11 / 11
その後の彼ら。
5
しおりを挟むグレイルが実家の父に依頼した件はスムーズに動き出した。これでシェノローラ第一王女を侮辱した者たちは今後物資不足に喘ぐはめになるだろう。しかも気づきにくい緩やかな変化で始まったばかりだ。その間にも、それぞれ余罪や思惑を洗い出す必要がある。
グレイルのすべきこと、やりたいことは山積みだ。中でも最優先となるのがシェノローラのことである。シェノローラが帰ってきたとの報告に、グレイルは足早に廊下を進む。
サルベール男爵は国外にも情報を売っていた。その件で調査を行い、グレイルが国王に報告している最中に、シェノローラはグレイルに隠れて外出していたのである。きちんとグレイルの影を護衛として連れていった点は構わないが───
「───ソレ、なに」
シェノローラが連れ帰ってきた女に、グレイルは殺気を向ける。
「わたくしの侍女よ。だから殺さないでね」
どうやって甚振ってやろうかと、グレイルは新しい拷問椅子の設計をしていた。新しい拷問椅子の設計はシェノローラに喧嘩を売った連中の人数分ある。簡単に死なせず、苦痛が長引く毒の調合も完了している。それが1人分無駄になった。
新しい侍女、リリアは、メイド服に身を包み、髪色も一新して別人のようだ。砕けた口調で話すグレイルを前にしても顔色ひとつ変えない。
「今までにもこれからも、俺がいれば必要ないじゃないか」
「グレイルは王配になるのよ?今後はわたくしばかりに構っていられなくなる。その穴を埋めるための専属侍女は必要だわ。信用できるかわからない女達にその場限りで任せるよりは専属がいた方が確実でしょう」
そもそも、今まで専属の侍女が一人もいなかったことがおかしいので、グレイルも考えてはいた。いたが───
「ソレなら信用できると?」
「彼女なら貴方に色目を使う心配は要らない。貴方が彼女に傾く可能性もない。これ以上ない人材だと思うの」
王女でありながらシェノローラに専属侍女がいなかった原因はまさにそれだ。グレイルを狙う女ばかりだったため、片っ端から排除されていった。
グレイルが睨みつけてもリリアは全く動じず、堂々と一礼して口を開いた。
「私、何がなんでも生きたいんです。もし死ぬなら安らかに死にたい。そのためなら何でもしますし、誰か様の毒牙から守って頂けるならシェノローラ第一王女殿下に全力で忠誠を誓います」
シェノローラ第一王女はニッコリと微笑む。
「ね、いいでしょう?」
「………わかり、ました」
グレイルは深い深い溜め息を吐いた。自分以外の人間がシェノローラに一日中張り付くなど、簡単には容認できないが、今後のことを考えれば確かに必要だ。
なにより、グレイルはシェノローラの笑顔には勝てない。
───徹底的に教育してやる。
そう、心に決めた。そんな不穏な内心を見透かしたのか、シェノローラがグレイルに微笑みかける。
「結婚式、楽しみね。これから忙しくなるわよ」
「───えぇ、楽しみですね」
シェノローラが笑うだけで、そこに明るい未来があるのだと確信できる。確信できるからこそ、誰にも邪魔はさせない。例え、どんな手を使ってでも。
「愛してる」
この言葉の異様な重さに、彼女は生涯気づかないかもしれない。だが、それでいいとグレイルは甘く甘く微笑み返した。
[完]
75
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢VSヒロイン∞なんて世の中に需要はない
藤森フクロウ
恋愛
悪役令嬢ローズマリーに転生したら、俺Tueeeeeもできない、婚約阻止も失敗した。
婚約者は無関心ではないけどちょっと意地悪だし、兄は陰険だし、やたら周囲はキラキラしまくったイケメンでローズマリーの心は荒んでいく。
入学した学園ではなんとヒロインが増殖中!?
どーなってんのこれー!?
『小説家なろう』にもアップしています。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
水川サキ
恋愛
家族にも婚約者にも捨てられた。
心のよりどころは絵だけ。
それなのに、利き手を壊され描けなくなった。
すべてを失った私は――
※他サイトに掲載
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
転生令嬢は学園で全員にざまぁします!~婚約破棄されたけど、前世チートで笑顔です~
由香
恋愛
王立学園の断罪の夜、侯爵令嬢レティシアは王太子に婚約破棄を告げられる。
「レティシア・アルヴェール! 君は聖女を陥れた罪で――」
群衆の中で嘲笑が響く中、彼女は静かに微笑んだ。
――前の人生で学んだわ。信じる価値のない人に涙はあげない。
前世は異世界の研究者。理不尽な陰謀により処刑された記憶を持つ転生令嬢は、
今度こそ、自分の知恵で真実を暴く。
偽聖女の涙、王太子の裏切り、王国の隠された罪――。
冷徹な宰相補佐官との出会いが、彼女の運命を変えていく。
復讐か、赦しか。
そして、愛という名の再生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる