不確定要素は壊れました。

ひづき

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本編

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「リリア、さま?って、どなたです???」

 取り敢えず、シェノローラがリリアという人物を害した件について非難しているのだということだけは何とか理解した。問題は該当の人物が誰かわからないということ。

「しらばっくれるな!」

「貴女が3日前に階段から突き飛ばした子だよ」

「覚えていないとは言わせません」

 ───誰?

 残念ながらシェノローラの記憶にはない。名前の響きからして女性、なのだろう、たぶん。

 3日前に何をしていたのか、正直記憶にない。グレイルのことでイライラしていたのは確かで、代理の従者も護衛も必要ないと断った覚えはある。少なくともリリアとやらには関係の無いことだ。

「身に覚えが御座いません」

「貴様!!」

 興味もない男から、興味のないことで怒鳴られても、全く怖くない。萎縮する必要性も感じない。

「わたくしには常に王家の監視がついております。お疑いなら国王陛下にお問い合わせくださいませ」

「国王は君の父親だろう?娘を庇うために改ざんだってできる。信じられるはずがない」

「あるいはアンタが命じて監視を都合よく利用しているかもしれないしな」

 ───国の最高位である国王陛下をここまで堂々と侮辱出来る人がいるとは。

 世界って広いんだなぁと、シェノローラは思いがけず感心してしまった。しかも王直属の隠密部隊をも愚弄した。恐らく彼らは自尊心を傷つけられた怒りで、彼らの実家を根絶やしにしようと情報収集に総力を費やすだろう。

 わたくしが手を下す必要はなさそうだ。そう判断し、シェノローラは微笑む。

「───もし、わたくしがそのリリア様を害したとして、あなた方はわたくしに何を望むのです?謝罪ですか?」

「王位継承権を破棄して下さい」

「アンタみたいなクズが王族に名を連ねているなんて納得がいかねぇ。身分を捨てろ」

 頭の弱そうな彼らを思うがまま操り、シェノローラを政治から引きずり下ろそうとする人物。それがリリアとやらなのだろう。

「まぁ!わたくしが身分を捨てたとして、それで本当にリリア様の心は救われますの?彼女は心に深い傷を負っていらっしゃるでしょうに、誰も彼女の天使のように柔らかで清純なお心をを案じていらっしゃらないのね!あなた達がその程度だったなんて、失望したわ!!」

 ひどい殿方だわ!と泣き真似をして走り出す。我ながら、よくわからない理屈?をこねたが上手くいったらしい。男たちは誰が彼女の心を慰めるかで揉め始めたようだ。

 ───わたくしの心は空っぽだけど、彼らは頭が空っぽだわ。

 そんなことを考えつつ、物陰から彼らの様子を窺っていると、頭上から大量の水が降ってきて全身びしょ濡れになった。あまりにも突然の事で、シェノローラは開いた口が塞がらない。慌てて上を見上げると、今度は顔面に空っぽのバケツが直撃した。盛大に尻もちをついたが、お尻よりも鼻が痛い。

「───どうして」

 どうして、どんなに努力しても嫌われるのだろう。

 どうして、男だと言うだけで弟の方が担ぎ出されるのだろう。

 わかりやい恫喝は怖くないし、痛くも痒くもない。陰湿で、幼稚な悪戯の方がシェノローラの心を傷つける。

 くすくす、と笑い声が頭上から降ってきて追い打ちをかけた。

 ───グレイル様に相応しくない

 ───早く解放して差し上げればいいのに

 ───王女じゃなければ相手にされない

 窓から降ってくる複数の声。それらが聞こえなくなってから、シェノローラはノロノロと立ち上がる。

 グレイルが傍にいなくなった途端、幼稚な悪意が牙を剥き始めたのだと知る。良くも悪くもグレイルに守られていたが、シェノローラが妬まれる原因もグレイルだ。

 影と呼ばれる特殊部隊は、シェノローラを密かに見守っているはず。彼らは命の危険がない限り姿を見せることはない。

 ただ、水を浴びせた女たちの言葉は父に報告されるだろう。

 父はどちらかと言えば過保護なので、グレイルが原因だと知れば彼を侍従から外し、別の人物を用意する。

 しかし、そこに父のストッパーである母が絡むだろう。母は、まず落ち着けと父を叱り、表面だけで判断してはいけないと調査を進言するに違いない。

 母は現実主義者だ。彼女達の家が政治的に不要なら、これを機に片付けようとするだろうし、必要なら子供のやることとして片付ける。王女教育の一環としてシェノローラに判断を委ねることも有り得る。

 もし判断を委ねられたとして。

 ───わたくしは、どうしたいのだろう。

 リリアとやらは全くの冤罪だが、その後降ってきた言葉は、実にその通りだと納得してしまう。美しいグレイルの隣に立つと見劣りする姫など、誰も納得しない。

 結局、水をかけられた以外、実害もない。乾かせばいいだけのこと。彼女達の家を潰す必要性がない限りはスルーして構わないだろう。

「………帰りましょう」

 誰にともなく呟き、自身を促して、そろそろと歩き始めた。


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