訳ございませんでしたッ!」
と物凄い勢いでドアを閉め、スウードの足音は部屋から急速に離れていった、最終的に階段を下りて行ったのか、一切音がしなくなる。
「ぷっ……あはははっ」
顔を真っ赤にしてドアの向こうに消えたスウードを思い出して思わず噴き出してしまう。
「早く服を着て迎えに行ってやらねばな。しばらく戻って来そうにないが」
「ふふっ、そうだね!」
きっと朝食の準備が終わったから呼びに来たのだ。ドアの向こうから、スウードの淹れてくれる薫りのいい紅茶の匂いが漂ってきたから。
身体を拭いて服を着替えた頃、出入り口のドアの向こうに気配がしたので、戻ってきたスウードを広間に招き入れた。
スウードに事情を説明しようとしたけれど、「分かっているから大丈夫だ」と言われてしまった。番になったのだと、彼にはどうしてか分かったらしい。
「今夜、カーニバルの閉幕を告げる式典が宮殿で行われますが……報告は、大臣に任せる通例の形で宜しいでしょうか」
食事を終えた後、スウードがカップに紅茶を注ぎ、アルに尋ねた。
「カーニバルの最後に何を報告するの?」
「陛下と妃候補が番になったことの報告だ。宮殿の前の広場で行われる式典で、国民はその報告を待っている」
アルは紅茶を口に含んで、スウードの代わりに答える。
──宮殿。王様が本来住む場所で、八代目の王様からはこの塔に住むようになったと聞いた。Ωの発情期に伴う誘引によって、争いが起こってきたからだ。
「運命の番だったら、発情期のΩが近くに居ても平気だったりする?」
真っ直ぐにアルの眼を見る。アルは俺が何をしようとしているのか分かったのか、表情が曇り目を背けた。
「……アル」
俺を見詰めるその美しい生き物は、まるで全てを包み込むような慈愛に満ちた眼差しを向けていた。
風だと思ったものは、俺の頬を包むアルの手だった。
外はすっかり明るくなっていて、一日降り続いていた雨も上がっている。
「おはよう」
アルは目を細め、僅かに口角を上げて「おはよう、ロポ」と囁くように言った。
「っ……いっ、た……!」
身体を起こそうと上体を持ち上げた瞬間、下半身に鈍い痛みが走って思わず声が出た。
「ロポ……痛むのか」
そう言って俺の腰の辺りを擦るアルを、俺はぽかんと口を開けて見る。
今まで俺を一度も対等に見たことが無かったのに、俺を労わるなんて。あまりの変化に驚く。
しかし、「番」というのは、きっとそういう関係性であるべきなのだと思う。
「うん……ちょっと痛いけど、平気!」
アルを心配させまいと痛みに耐えながらベッドから降りる。そして足元に落ちていた服を拾い集める。もはやどれが自分のだか、生地や形が似ているせいでよく分からない。
と、自分の部屋に走ってくる足音が聞こえた。かと思うと、部屋のドアが激しくノックされる。
「ロポ! 起きているか? 陛下が何処にも――」
ドアが開いて、ちょうど正面に居た俺と目が合う。慌てた様子のスウードだった。そして、その後ベッドの方に視線を向けた瞬間、顔が硬直した。
「……申し訳ございませんでしたッ!」
と物凄い勢いでドアを閉め、スウードの足音は部屋から急速に離れていった、最終的に階段を下りて行ったのか、一切音がしなくなる。
「ぷっ……あはははっ」
顔を真っ赤にしてドアの向こうに消えたスウードを思い出して思わず噴き出してしまう。
「早く服を着て迎えに行ってやらねばな。しばらく戻って来そうにないが」
「ふふっ、そうだね!」
きっと朝食の準備が終わったから呼びに来たのだ。ドアの向こうから、スウードの淹れてくれる薫りのいい紅茶の匂いが漂ってきたから。
身体を拭いて服を着替えた頃、出入り口のドアの向こうに気配がしたので、戻ってきたスウードを広間に招き入れた。
スウードに事情を説明しようとしたけれど、「分かっているから大丈夫だ」と言われてしまった。番になったのだと、彼にはどうしてか分かったらしい。
「今夜、カーニバルの閉幕を告げる式典が宮殿で行われますが……報告は、大臣に任せる通例の形で宜しいでしょうか」
食事を終えた後、スウードがカップに紅茶を注ぎ、アルに尋ねた。
「カーニバルの最後に何を報告するの?」
「陛下と妃候補が番になったことの報告だ。宮殿の前の広場で行われる式典で、国民はその報告を待っている」
アルは紅茶を口に含んで、スウードの代わりに答える。
──宮殿。王様が本来住む場所で、八代目の王様からはこの塔に住むようになったと聞いた。Ωの発情期に伴う誘引によって、争いが起こってきたからだ。
「運命の番だったら、発情期のΩが近くに居ても平気だったりする?」
真っ直ぐにアルの眼を見る。アルは俺が何をしようとしているのか分かったのか、表情が曇り目を背けた。
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