結婚式の日取りに変更はありません。

ひづき

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番外編

おまけのミシェル・2





 名前からバレるとマズイので、僕は彼女を「エリー」と、彼女は僕を「シエル」と呼ぶことになった。彼女が甘えるように僕の腕に抱きつき、即席の似非カップル完成である。設定としては彼氏が彼女に誕生日プレゼントを買おうとしており、一緒に選びに来たということにした。

 数店舗に足を運び、その度に貴族令嬢の見本とまで言われる彼女らしからぬ態度で店員を振り回す様は予想外過ぎて最初はついていけなかった。しかし、段々彼女を宥める彼氏を演じているうちに楽しくなってきた。

「エリー、根掘り葉掘り手入れ方法なんて聞いても、どうせ君はやらないだろう。店員さんも困ってるだろう」

「は?何を言ってるの?シエルが私の家に毎日来て磨くのよ」

「えー、やだよ、君のパパ怖いじゃん」

 楽しくて、夢中になって、はしゃぎながら彼女と笑い合う。

 店を出れば互いに気づいた点を意見交換して店毎の特色を議論する。

 こんなに話が合い、共に居て楽しく、しかも有意義な時間を過ごせる相手など今まで出会ったことがない。





 どうして彼女は兄の婚約者なのだろう。





「あのバカがやらかした」

 頭の悪い兄と、マリエル嬢。2人の挙式の日程が近づく中、僕は父に呼び出された。ただでさえ雰囲気の重い執務室が、また一段と重苦しく感じる。そんな空気の発生源である父は重厚感のある黒塗りの執務机で祈るように組んだ拳に額を預けて俯いていた。

 あのバカとは一体どのバカでしょう?などと軽口を叩ける空気では無い。

「具体的にお聞きしても?」

「マリエル嬢専属のメイドに手を出し、マリエル嬢所有の庭園でいかがわしい行為に耽ったり、マリエル嬢の衣装部屋でいかがわしい行為に耽ったり、とにかく、マリエル嬢の周囲を穢すような行いを繰り返しているそうだ」

「繰り返している───」

 いかがわしいを連呼する父に僕まで頭が痛くなる。拾った単語をオウム返しするのが精一杯だ。

「日時と場所、行為や発言を一覧にした詳細な調査報告書まで送り付けられてきた」

 調査報告書として父が指さしたのは、明らかに束である。束。向こうの敷地内で行われた分だけなのか、外出先まで調査されているのか、考えたくもない件数なのは確かだ。どちらにせよ破滅である。

 マリエル嬢の家から原石の流通が途絶えれば我が家は家業を畳むしかない。それはつまり、我が家の終焉を意味する。名ばかりの貴族にまで落ちて平民の暮らしをするか、いっそ爵位を返上して平民の暮らしをするかになるだろう。

「マリエル嬢は何と?」

「不問にするつもりはない、と。当然婚約は白紙だ。しかし、慰謝料に関しては保留、ダニエルには何も伝えず、あくまで知らないふりをして泳がせろという指示だ」

 マリエル嬢には何か考えがあるようだ。慰謝料は保留というのも表向きだけなのか、未だ考え中なのか。

「明言されていない以上、交渉の余地はありそうですね」

「こちらの落ち度なのに交渉など持ちかけたら不興をかうのではないか?それに、実はそれだけではなくてだな───」

 兄が独断で投資し、我が家に大損害を与え、挙句の果てにマリエル嬢に補填しろと要求したと聞かされ、僕は開いた口が塞がらない。バカだ、バカだとは思っていたが、そこまでバカだとは。

「不貞に関しては、相手がマリエル嬢の使用人ですから、あちらにも少しは監督責任が発生するはず。マリエル嬢は冷静な方だ。こちらの言葉を無碍にはしませんよ」

 当然、損害の補填などという譫言はマリエル嬢も相手にするつもりはないようだし、謝罪だけで済むだろう。こちらは、我が家内で解決出来る問題であり、そんなに大事では無い。愚兄を処分───廃嫡、絶縁すればカタはつく。

 市場調査の際、無邪気に笑い、ただの女の子として振る舞っていた彼女を思い出す。

 どくん、と。胸が期待で脈打った。これはチャンスだ。

「兄に代わり、僕が彼女と結婚する、というのはどうですか」

 どのみち我が家に未来は無い。未来がないのだからこの際跡継ぎなど考えなくていい。最悪存続さえすれば将来的に僕の子供に継がせることは可能なはず。跡継ぎを2人産んで貰わなくてはならないのでマリエル嬢には負担をかけるかもしれないが、無理なら養子をとればいい。

「マリエル嬢のご家族がそれを許すとは思えないが…」

「あのご家族はマリエル嬢を溺愛しているが故に、マリエル嬢が決めたなら従いますよ。まずはご本人に話を持ちかけましょう」

 父としては反対する気持ちが強いのだろう。しかし、後が無いのは事実だ。





「例え年老いても市場調査に付き合うよ、エリー。だから僕と結婚しよう」

「───新しい婚約者をイチから教育したら時間がかかるけど、貴方なら後継者教育も終えているし、我が家の家業にも理解が深い。何より私の趣味に付き合ってくれるなんて嬉しいわ、シエル」



[完]

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