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その後の二人。その2。

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 二人で夕食を摂った後。使用した箸や茶碗なんかを食洗機に入れ終えた翼がぴょんと軽く飛び跳ねるみたいな勢いで振り返りつつ言った。

「りーんご。セックスしよ」

 林檎が応える。

「……東京なにストーリーだ」

「あははは。正解。ツッコミ上手になったねー。私の指導の成果かな。あ、ちなみにネタ元のドラマでは『セックス』って単語は確かに言ってるんだけど、こんなテンションじゃなくて。台詞もちょっと違うらしいよ。うーん、捏造って怖いねえ」

 翼の講釈を聞き流しながら林檎は「何だ。その豆知識を披露したかっただけか」と片眉を歪めた。

 一応、

「うるせーバカ」

 と相槌は打っておくも、

「あはは。昔はその『バカ』ばっかっていうか本当に『バカ』だけだったもんねえ。それが今やちゃんとボケればちゃんとツッコんでくれるんだから。もうあとは平場のアドリブ力だけ」

 話題は逸れて「セックス」の話は綺麗に流された――かと思ったら、

「んでね。新技を覚えたんだよ。新技。それを林檎に味わってもらいたくて。へへ」

「新技?」

「度肝抜いちゃうよ? すぐにイッちゃうよ? クセになっちゃうよ? うへへへ。ほら。ベッド行こ。すぐに行こう。行きながら服脱いじゃおうぜ。うひひひひ」

 どうやら本当に「セックスしよ」との事らしかった。

(もうちょいまともな誘い方は出来ねえもんかね。まあ元ネタが恋愛ドラマってだけでも上出来というか、ここいらが翼の限界かもな。)

 林檎は苦笑いを浮かべながら翼を伴って寝室に移動する。流石に服を脱ぎながらではなかったが。

「それで。何だよ新技って」

 大きなベッドの上。全裸の林檎と翼が向かい合って座っていた。

「んっと。とりあえずね、今日は挿れてほしくて」

 少しだけ照れた様子で翼が言った。林檎の頬がイジワルに緩む。

「あ? 挿れる? って何を? 何処に?」

「……好きだよねえ。言わせるの。今日はそーゆーんじゃないのにぃー」

 翼が唇を尖らせる。それでも、

「私のお尻の穴にぃ、林檎のぶっといチンポをブチ込んでください」

 翼は林檎に応えた。

「ははは」と林檎は口を開けて笑う。

 翼は伏し目がちに嫌々っぽく、でも本当の本当に嫌ではないのだとわかる上目遣いでいやらしい言葉を口にした。

 セクハラどころではなく酷過ぎる要望を呑ませてやった征服感、支配感とその実は言うも言わぬも翼の気分次第というなかで林檎の下品なお遊びに付き合ってくれた翼の優しさやノリの良さなんかも感じながら、林檎は股間を硬く膨張させていった。

 林檎は翼の腕を掴んで引き寄せると、

「普通に抱けば良いのか?」

 その耳元で囁いた。

「ちょっとだけ激しくしてくれたら」

 つい先程いやらしい言葉を口にしたときよりもずっと恥ずかしそうに翼は言った。

「わかった」と頷く代わりに林檎は翼にキスをする。唇を吸って甘噛んで、伸ばした舌で相手の舌を絡め取るような激しいキスだった。

 勢いそのままベッドに翼を寝転がせて林檎が上になる。

 翼の赤く厚い唇から離した口を林檎は早々に翼の下腹部へと移動させる。

 翼とのセックスでは、キスから始まった後、首やら胸やら脇やら腹やらへそやらを優しく丁寧にねちっこく愛撫し尽くす事もあるが今日は「激しくして」と所望されている。

 林檎は翼の肉々しい太ももに軽く吸い付いてから、

「脚。開け」

 と独り言のように呟いた。

「…………」と翼は何も言わなかったがその両脚はそっと開かれる。

 遠慮気味に開かれた翼の両膝に手を掛けて、

「もっとだ」

 林檎は翼の股をがばっと大きく押し開く。

「んッ」と翼が息を漏らした

 林檎は構わず、更には両膝の裏に手を当てて翼の上半身側へと押し上げる。

 M字開脚だ。

 翼はカエルを裏返しにしたみたいな格好にさせられていた。

 全裸でだ。

 全て丸見え。

 半勃ちの陰茎。きゅっと引き締まった陰嚢。蟻の門渡りから肛門まで。

「そのまま。閉じるな」

 と軽く命じて。林檎は翼の肛門に口を寄せる。

 舌先を尖らせてそのシワをねぶる。唾液を穴へと注ぎ込む。

 翼の肛門がひくひくと林檎の舌先に応えていた。

「林檎」が何度も出入りした雄穴だ。

(……別に俺専用の穴じゃねえけど。)

 事実として林檎がこじ開けて押し広げたケツメドだ。

 ご丁寧にローションなど塗りたくらなくとも、林檎が軽く舐めてやっただけでもうパクパクと翼の受け入れ態勢は整ってしまっていた。

「林檎。早く」

 吐息と共に翼が漏らした。

 不意のおねだりに林檎の股間がびくんと反応してしまう。

「この……ドスケベがっと」

 狙いを定めて、それから一気に。林檎は翼の肛門に長い肉棒を突き挿れた。

「ひゅんッ」と翼が息を呑む。

「んで。激しく、だったよな?」

「う、うん」と翼が頷いている最中に林檎は強く腰を前後させ始めた。

「あ! あッ、ん、あ、そ」

 林檎の動きに合わせて翼が喘ぐ。

 押し込んで、引き抜いて、押し込んで、引き抜いて。

「もっと。林檎。もっと」

 押し込んでッ、引き抜いてッ。押し込んでッ! 引き抜いてッ。

 ペチンペチンと翼の尻肉に林檎の睾丸が当たる音がする。

「あッ。あッ。あッ。あッ」

 翼の反応が良い。林檎は興に乗って腰の速度を更に上げた。

 押し引き押し引き押し引き押し引き押引押引押引……ときどき下腹部に力を込めて陰茎をぐいっと持ち上げる。翼の中をカリで引っ掻く。

「あッ!? あっ、あっ。あッ! あッ!」

 楽しくて。気持ちも良い。気分も良い。だが、

(……何が新技なんだ?)

 翼は言っていた。

「新技を覚えたんだよ」「度肝抜いちゃうよ?」「すぐにイッちゃうよ?」「クセになっちゃうよ?」と。

 翼の事だから話半分としても、

(今のところ何も無えよな? あれだけ言っておいて完全に嘘ってこたねえだろ。)

 故意にデタラメを口にするとは思えない。

(……肛門括約筋でも鍛えたつもりか?)

 翼の尻穴の締まり具合はいつも通りの極上だったが本人としてはいつも以上に締め付けているつもりなのかもしれない。

(いつも偉そうにねっとりテラシーだかじっとりテラシーだか言っていながら意外と自分はネットの嘘情報に引っ掛かってっからなあ。このバカは。)

 腰を振り続けながらも生暖かい目で翼の事を見下ろしていた林檎の耳にふと、

「んぼぉ!」

 妙に獣染みたダミ声が届けられた。

「……あ?」と林檎の腰が止まる。

「やめないで。林檎。もっと」

 翼が甘い声を上げる。林檎は、

「あ、ああ」

 と腰の動きを再開させる。

 押し込んで、抜く。また押し込んで、抜く。

 繰り返されるその運動に合わせて、

「んぎ、ぎ、ぎぼじじィ、おぼッ! おぼッ! おぼォォォッ!」

 翼が咆哮していた。

(あー……と。これは何だ……?)

 腰を前後に動かし続けながら林檎は考えてみた。

 だが何も分からなかったし解らないので本人に直接聞いてみる事にした。

「翼。何だその声。動物の真似か? 俺に獣姦ごっこをさせたかったのか?」

「おご――え? あ、えっと。これは」

 剥いていた白目を黒目に戻して翼が答える。

「おほ声とか汚喘ぎとかって言われてるやつで。上級者向けエロ同人誌なんかではお馴染みなんだけど」

「知らん」

 上級者向けどころか初心者向けのエロ同人誌も嗜んでいない林檎には全く理解の出来ない世界の話だった。

「……エロくない?」

「わからん」

 林檎は真上から真っ直ぐに翼を見詰め下ろしていた。

 翼は、

「……ちょーエロいと思うんだけど」

 と少しだけ目を逸した。

 どうやら。さっきのその「おほ声」だか「汚喘ぎ」だかが翼の言っていた「新技」のようだった。

(翼はあれで「すぐにイッちゃうよ?」と思ったのか。「クセになっちゃうよ?」と考えたのか。)

 確かに林檎は度肝を抜かれたが。別の意味で。

「翼――」と林檎がその先の言葉を告げるよりも前に、

「ね、ねえ。もうちょっとだけ続けてみない? 一回ハマったらクセになるって」

 翼がやや早口に訴えてきた。

 林檎は「…………」と少しだけ考えた後、

「ちょっとだけな」

 と頷いた。

「うわー。ありがとう。林檎ぉ」

 子供みたいに翼は笑った。そのすぐ後で、

「じゃあ。もう一回。もっとたくさんズボズボして?」

 娼婦みたいに微笑んだ。

「うッ」と不覚にも林檎は萎えかけていた肉棒をより硬く復帰させてしまった。

 林檎の陰茎はずっと翼の尻穴に収まったままだった。翼にもその瞬時の回復は伝わってしまっていたことだろう。気恥ずかしい。

 林檎はその気恥ずかしさを誤魔化すようにパンパンと激しく腰を打ち付ける。

「あ、あ、あ。おごォ、おォ、おほォ、いいィ、あァ、んぼォ」

 パンパンのリズムに合わせて翼も吠える。

 林檎は腰を振りながら、

(これは……エロいのか?)

 笑み成分が物凄く希薄な苦笑いを浮かべていた。

(何だかな。あんま見ねえけどAVみてえっつうか。行かねえけどイメクラみてえっつうか。あー……。翼のこれはつまり「演技」なんだろ?)

「いぎッ、いぎッ、いぎッ、ぐゥゥゥ……」

 だの、

「んほォ、んほォ、お、お、おごォォォ!」

 だの

「ぐぎゅッ、ぎゅぐッ、ぐぼォッ、んぼォ!」

 だのと。翼のその汚い喘ぎ声を聞かされ続けているうちに段々と、

(何か……腹立ってきたな。)

 林檎は笑えてきてしまっていた。

 翼の要望は「激しく」との事だったが、

「おほォッ! おほォッ! お――あんッ!? あ、え? んッ? ちょ――」

 林檎は「強い」一辺倒だった腰の動きに強弱を付け始める。

 単調だったリズムを不規則なものに変えた。

「あッ!? んッ、待っ、り、林檎ッ?」

 前後ばかりだった腰の動きにグラインドなんかも加える。

 優しく、激しく。丁寧に、ぞんざいに。荒々しく、適当に。腰を振る。

「ちょ、ま、待って。待って。あッ、んッ、んッ。あッ」

 待ってと言われて待つ馬鹿はいない。嗚呼。何という名言だろうか。

 林檎は腰を振り続けた。

「ちが、違う、違う、あんッ、これじゃ、んッ、んッ、んーッ!」

 林檎は本気で翼を気持ち良くさせてやっていた。

 普段の林檎なら絶対にしないであろう「ご奉仕」だ。

 それは翼も初めて食らう快感だった。

(どうだ。翼。独りで気持ち良くなるのは。どんな気分だ? ……セックスは二人で気持ち良くなるもんだろうが。片方だけが気持ち良くなるのはセックスじゃねえぞ。それはレイプかサービスだ。)

 林檎から翼への「ご奉仕」はセックスに誘っておきながらサービスに徹しようなどとした翼に対する林檎なりの意趣返しであった。

「んッ、あ、あ、あーッ!!!」

 濁点の付いていない喘ぎ声と共に今日はまだ一度も触っていなかった翼の男根からぶりゅッと白い精液が溢れ出た事を確認すると林檎はその腰の動きを止めた。

「もう、もう、林檎の馬鹿……」

 息を切らせながら翼が呟いた。

「どっちが馬鹿だ。バカ」

 不満気な翼に対して林檎は満足気に笑っていた。

 この後日にも翼は何度か「汚喘ぎ」を披露したのだがそのたびに林檎にイかされてしまい、

「違うんだよー。そうじゃないんだよー。林檎にイッてもらいたいんだよー」

 と大いに嘆きつつも結局は、自慢の「新技」はお蔵戻しする事となってしまった。

「林檎のイジワル!」

 翼は頬を膨らませたが林檎は「汚喘ぎ」する翼をテキパキとイかせてしまう理由を最後まで言葉にはしなかった。

「――ふッ」


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