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初めての嫉妬
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会瀬のたびにエレオノーラはジャスティンに昼寝をさせる計画を立てた。
ジャスティンが素直にエレオノーラの膝枕で昼寝をするようになった頃、二人の休みは終わった。
エレオノーラは社交を再開後、初めてジャスティンから観劇の誘いを受けたので承諾の手紙を送った。
ジャスティンは公爵家の紋章入りの馬車と正装でエレオノーラを迎えに現れた。
「エルヴィス殿下の新たな婚約も公表されて一月経ったので、これからは堂々とアプローチしようと思います。今までは周囲の目を気にしていましたが、これからは精一杯牽制させていただきます」
馬車を降りるエレオノーラの手を取り、口づけを落とし、エスコートするジャスティンに周囲の視線が集まる。
観劇の会場では公爵家の馬車に視線が集まり、ジャスティンを見つけて、群がる貴婦人やご令嬢に囲まれた。
ジャスティンはさっとエレオノーラを背に庇った。
「公子様、よければ一緒にご覧になられませんか?」
「観劇が趣味なんて素敵ですわ」
「申し訳ありません。僕はプライベートは大事な人と二人で過ごしたいので、これで。事業についてのお話は後日伺いますので」
ジャスティンは穏やかに微笑みながら、拒否の姿勢をはっきりと示し、エレオノーラをエスコートして足を進める。
公爵家用の個室ブースには椅子と小テーブルが用意されていた。
座り心地のいい椅子に座り、渡されたブランデーを落とした紅茶をゆっくりと飲み干したエレオノーラは頻繁に訪ねるお客様を追い払うジャスティンの背中を見つめた。
婚約解消後、社交界でジャスティンと会ったことがなかったエレオノーラは放置されるのは初めてだった。
お代わりの紅茶を飲み干しても、令嬢達と話しているジャスティンの背中にエレオノーラの胸はチクリと痛む。
振り返ったジャスティンと目が合ったエレオノーラはなぜか気恥ずかしさに襲われ、視線を逸らし他の客席に目を向けた。
貴族席の個室ブースは家族向け、恋人向けと様々な席が設けられ、ソファに寄り添い座るカップルを見つけたエレオノーラは凝視した。
人前で触れ合うことは品がないと囁かれる社交界で堂々と寄り添えるのは下位貴族か富豪の平民達である。
相思相愛だから仲睦まじく、寄り添い合えるカップルを羨む気持ちにエレオノーラが襲われると照明が落ち、観劇が始まった。
観劇では恋に心が乱されまくりの役者の演技にエレオノーラは魅入る。
視線で追い、触れたくなり、自分だけを見て欲しいという欲望に覚えのあるエレオノーラは胸を抑えた。
「エレオノーラ様?」
心配そうな顔のジャスティンの瞳に映るエレオノーラの顔は欲にまみれていた。
自身の醜さに顔を歪ませるエレオノーラの肩にジャスティンが上着を脱いで羽織らせる。
「どんなお顔も美しいですが、具合が悪いなら観劇はここまでにしましょうか」
「違います。私は、醜く、欲深く、貴方に相応しくない…」
「僕はどんなエレオノーラ様も愛しく思います。エレオノーラ様が僕に相応しくないと思われるのは、お門違いですが、ご本人のお気持ちはどうにもなりません」
「え?」
立ち上がったジャスティンが去るのかと不安に襲われたエレオノーラの顔が悲しそうに歪む。
「僕がエレオノーラ様に相応しいと思っていただけるように、努力致します」
ジャスティンはエレオノーラに手を差し出す。
エレオノーラは膝の上の両手を固く握り、首を横に振った。
「私は貴方に触れたい、触れられたい、独り占めしたいと思っているのです」
「光栄です」
「名前で呼ばれたいとか、市井の恋人みたいな特別扱いのような振る舞いも素敵とか、貴族としてあるまじきことを思ってますのよ」
「嬉しいな。もっと聞かせて。エレオノーラが何を言っても可愛いか愛しいしか感想が出ない僕の語彙力の低さが口惜しいなぁ」
「可愛い!?愛しい!?」
「そうだよ。僕はずっとエレオノーラに触れたかったし、独り占めしたいとも思っているよ。僕にその権利をくれる?結婚を前提にお付き合いしてほしい」
甘えるように口調を変えたジャスティンはエレオノーラの前に跪き視線を合わせた。
エレオノーラが真っ赤な顔でゆっくりと頷くとジャスティンは立ち上がり、そっと抱きしめた。
「これもずっとしたかったんだ」
「嬉しいですが、顔が赤くなってしまいます。誰にも見せられません」
「僕だけには見せて欲しいけど、観劇に夢中で誰も僕達のことなど見ていないから安心してよ。僕の未来の妻の顔が赤いことを咎められる者なんていないけど」
エレオノーラ達の声は互いにしか聞こえないが、観劇がよく見える個室ブースで抱き合う様子を見た者はいた。
翌日初めてジャスティンがご令嬢をエスコートし、その相手がエレオノーラという記事は新聞の一面になった。
婚約解消された公爵令嬢の新たな恋に世間は好意的だった。
ジャスティンが素直にエレオノーラの膝枕で昼寝をするようになった頃、二人の休みは終わった。
エレオノーラは社交を再開後、初めてジャスティンから観劇の誘いを受けたので承諾の手紙を送った。
ジャスティンは公爵家の紋章入りの馬車と正装でエレオノーラを迎えに現れた。
「エルヴィス殿下の新たな婚約も公表されて一月経ったので、これからは堂々とアプローチしようと思います。今までは周囲の目を気にしていましたが、これからは精一杯牽制させていただきます」
馬車を降りるエレオノーラの手を取り、口づけを落とし、エスコートするジャスティンに周囲の視線が集まる。
観劇の会場では公爵家の馬車に視線が集まり、ジャスティンを見つけて、群がる貴婦人やご令嬢に囲まれた。
ジャスティンはさっとエレオノーラを背に庇った。
「公子様、よければ一緒にご覧になられませんか?」
「観劇が趣味なんて素敵ですわ」
「申し訳ありません。僕はプライベートは大事な人と二人で過ごしたいので、これで。事業についてのお話は後日伺いますので」
ジャスティンは穏やかに微笑みながら、拒否の姿勢をはっきりと示し、エレオノーラをエスコートして足を進める。
公爵家用の個室ブースには椅子と小テーブルが用意されていた。
座り心地のいい椅子に座り、渡されたブランデーを落とした紅茶をゆっくりと飲み干したエレオノーラは頻繁に訪ねるお客様を追い払うジャスティンの背中を見つめた。
婚約解消後、社交界でジャスティンと会ったことがなかったエレオノーラは放置されるのは初めてだった。
お代わりの紅茶を飲み干しても、令嬢達と話しているジャスティンの背中にエレオノーラの胸はチクリと痛む。
振り返ったジャスティンと目が合ったエレオノーラはなぜか気恥ずかしさに襲われ、視線を逸らし他の客席に目を向けた。
貴族席の個室ブースは家族向け、恋人向けと様々な席が設けられ、ソファに寄り添い座るカップルを見つけたエレオノーラは凝視した。
人前で触れ合うことは品がないと囁かれる社交界で堂々と寄り添えるのは下位貴族か富豪の平民達である。
相思相愛だから仲睦まじく、寄り添い合えるカップルを羨む気持ちにエレオノーラが襲われると照明が落ち、観劇が始まった。
観劇では恋に心が乱されまくりの役者の演技にエレオノーラは魅入る。
視線で追い、触れたくなり、自分だけを見て欲しいという欲望に覚えのあるエレオノーラは胸を抑えた。
「エレオノーラ様?」
心配そうな顔のジャスティンの瞳に映るエレオノーラの顔は欲にまみれていた。
自身の醜さに顔を歪ませるエレオノーラの肩にジャスティンが上着を脱いで羽織らせる。
「どんなお顔も美しいですが、具合が悪いなら観劇はここまでにしましょうか」
「違います。私は、醜く、欲深く、貴方に相応しくない…」
「僕はどんなエレオノーラ様も愛しく思います。エレオノーラ様が僕に相応しくないと思われるのは、お門違いですが、ご本人のお気持ちはどうにもなりません」
「え?」
立ち上がったジャスティンが去るのかと不安に襲われたエレオノーラの顔が悲しそうに歪む。
「僕がエレオノーラ様に相応しいと思っていただけるように、努力致します」
ジャスティンはエレオノーラに手を差し出す。
エレオノーラは膝の上の両手を固く握り、首を横に振った。
「私は貴方に触れたい、触れられたい、独り占めしたいと思っているのです」
「光栄です」
「名前で呼ばれたいとか、市井の恋人みたいな特別扱いのような振る舞いも素敵とか、貴族としてあるまじきことを思ってますのよ」
「嬉しいな。もっと聞かせて。エレオノーラが何を言っても可愛いか愛しいしか感想が出ない僕の語彙力の低さが口惜しいなぁ」
「可愛い!?愛しい!?」
「そうだよ。僕はずっとエレオノーラに触れたかったし、独り占めしたいとも思っているよ。僕にその権利をくれる?結婚を前提にお付き合いしてほしい」
甘えるように口調を変えたジャスティンはエレオノーラの前に跪き視線を合わせた。
エレオノーラが真っ赤な顔でゆっくりと頷くとジャスティンは立ち上がり、そっと抱きしめた。
「これもずっとしたかったんだ」
「嬉しいですが、顔が赤くなってしまいます。誰にも見せられません」
「僕だけには見せて欲しいけど、観劇に夢中で誰も僕達のことなど見ていないから安心してよ。僕の未来の妻の顔が赤いことを咎められる者なんていないけど」
エレオノーラ達の声は互いにしか聞こえないが、観劇がよく見える個室ブースで抱き合う様子を見た者はいた。
翌日初めてジャスティンがご令嬢をエスコートし、その相手がエレオノーラという記事は新聞の一面になった。
婚約解消された公爵令嬢の新たな恋に世間は好意的だった。
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