結婚式の日取りに変更はありません。

ひづき

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本編

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「人払いをしてまでダニエル様は何と?」

 ダニエル様が帰るなり、リースが探りを入れてくる。以前の彼女なら、立場を弁え、決して詮索などしなかっただろう。恋に溺れると知性は劣るらしい。

「そうね、ちょっと頼まれ事を」

 ふふ、と笑顔で暈す。





 我が家は国内の鉱山をほぼ占有している。狡いと言われることもあるが、そもそも先祖が私財を投じてめぼしい土地を買い、危険を冒して発掘を進めた結果なのだ。嫉妬からくる批判など気にすることはない。

 対するダニエル様の家は宝石の加工を生業としている。我が家がダニエル様の家には原石を売らないと決めてしまえば、それだけで彼の家は立ち行かなくなる。我が家としては他の家に売ればいいだけなので痛くも痒くもない。

 この縁談は親戚価格で原石を融通して貰いたいダニエル様側から提案されたもの。複数あった縁談の中で最も家格が高く、条件の良かったダニエル様が選ばれただけのこと。

 私は動き出す。表向き沈黙を貫きながら、密かに、水面下で。





 結婚式当日。

 式は平民並に小規模なものとなった。その理由をダニエル様は周囲に「花嫁のワガママ」と説明していた。私も特に否定せず微笑んで沈黙を貫いていた。

 結婚式は恙無く進み、神父の文言に違和感を覚えることもなく、新郎新婦は誓いを口にした。よく言えば清楚な、率直に言えば地味な花嫁のベールを捲ることなく、花婿、花嫁の順で婚姻契約書に署名をして式は終わる。

 正式に夫婦となった2人を祝う拍手は起こらない。ここでようやくダニエル様は違和感を覚えたらしい。会場にいる親族達が皆一様に厳しい顔をしていることにも、今頃になってようやく気づいたようだ。遅い、遅すぎる。

 パチパチパチと、敢えて大きな拍手をしながら、私は柱の影から姿を現してみせる。

「ご結婚おめでとうございます、ダニエル様」

「お前!?何故!!」

 招待客と変わらないドレス姿の私を前に、大きく目を見開いたダニエル様は、隣に立つ花嫁のベールを乱暴に剥ぎ取る。花嫁はもちろんリースだ。

「何故リースが!」

「だって私、他の女性と肉体関係を持つような方に真実の愛なんて誓えませんもの」

 笑う私の視線を受けて、青白い顔のリースは身体を震わせて地べたに崩れ落ちた。

「どうして、どうして、ダニエル様は喜んで下さらないのですか?私を愛している、マリエル様とは婚約破棄すると仰っていたではありませんか!」

 脚に縋りつかれたダニエル様は、当惑し、亡霊でも見たかのように驚愕で顔色が悪い。神父が新郎新婦の名前を読み上げず、夫となる者、妻になる者などと呼びかけた辺りで違和感を覚えても良さそうだが…、どうやら本当に全く気づかなかったらしい。

「ダニエル、お前には失望した」

 進み出たのはダニエル様のお父様だ。私の舅になる予定の方である。

「ち、父上…」

「浮気だけで飽き足らず、損害の補填をマリエル嬢に頼むなど、この恥知らずが!!我が家はお前を除籍する。その女とどこへでも好きに行け」

「な、お前、父上に話したのか!」

 彼の怒りの矛先が私に向く。私に言わせれば自業自得なのだが。私を庇うように前に進み出たのは、ダニエル様の弟、ミシェル様だ。

「兄上、僕の婚約者をお前呼ばわりするのはおやめ下さい」

「ミシェルと浮気してたのか!!」

「違います」

 貴方と一緒にされたくない。そんな私の思いを汲んだのだろう。私のお父様が笑顔で一歩前に出る。

「君のようなクズを生み出した家とは縁を切ろうとしたのだが、君のお父上が婚約者をミシェル君に変えることでどうにかと土下座までしたものだから、うちの天使のようなマリエルが、それを承諾してしまったのさ。そちらから言い出したことであり、マリエルの意見ではない。口を慎み給え」

 ───天使とか、恥ずかしいのでやめて欲しい。まぁ、お父様を初め、私を溺愛する家族にとって、ダニエル様は許せないのだろう。彼の浮気相手が我が家の使用人だったからこそ、我が家の落ち度もあったと認め、怒りを抑えているのだから。

「この結婚式は私からの餞別ですわ。準備の予行練習にもなりました。当然ですが、リースはクビです。リースのご両親からも勘当する旨を認めた正式な書類を預かっております」

「か、勘当…!そんな、あんまりです!」

 泣き喚く花嫁に、花婿が手を差し伸べることはない。

「あら、覚悟があってダニエル様との恋に身を投じたのでしょう?これがその結果だわ。そのドレスを売れば数ヶ月は生活できるんじゃない?貴女が私の結婚式のために選んだデザインだけど、私の趣味じゃないからそのまま差し上げるわ。お祝いよ」

 嫉妬からなのか、リースが私に選んだドレスのデザインも、靴も、小物も、全てが地味だった。ただ地味なだけならまだしも、流行からあからさまに遅れている。社交界で笑いものにするつもりだったのだろうか。

「ま、マリエル様、どうかお許しを…」

「そもそも怒っていないのに、どうやって許せと?」

「そんな…」

「貴女はもう婚姻承諾書にサインをした。ダニエル様の正式な妻よ。良かったわね!おめでとう!」

 能のない不良物件を引き取ってくれたリースには心から感謝している。お陰で私は未だに婚約者のいなかった、有能なミシェル様と婚約し直せたのだ。感謝してもしきれない。



「どうぞお幸せに」



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