皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴

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本編

おまけ

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オルは自分の好物に囲まれて幸せな生活を送っていた。
オルが婿入りした島国は一年中温暖な気候だった。
今日も木に登り、好物をもいで食べている主を護衛騎士は見上げた。
護衛騎士は一時的に遠方に婚儀の祝いの品を仕入れるために使いに出され、別行動していた主より3日遅れで入国したときは驚いた。小国にいるはずのオルがいた。オルから命じられた弟夫婦への祝いの品を差し出したときに、自分が嵌められたことに気づいた。
その頃には婚儀はすでに終わっていた。

「殿下、何も言わずに良かったんですか?」
「戦争が起こってないからうまくやってんだろう。それにリーンも気づかないだろう」

護衛騎士は自分の行いがどれだけ危険なことかわかっていても、やめなかった主に眉を顰める。
双子だからといって極秘で婚約者が入れ替わるとは非常識である。

「リーン様は聡明です。貴方の誠意を信じますって頷かれたのに、殿下のしたことは誠意のかけらも感じられません。両殿下はよろしくてもリーン様がお可哀想です」

ルオがリーンを好きでもリーンには関係ない。兄弟の我儘に振り回された最大の被害者だった。
オルは笑った。

「あれか。精一杯努力する。国民のために私を選んでほしい。自分は力もなく平凡な男だ。ただ君に誠意のないことは決してしない。だから選んでほしいって言ったやつか。俺は一言もオルがとは言っていない。私が表すのは皇子だ。皇子のルオが俺の言葉を守るだろう?確認しなかったリーンが悪い。それに俺とリーンじゃ釣り合わない」
「婚約者候補に選ばれたのに?」
「婚約してから文のやり取りをしてて思ったんだよ。俺は国の発展に興味はない。ただリーンは民により豊かな生活と国の発展を考える。大国出身の姫はうちみたいな小さい国の現状維持に満足しないだろう?それでリーンの留学してきた時のことが頭をよぎったんだ。普段は勉強なんて最低限しかしないルオがリーンの気を引きたくて、必死に勉強して色んな施策の案を出してただろう?その施策についてリーンとルオが語り合う姿を。俺にはあれはできない。なら丁度、リーンに惚れているルオに任せようと思ったんだよ」

完全に私利私欲だった。兄心など全く感じられなかった。

「なんでリーン様の婚約者候補選定の場に行ったんですか?」
「父上に命じられたから。ルオに押し付けたくてもあいつ寝込んでたし。俺は選ばれる気なかったのに。でも選ばれたから断れない。しかも不安を抱える俺に追い打ちをかけたのは、ルオだった。ルオの婿入り先は俺と違って天国だ。俺が苦労するのに弟が幸せとか許せないだろう?」
「純真な殿下を利用して。わざと見分けがつかないように振舞って。」
「気付かないルオが悪い。純真なルオがリーンをどうするか見物だよな。俺はあいつのおかげで幸せだからおすそ分けしてやるか」

オルは弟に名物を贈る手配をした。
オルが自ら食べごろの果実を選び箱につめた。善意の贈り物で波紋を呼ぶことになるとは知らなかった。


***




小国の皇太子夫妻にオルからの贈り物が届いた。
リーンが箱を開けると異臭が漂い我慢できず意識を手放した。
優秀な侍女であるイナは箱を閉じて、護衛騎士に抱かれた主を寝室に寝かせ医務官を呼ぶ手配をした。
リーンが倒れた報せを聞いたルオが駆けこんできた。
ルオは医務官から眠っているだけで健康という言葉を聞いても、安心できなかった。眠るリーンの顔色は悪くずっとうなされていた。
狼狽えているルオを見てイナは別室で開けることを頼んで箱を渡した。大事な主の眠りを妨げるルオを追い出すために。
ルオは兄からの贈り物を持ち、廊下に移動して開封し絶句した。
熟れた果物が詰まって異臭を放っていた。この匂いでリーンが倒れたと察し侍従に処分を命じた。
ルオは寝室に戻り汗をびっしょりとかきながら、ひどくうなされているリーンを起こした。
リーンは目を覚ますとベッドから降りた。
汗をかいて着替えたいのかと察してルオは席を外し、しばらくすると真っ青な顔をしたリーンが訪問着を着て部屋から出て来た。ルオは自分の前をふらふらと通り過ぎる腕を慌てて掴む。

「リーン、今日は休んで。仕事はいいから」
「2週間ほど出かけてきます」

妻が公務以外で外出を希望するのは初めてだった。

「は?」
「護衛騎士を連れていきます。もう我慢できません」
「里帰りしたいのか?」
「オル様にお会いしてきます。馬で行けばすぐです」

馬で1週間もかかる国にいかせるわけにはいかなかった。まず身重のリーンの乗馬の時点でアウトだ。

「許可できない。まず自分の顔色に気付いて。真っ青だから」
「こんな仕打ちをうけて黙っているなどできません」
「兄上も悪気がないと」

兄は国との距離を配慮せず贈ってきたことを察した弟だった。オルは食べ物の目利きは得意だった。

「そういうことではありません」

顔色の悪い主が寒い廊下に立っている状況がイナは許せなかった。

「姫様、落ち着いてください。嫌がらせなら別の方法を考えてください」
「私は殴りたい」
「落ち着いてください。胎教に悪いです。それに姫様がお手紙をかけば代わりに殴ってくださる方がいますよ」

リーンはイナの言葉に妖艶に笑う。

「あの国の嗜好品の貿易に制限をかけます。直接殴るのは今度にします。あとは、」

リーンは執務室に移動してオルへの嫌がらせのための手配を始めた。
ルオは止めなかった。へたに邪魔をしてリーンがオルの元に乗り込むよりもマシだった。リーンはオルを嫌っていた。またリーンが怒ってイナの部屋に出て行くことも避けたかった。
あの心の冷える別居生活は二度とごめんだった。
ルオの優先は兄よりも妻といずれ産まれてくる我が子である。
それに兄に思う所が多かった。
リーンはオルが正直に謝って、国のためにルオと婚姻してほしいと土下座すれば素直に頷いたと言っていた。婚約期間に婚約者の変更を申し出れば頷いたとも。リーンは道理さえ通すなら別にルオでもオルでも良かった。あの頃はルオは信頼できる友人だったと。
私利私欲で自分達を引っ掻き回した兄も少しは苦労すればいいと思っていた。
兄の好物をいくつか教えると、愛しい妻が嬉しそうに笑う。
弟夫婦から嫌がらせをされると思わずオルは幸せを謳歌していた。
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