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1巻
1-2
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「それでは一人ずつ儀式を受けてもらう。両手を召喚陣の上へ」
その声を受けて、先頭に立っていた少年が元気よく返事をした。
そして言われた通り、膝をつき、召喚陣に両手を当てる。
瞬間、円形の陣から真っ白な光が放たれ、教会の中を明るく照らし出した。
これが従魔召喚。生涯のパートナーと出会うための、召喚の儀。
光が収まると、召喚陣の真ん中に一匹のモンスターが出現していた。
針のように尖った白い毛に、獣らしい鋭い牙と爪。恐ろしくも格好いい、立派な白狼だ。
「ホワイトウルフ。Cランクモンスターだ」
神父様は手に持っていた本――おそらくはモンスターの詳細が書かれた図鑑――に目を通し、そう宣言する。
周りからは大きな拍手と歓声が上がった。
「いきなりCランクモンスターかよ」
「今年は豊作かもな」
村の大人たちは口々に、一人目の少年を称える。
Cランクモンスターは、確かに素晴らしい結果と言っていいだろう。
モンスターにはそれぞれ、ランクというものが設定されている。
強さ、応用性、希少性。この三つを総合的に判断し、モンスターの価値――ランクを定めているのだ。
ランクは全部で六つ。
上からA、B、C、D、E、F。
一般的にDランクモンスターを当てれば仕事には困らなくなると言われているので、Cランクモンスターを引き当てたあの少年の召喚の儀は、十分成功したと言っていい。
パルナ村は元々、高ランクモンスターのテイマーたちを輩出することで有名だ。
昨年はどうやらあまり良い結果が残せなかったらしく、大きく肩を落としていた人たちが多かった。
まあ、去年のこの時期は流行り病が猛威を振るっていて、召喚の儀を受けた子供たちがそもそも少なかったから仕方がないんだけど。
それに対して今年は、十五歳になった子供たちが多いのみならず、昨年病気のために召喚の儀を受けられなかった子供たちも集まったため、昨年に比べて倍以上もの人数となった。
おかげで村はかなりのお祭り騒ぎになっている。
一人目でCランクモンスターが出たとあって、村人たちの期待は高まるばかり。
「それでは次の者、前へ」
控えめにガッツポーズをする少年に続き、儀式は順調に進められていった。
「ラージホーネット。Dランクモンスター」
「ベノムスパイダー。Dランクモンスター」
「エリートエイプ。Cランクモンスター」
神父様がモンスターの名前とランクを口にする度に、村人たちは拍手と歓声を上げた。
そして子供たちは一生を共にするパートナーと出会って、喜びの笑みを浮かべる。
早く僕の順番が回ってきてほしい。
わくわくしながら召喚の儀の列に並んでいると、神父様から驚きの声が上がる。
「び、Bランクだ! グランドゴーレム! Bランクモンスターだ!」
その声に教会の中にいる村人たちは全員、口を噤んで前方を注視した。
そこには、他のモンスターとは大きさも雰囲気もまるで違う、頑丈な岩のブロックを積み上げたような、巨人型のモンスターが鎮座していた。
「何……あれ……」
僕は驚きのあまり声を漏らしてしまう。
一目見ただけで、そのモンスターの強さ、恐ろしさが分かる。
神父様が言った通りなら、あのモンスターの種族は力と堅さが自慢の、ゴーレム種。
その中でも、Bランクのグランドゴーレム。
一体、誰がそんなモンスターを……
「リンドの奴、いいモンスターを引き当てたみたいだね」
「えっ……」
不意に、どこか忌々しげなファナの声が聞こえてきた。
彼女は、僕の前に並んだまま身を乗り出して、前方の召喚陣を窺っていた。
見ると、確かにグランドゴーレムの前で誇らしげに笑っているリンド君の姿があった。
彼が立ち上がったのと同時にグランドゴーレムが咆哮を上げ、村人たちが盛り上がる。
「すげえ! Bランクモンスターだ!」
「よくやったぞ、リンド!」
「パルナ村じゃ何年ぶりだ!?」
初めにCランクモンスターを出した少年の時よりも一層、教会の中は騒がしくなる。
彼にいじめられている僕でさえ、ついつい拍手してしまいそうになった。
数々の冒険譚を読んできた僕には分かる。
Bランクモンスターは、それらの物語に多数登場し、現代の凄腕冒険者たちの間でも主戦力になっている貴重な存在だ。
一説によると……Dランクモンスターを召喚できるのは五十人に一人。Cランクは百人に一人。Bランクになると千人に一人と言われている。
その情報が正確かどうかは分からないけど、希少な存在であるのは間違いない。
いまだ唖然としている僕は、そんなモンスターを引き当てたリンド君に見入っていた。
すると彼は周りの声援に応えた後、列の最後尾にいる僕をまっすぐ見返してくる。
いつも一緒に遊んでいる友達の方ではなく、見物に来ている両親の方でもない。
僕と、そしてファナに、遠目からでも分かるくらい、勝ち誇った顔を向けてきた。
それに対して、ファナはムッと顔をしかめる。見てろよと言わんばかりに袖をまくり、ついでに舌まで出していた。
反対に僕は、わくわくしていた気持ちがすっかり萎えてしまった。
まさかリンド君があそこまで高ランクのモンスターを召喚するなんて、思ってもみなかった。彼と同じか、それ以上のモンスターを呼び出せなければ、またからかわれるに違いない。
不安を抱えて肩を落としていると、儀式はいつの間にか僕とファナを残すのみになっていた。
「では、残るはそこの二人だ。前へ来い」
「は~い」
「……」
気楽に返事したファナと違い、僕は無言でとぼとぼと召喚陣の前に出る。
それを確認した神父様は、他の子たちと同じように、儀式のやり方を教えてくれた。
「それでは、この召喚陣に両手を当てなさい。それだけで従魔を呼び出せる」
「は~い」
再び気楽な声で応えると、ファナは僕よりも前に出て、にこっと笑った。
「それじゃルゥ、私から行かせてもらうね」
「うん」
異論はなし。
僕は意図せず今年のパルナ村の召喚の儀で、大トリを務めることになった。
そしてファナは、召喚陣の前に膝をつく。
両手を陣に当て、これからやって来るパートナーと心を通わせるように、そっと目を閉じた。
瞬間、凄まじいまでの真っ赤な光が召喚陣から放たれる。
今までとは比べ物にならないほど強大な反応。
光は教会の中を赤一色に染め上げて、見物していた村人たちの目を容赦なく襲った。
そして僕たちは……召喚陣の中央にいる、巨大な影を目にする。
「こ……これは……」
神父様は、信じられないとばかりに声を漏らす。
赤い鱗をまとった爬虫類状の体。はばたくだけで強風を起こしそうな巨大な両翼。獣型モンスターにも負けない鋭い牙と爪。
それは、あらゆる英雄譚で、時に頼りがいのある味方として、あるいは英雄たちを苦しめる凶悪な敵として描かれる伝説上のモンスター、超が付くほどのレアモンスター……ドラゴンだった。
硬直していた神父様は、はっとなって図鑑を開き、食い入るように目を通して叫んだ。
「フレアドラゴンだ! 召喚の儀で呼び出せる最高クラスの、Aランクモンスターだ!」
しかし村人たちは先刻のように盛り上がったりはしない。
パルナ村でも昔は、Aランクのモンスターを呼び出す人がいたらしいが、ドラゴンとなると話は別のようだ。
突然、伝説上の魔物を目の前に召喚されて、皆どうしていいのか分からず固まっている。
僕もそのドラゴンを見上げて竦んでいた。
召喚の儀によって呼び出されたモンスターは、主人に絶対服従。命令されなければスキルや魔法を使うこともできない。だから、このドラゴンが自分の意思でこの場にいる誰かに襲いかかるようなことは絶対にない。
そう頭で分かっていても、知らず知らずのうちに一歩引いてしまう。
だが、村人全員の恐怖は、一人の少女のお気楽な声で、あっさり消え去ってしまった。
「うわっ、すごっ! Aランクモンスター!? やったー! リンドに勝ったー!」
村人たちを凍りつかせたフレアドラゴンの前で、ファナは嬉しそうに飛び跳ねる。
次いで召喚陣の中に踏み込んで、ドラゴンに手を差し伸べた。
「これからよろしくね、ドラゴンさん」
「クルル」
赤い鱗をまとったドラゴンは、想像していたよりもだいぶ高い声で鳴いた。
次いでファナの手の下に頭を滑り込ませる。
撫でて、という意思表示なのだろうか。
ファナがそれに応え、数回ドラゴンの頭を撫でてあげると、またも可愛らしい声が教会の中に響き渡った。
「あっ、声高いね。もしかして女の子? スタイルいいからそうだと思ってたんだよぉ」
ドラゴンにスタイルも何もないと思うんだけど。
だが、よくよく見てみると、彼女が呼び出したフレアドラゴンは、僕が思い描くドラゴンよりも細い体つきをしている。加えて、どことなく顔が綺麗な気がするのだ。
恐ろしいというより、見入ってしまうような美しさがあるというか……
それに、体もそれほど大きくない。翼や外見の迫力のせいでいくらか〝盛って〟しまうが、実際は大人一人がちょうど乗れるくらいだ。
下手したら、リンド君のグランドゴーレムの方が大きいかも。
モンスターにももちろん雄と雌があるので、ファナの言う通り、あのフレアドラゴンは雌なのかもしれない。
時間が止まっていたかのように呆然としていた村人たちは、ファナのお気楽な声を聞いて我に返る。そして、リンド君の時とはまた違った盛り上がりを見せた。
「Aランクだ! Aランクモンスターが出たぞ!」
「しかもドラゴンだ!」
「村全体に伝えろ!」
一瞬にして大騒ぎになってしまった。
当然だ。Aランクモンスターの中でもレア中のレア、ドラゴンなのだから。
騒ぎのせいでしばらく召喚の儀が中断され、僕の順番が残っていることが忘れ去られてしまうんじゃないかと心配になるくらい、ファナに対する称賛は続いた。
大人たちの中にはファナを街の衛兵や専属の護衛に誘う者、果ては結婚を申し込む青年までいた。
彼らはこの村の者ではなく、優秀な人材を見つけるために見学に来ていた、大きな街の人間たちだろう。
そして皆がようやく落ち着きを取り戻し、ついに僕の番がやってきた。
「では最後、そこの少年」
「は、はい」
僕はおずおずと召喚陣の前に歩み出る。
その最中、儀式を終えて見物に移っていたファナが手を振ってくれた。
「頑張れ、ルゥ! 私と同じAランクモンスター出しちゃえ!」
「あ、あはは……」
たぶんそれは無理。
しかし、そんな無茶な声援のおかげで、変な緊張感はなくなった。
村の大人たちはファナのAランクモンスターが見られて満足し、その余韻に浸って気分良く帰りたいと思っているだろう。
そんなプレッシャーすら、今は感じない。
僕は召喚陣に両手を当てる。
これからやってくる、生涯を共にするパートナーを思い、祈りを捧げるように目を閉じる。
これが僕の、召喚の儀。
僕も、他の皆やリンド君みたいに。
最高クラスのモンスターを呼び出した、ファナみたいに。
これまで読んできた冒険譚の、英雄みたいに。
――力がほしい。
瞬間、目の前の地面に描かれた召喚陣が、水色の光を放ちはじめた。
目も開けられないほど強い光で、ファナの時と同じくらいの強烈な反応だ。
薄暗い教会の中を明るく照らし出した水色の光はやがて弱まり、召喚陣の中心に収束するようにしぼんでいく。
皆、一斉に目を開けた。
他の従魔たちとは比べ物にならない大物を期待し、わくわくした様子で召喚陣の中央に目を向ける。
しかし、そこにいたのは……
プルプルとした丸い体が特徴の、小さな小さなモンスター。
全身が透明感のある水色に染まっており、その中央にはくりっとした黒い瞳が二つ付いている。
他の子たちの従魔とは、迫力も大きさも全然違う、とても可愛いらしいモンスター。
そのモンスターは僕たちの視線に気がつくと、挨拶をするように召喚陣の上でぴょんと跳ねた。
「キュルキュル!」
この場に似つかわしくない、なんとも可愛らしい鳴き声が教会の中に響き渡った。
「……えっ?」
先刻のファナの召喚の儀とは、また違った種類の沈黙。
驚くというより、唖然とするような反応。
誰も、何も言わなかった。
そこに、召喚の儀を取り仕切る神父様の声が小さく響く。
彼は右手に抱えたモンスターの図鑑を開くことなく、ぼそっと呟いた。
図鑑を見なくても簡単に分かってしまう。
僕にだって、分かる。
村のみんなだって知っている。
このモンスターを知らない人なんていない。誰もが一度は見たことがある、特別なことなんか何もない、ごくありふれたモンスター。
「……スライム。Fランクモンスター」
召喚陣の上にいるスライムは、神父様の声に応えるように、その体を震わせた。
「キュルキュル!」
こうして僕は、相棒と出会った。
********
召喚の儀が終わった後のことを、僕はあまり覚えていない。
パートナーになったモンスターがスライムだった、という衝撃のせいもあると思う。
だけど一番は、あの衆人環視の中で最低ランクのモンスターを召喚してしまい、教会が揺れるほどの大爆笑を買ってしまったことが原因だ。
人生で一番恥ずかしい目にあった。
当然、同じく召喚の儀を受けたいじめっ子たちは、僕を指差してバカにしてきた。
リンド君に至っては、〝なんだよそのモンスター、格好よすぎだろ〟と、窒息しそうなほどに笑っていた。
本当に恥ずかしい。
「ねえルゥ? 今日も晩ご飯、作りに行ってあげよっか?」
召喚の儀を終えて足取り重く帰宅していると、後ろからファナが声を掛けてくれた。
落ち込んでいる僕を慰めるつもりだろう。
あの場において、笑わなかったのはファナだけだ。
まさか神父様も笑うとは、夢にも思わなかった。
僕はどうしようか迷いつつ、後ろを振り向く。
そこには凛々しくて格好いいフレアドラゴンを連れた女の子がいた。
その光景を見ると、変なところが痛みだす。
隣でぴょんぴょん跳ねている相棒のスライムに無意識のうちに視線を落とし、僕はつい口走ってしまった。
「いや、今日はいいよ」
「……そっか」
再び重い沈黙が訪れる。
ファナとは小さい頃からの付き合いだけど、こうも話が続かないのは初めてだ。
それを嫌ってか、後ろからついてくるファナが話を振った。
「ところでさ、ルゥはもうその子の名前決めた?」
「……名前?」
「うん。召喚の儀で授かったスライムちゃんの名前。テイマーになったら、それも決めなきゃいけないじゃん。まあ、そのままモンスターの種類で呼ぶ人もいるけど、ルゥはどうなのかな~って」
「えっと、じゃあ……スライムだから、ライム……とか」
「ライム……ちゃん? ぷっ、安直すぎ」
「……かもね」
ファナが一生懸命この場を盛り上げようとしてくれる。
だけど僕は適当な相槌を打つことしかできない。
いつもなら、落ち込んでもすぐに吹っ切れて、何事もなかったかのように彼女と会話ができるのだが、今回だけはそうもいかない。
今の僕の落ち込み方は、意地悪をされた時とはまったく別のものだ。
再度静寂が二人を包む中、不意にファナが声を落として聞いてきた。
「ねえルゥ、これからどうするの?」
質問の意図が分からなかった僕は、彼女の方を振り向いて首を傾げる。
「……これから?」
「うん。儀式が終わった後、村長のカムイおじさんから話を聞いたでしょ」
「えっ……と……」
そう言われて必死に思い返してみる。正直言って、僕は自分の召喚の儀が終わった後のことを、あんまり覚えていないのだ。
村長のカムイおじさんは、両親がいない僕の面倒を見てくれた人だ。
ていうか、今もお世話になっている。
あの後、おじさんは何を言ったんだっけ?
「ほら、私たちの進路のこと」
「あぁ……」
ようやく思い出した。
召喚の儀を受けた子供たちを集めてカムイおじさんが話したのは、僕たちの進路のこと。
基本的に、女神様からモンスターを授かった子供たちは、モンスターに合わせて仕事を選ぶことになる。
自分の夢と従魔が見事に合っている人は、そのまま夢を追いかければいいし、合っていなかった人は、ある程度妥協してモンスターの適性に合った仕事を選ばなくちゃならない。
中にはそんなこと関係なく自分の夢を追いかける人もいれば、単純に代々の家業を継ぐ人だっている。
そんな将来の話の他に、村の掟についても教えてもらった。
パルナ村では、少なくとも二十歳になるまでは村で仕事をしなければならないという掟がある。自分を育ててくれた村に恩を返すという意味もあるが、十五歳を迎えたばかりの新成人たちをいきなり外の世界に出すのは危険という判断だ。
村での仕事を五年続けてみて、それから自由に仕事を選べばいいという、現実的な掟だった。
ファナはそれについて聞いたのだ。
しかし僕は、逆に質問で返した。
「……ファナはどうするつもりなの? 召喚の儀が終わった後、たくさんの人たちから勧誘を受けてたよね?」
そして、胸の内が痛むのを自覚しながら続ける。
「それに、Aランクモンスターを召喚できたんだから、今すぐに村を出られるでしょ」
パルナ村の掟には例外がある。それは、Aランクモンスターを召喚できた者は、五年の奉公をまたず、自由に道を選べるというもの。突出した才能を持つ若者を、五年も村に縛り付けておくのは勿体ないという判断から生まれた特例らしい。
十五歳を迎えたばかりの子供を外に出すのは確かに危険だが、Aランクモンスターを従魔にしているのだから問題ない。
それに権利を行使するかどうかは召喚の儀を受けた新成人の自己判断。一応、もう大人なのだからということだろう。
「うん、そうなんだけど……」
ファナは曖昧な感じで首を縦に振り、そしてお馴染みのお気楽な声で続けた。
「私も五年は村で仕事しよっかな~って」
「えっ!? な、なんで!?」
その答えに衝撃を受け、反射的に聞き返していた。
「なんでって、それはまあ、なんとなくだよ」
「なんとなく……って。でも、色んなところから勧誘を受けてたでしょ? 王都の衛兵とか、隣国の王子様と……その……結婚とか。勿体なくない?」
「全然。衛兵とか王子様と結婚とか、興味ないし。それに、村にはお母さんがいるから」
ファナは本当に、なんでもないようにそう答える。
彼女の性格なら、ただ報酬がお高いだけの職業に目がくらむはずもない。
それに彼女は僕と同じように、親を亡くしている身だ。僕のように両方の親ではなく、お父さんだけだけど。
お母さんの名前はルナ・リズベルさん。ファナと同じく正義感が強く、お気楽で、それでいてしっかりしている優しい人だ。
両親がいない僕は小さい頃からそのルナさんによくしてもらった。
そんなお母さんと離れ離れになるのが寂しいという理由なら、確かに納得できる。
だけど……
その声を受けて、先頭に立っていた少年が元気よく返事をした。
そして言われた通り、膝をつき、召喚陣に両手を当てる。
瞬間、円形の陣から真っ白な光が放たれ、教会の中を明るく照らし出した。
これが従魔召喚。生涯のパートナーと出会うための、召喚の儀。
光が収まると、召喚陣の真ん中に一匹のモンスターが出現していた。
針のように尖った白い毛に、獣らしい鋭い牙と爪。恐ろしくも格好いい、立派な白狼だ。
「ホワイトウルフ。Cランクモンスターだ」
神父様は手に持っていた本――おそらくはモンスターの詳細が書かれた図鑑――に目を通し、そう宣言する。
周りからは大きな拍手と歓声が上がった。
「いきなりCランクモンスターかよ」
「今年は豊作かもな」
村の大人たちは口々に、一人目の少年を称える。
Cランクモンスターは、確かに素晴らしい結果と言っていいだろう。
モンスターにはそれぞれ、ランクというものが設定されている。
強さ、応用性、希少性。この三つを総合的に判断し、モンスターの価値――ランクを定めているのだ。
ランクは全部で六つ。
上からA、B、C、D、E、F。
一般的にDランクモンスターを当てれば仕事には困らなくなると言われているので、Cランクモンスターを引き当てたあの少年の召喚の儀は、十分成功したと言っていい。
パルナ村は元々、高ランクモンスターのテイマーたちを輩出することで有名だ。
昨年はどうやらあまり良い結果が残せなかったらしく、大きく肩を落としていた人たちが多かった。
まあ、去年のこの時期は流行り病が猛威を振るっていて、召喚の儀を受けた子供たちがそもそも少なかったから仕方がないんだけど。
それに対して今年は、十五歳になった子供たちが多いのみならず、昨年病気のために召喚の儀を受けられなかった子供たちも集まったため、昨年に比べて倍以上もの人数となった。
おかげで村はかなりのお祭り騒ぎになっている。
一人目でCランクモンスターが出たとあって、村人たちの期待は高まるばかり。
「それでは次の者、前へ」
控えめにガッツポーズをする少年に続き、儀式は順調に進められていった。
「ラージホーネット。Dランクモンスター」
「ベノムスパイダー。Dランクモンスター」
「エリートエイプ。Cランクモンスター」
神父様がモンスターの名前とランクを口にする度に、村人たちは拍手と歓声を上げた。
そして子供たちは一生を共にするパートナーと出会って、喜びの笑みを浮かべる。
早く僕の順番が回ってきてほしい。
わくわくしながら召喚の儀の列に並んでいると、神父様から驚きの声が上がる。
「び、Bランクだ! グランドゴーレム! Bランクモンスターだ!」
その声に教会の中にいる村人たちは全員、口を噤んで前方を注視した。
そこには、他のモンスターとは大きさも雰囲気もまるで違う、頑丈な岩のブロックを積み上げたような、巨人型のモンスターが鎮座していた。
「何……あれ……」
僕は驚きのあまり声を漏らしてしまう。
一目見ただけで、そのモンスターの強さ、恐ろしさが分かる。
神父様が言った通りなら、あのモンスターの種族は力と堅さが自慢の、ゴーレム種。
その中でも、Bランクのグランドゴーレム。
一体、誰がそんなモンスターを……
「リンドの奴、いいモンスターを引き当てたみたいだね」
「えっ……」
不意に、どこか忌々しげなファナの声が聞こえてきた。
彼女は、僕の前に並んだまま身を乗り出して、前方の召喚陣を窺っていた。
見ると、確かにグランドゴーレムの前で誇らしげに笑っているリンド君の姿があった。
彼が立ち上がったのと同時にグランドゴーレムが咆哮を上げ、村人たちが盛り上がる。
「すげえ! Bランクモンスターだ!」
「よくやったぞ、リンド!」
「パルナ村じゃ何年ぶりだ!?」
初めにCランクモンスターを出した少年の時よりも一層、教会の中は騒がしくなる。
彼にいじめられている僕でさえ、ついつい拍手してしまいそうになった。
数々の冒険譚を読んできた僕には分かる。
Bランクモンスターは、それらの物語に多数登場し、現代の凄腕冒険者たちの間でも主戦力になっている貴重な存在だ。
一説によると……Dランクモンスターを召喚できるのは五十人に一人。Cランクは百人に一人。Bランクになると千人に一人と言われている。
その情報が正確かどうかは分からないけど、希少な存在であるのは間違いない。
いまだ唖然としている僕は、そんなモンスターを引き当てたリンド君に見入っていた。
すると彼は周りの声援に応えた後、列の最後尾にいる僕をまっすぐ見返してくる。
いつも一緒に遊んでいる友達の方ではなく、見物に来ている両親の方でもない。
僕と、そしてファナに、遠目からでも分かるくらい、勝ち誇った顔を向けてきた。
それに対して、ファナはムッと顔をしかめる。見てろよと言わんばかりに袖をまくり、ついでに舌まで出していた。
反対に僕は、わくわくしていた気持ちがすっかり萎えてしまった。
まさかリンド君があそこまで高ランクのモンスターを召喚するなんて、思ってもみなかった。彼と同じか、それ以上のモンスターを呼び出せなければ、またからかわれるに違いない。
不安を抱えて肩を落としていると、儀式はいつの間にか僕とファナを残すのみになっていた。
「では、残るはそこの二人だ。前へ来い」
「は~い」
「……」
気楽に返事したファナと違い、僕は無言でとぼとぼと召喚陣の前に出る。
それを確認した神父様は、他の子たちと同じように、儀式のやり方を教えてくれた。
「それでは、この召喚陣に両手を当てなさい。それだけで従魔を呼び出せる」
「は~い」
再び気楽な声で応えると、ファナは僕よりも前に出て、にこっと笑った。
「それじゃルゥ、私から行かせてもらうね」
「うん」
異論はなし。
僕は意図せず今年のパルナ村の召喚の儀で、大トリを務めることになった。
そしてファナは、召喚陣の前に膝をつく。
両手を陣に当て、これからやって来るパートナーと心を通わせるように、そっと目を閉じた。
瞬間、凄まじいまでの真っ赤な光が召喚陣から放たれる。
今までとは比べ物にならないほど強大な反応。
光は教会の中を赤一色に染め上げて、見物していた村人たちの目を容赦なく襲った。
そして僕たちは……召喚陣の中央にいる、巨大な影を目にする。
「こ……これは……」
神父様は、信じられないとばかりに声を漏らす。
赤い鱗をまとった爬虫類状の体。はばたくだけで強風を起こしそうな巨大な両翼。獣型モンスターにも負けない鋭い牙と爪。
それは、あらゆる英雄譚で、時に頼りがいのある味方として、あるいは英雄たちを苦しめる凶悪な敵として描かれる伝説上のモンスター、超が付くほどのレアモンスター……ドラゴンだった。
硬直していた神父様は、はっとなって図鑑を開き、食い入るように目を通して叫んだ。
「フレアドラゴンだ! 召喚の儀で呼び出せる最高クラスの、Aランクモンスターだ!」
しかし村人たちは先刻のように盛り上がったりはしない。
パルナ村でも昔は、Aランクのモンスターを呼び出す人がいたらしいが、ドラゴンとなると話は別のようだ。
突然、伝説上の魔物を目の前に召喚されて、皆どうしていいのか分からず固まっている。
僕もそのドラゴンを見上げて竦んでいた。
召喚の儀によって呼び出されたモンスターは、主人に絶対服従。命令されなければスキルや魔法を使うこともできない。だから、このドラゴンが自分の意思でこの場にいる誰かに襲いかかるようなことは絶対にない。
そう頭で分かっていても、知らず知らずのうちに一歩引いてしまう。
だが、村人全員の恐怖は、一人の少女のお気楽な声で、あっさり消え去ってしまった。
「うわっ、すごっ! Aランクモンスター!? やったー! リンドに勝ったー!」
村人たちを凍りつかせたフレアドラゴンの前で、ファナは嬉しそうに飛び跳ねる。
次いで召喚陣の中に踏み込んで、ドラゴンに手を差し伸べた。
「これからよろしくね、ドラゴンさん」
「クルル」
赤い鱗をまとったドラゴンは、想像していたよりもだいぶ高い声で鳴いた。
次いでファナの手の下に頭を滑り込ませる。
撫でて、という意思表示なのだろうか。
ファナがそれに応え、数回ドラゴンの頭を撫でてあげると、またも可愛らしい声が教会の中に響き渡った。
「あっ、声高いね。もしかして女の子? スタイルいいからそうだと思ってたんだよぉ」
ドラゴンにスタイルも何もないと思うんだけど。
だが、よくよく見てみると、彼女が呼び出したフレアドラゴンは、僕が思い描くドラゴンよりも細い体つきをしている。加えて、どことなく顔が綺麗な気がするのだ。
恐ろしいというより、見入ってしまうような美しさがあるというか……
それに、体もそれほど大きくない。翼や外見の迫力のせいでいくらか〝盛って〟しまうが、実際は大人一人がちょうど乗れるくらいだ。
下手したら、リンド君のグランドゴーレムの方が大きいかも。
モンスターにももちろん雄と雌があるので、ファナの言う通り、あのフレアドラゴンは雌なのかもしれない。
時間が止まっていたかのように呆然としていた村人たちは、ファナのお気楽な声を聞いて我に返る。そして、リンド君の時とはまた違った盛り上がりを見せた。
「Aランクだ! Aランクモンスターが出たぞ!」
「しかもドラゴンだ!」
「村全体に伝えろ!」
一瞬にして大騒ぎになってしまった。
当然だ。Aランクモンスターの中でもレア中のレア、ドラゴンなのだから。
騒ぎのせいでしばらく召喚の儀が中断され、僕の順番が残っていることが忘れ去られてしまうんじゃないかと心配になるくらい、ファナに対する称賛は続いた。
大人たちの中にはファナを街の衛兵や専属の護衛に誘う者、果ては結婚を申し込む青年までいた。
彼らはこの村の者ではなく、優秀な人材を見つけるために見学に来ていた、大きな街の人間たちだろう。
そして皆がようやく落ち着きを取り戻し、ついに僕の番がやってきた。
「では最後、そこの少年」
「は、はい」
僕はおずおずと召喚陣の前に歩み出る。
その最中、儀式を終えて見物に移っていたファナが手を振ってくれた。
「頑張れ、ルゥ! 私と同じAランクモンスター出しちゃえ!」
「あ、あはは……」
たぶんそれは無理。
しかし、そんな無茶な声援のおかげで、変な緊張感はなくなった。
村の大人たちはファナのAランクモンスターが見られて満足し、その余韻に浸って気分良く帰りたいと思っているだろう。
そんなプレッシャーすら、今は感じない。
僕は召喚陣に両手を当てる。
これからやってくる、生涯を共にするパートナーを思い、祈りを捧げるように目を閉じる。
これが僕の、召喚の儀。
僕も、他の皆やリンド君みたいに。
最高クラスのモンスターを呼び出した、ファナみたいに。
これまで読んできた冒険譚の、英雄みたいに。
――力がほしい。
瞬間、目の前の地面に描かれた召喚陣が、水色の光を放ちはじめた。
目も開けられないほど強い光で、ファナの時と同じくらいの強烈な反応だ。
薄暗い教会の中を明るく照らし出した水色の光はやがて弱まり、召喚陣の中心に収束するようにしぼんでいく。
皆、一斉に目を開けた。
他の従魔たちとは比べ物にならない大物を期待し、わくわくした様子で召喚陣の中央に目を向ける。
しかし、そこにいたのは……
プルプルとした丸い体が特徴の、小さな小さなモンスター。
全身が透明感のある水色に染まっており、その中央にはくりっとした黒い瞳が二つ付いている。
他の子たちの従魔とは、迫力も大きさも全然違う、とても可愛いらしいモンスター。
そのモンスターは僕たちの視線に気がつくと、挨拶をするように召喚陣の上でぴょんと跳ねた。
「キュルキュル!」
この場に似つかわしくない、なんとも可愛らしい鳴き声が教会の中に響き渡った。
「……えっ?」
先刻のファナの召喚の儀とは、また違った種類の沈黙。
驚くというより、唖然とするような反応。
誰も、何も言わなかった。
そこに、召喚の儀を取り仕切る神父様の声が小さく響く。
彼は右手に抱えたモンスターの図鑑を開くことなく、ぼそっと呟いた。
図鑑を見なくても簡単に分かってしまう。
僕にだって、分かる。
村のみんなだって知っている。
このモンスターを知らない人なんていない。誰もが一度は見たことがある、特別なことなんか何もない、ごくありふれたモンスター。
「……スライム。Fランクモンスター」
召喚陣の上にいるスライムは、神父様の声に応えるように、その体を震わせた。
「キュルキュル!」
こうして僕は、相棒と出会った。
********
召喚の儀が終わった後のことを、僕はあまり覚えていない。
パートナーになったモンスターがスライムだった、という衝撃のせいもあると思う。
だけど一番は、あの衆人環視の中で最低ランクのモンスターを召喚してしまい、教会が揺れるほどの大爆笑を買ってしまったことが原因だ。
人生で一番恥ずかしい目にあった。
当然、同じく召喚の儀を受けたいじめっ子たちは、僕を指差してバカにしてきた。
リンド君に至っては、〝なんだよそのモンスター、格好よすぎだろ〟と、窒息しそうなほどに笑っていた。
本当に恥ずかしい。
「ねえルゥ? 今日も晩ご飯、作りに行ってあげよっか?」
召喚の儀を終えて足取り重く帰宅していると、後ろからファナが声を掛けてくれた。
落ち込んでいる僕を慰めるつもりだろう。
あの場において、笑わなかったのはファナだけだ。
まさか神父様も笑うとは、夢にも思わなかった。
僕はどうしようか迷いつつ、後ろを振り向く。
そこには凛々しくて格好いいフレアドラゴンを連れた女の子がいた。
その光景を見ると、変なところが痛みだす。
隣でぴょんぴょん跳ねている相棒のスライムに無意識のうちに視線を落とし、僕はつい口走ってしまった。
「いや、今日はいいよ」
「……そっか」
再び重い沈黙が訪れる。
ファナとは小さい頃からの付き合いだけど、こうも話が続かないのは初めてだ。
それを嫌ってか、後ろからついてくるファナが話を振った。
「ところでさ、ルゥはもうその子の名前決めた?」
「……名前?」
「うん。召喚の儀で授かったスライムちゃんの名前。テイマーになったら、それも決めなきゃいけないじゃん。まあ、そのままモンスターの種類で呼ぶ人もいるけど、ルゥはどうなのかな~って」
「えっと、じゃあ……スライムだから、ライム……とか」
「ライム……ちゃん? ぷっ、安直すぎ」
「……かもね」
ファナが一生懸命この場を盛り上げようとしてくれる。
だけど僕は適当な相槌を打つことしかできない。
いつもなら、落ち込んでもすぐに吹っ切れて、何事もなかったかのように彼女と会話ができるのだが、今回だけはそうもいかない。
今の僕の落ち込み方は、意地悪をされた時とはまったく別のものだ。
再度静寂が二人を包む中、不意にファナが声を落として聞いてきた。
「ねえルゥ、これからどうするの?」
質問の意図が分からなかった僕は、彼女の方を振り向いて首を傾げる。
「……これから?」
「うん。儀式が終わった後、村長のカムイおじさんから話を聞いたでしょ」
「えっ……と……」
そう言われて必死に思い返してみる。正直言って、僕は自分の召喚の儀が終わった後のことを、あんまり覚えていないのだ。
村長のカムイおじさんは、両親がいない僕の面倒を見てくれた人だ。
ていうか、今もお世話になっている。
あの後、おじさんは何を言ったんだっけ?
「ほら、私たちの進路のこと」
「あぁ……」
ようやく思い出した。
召喚の儀を受けた子供たちを集めてカムイおじさんが話したのは、僕たちの進路のこと。
基本的に、女神様からモンスターを授かった子供たちは、モンスターに合わせて仕事を選ぶことになる。
自分の夢と従魔が見事に合っている人は、そのまま夢を追いかければいいし、合っていなかった人は、ある程度妥協してモンスターの適性に合った仕事を選ばなくちゃならない。
中にはそんなこと関係なく自分の夢を追いかける人もいれば、単純に代々の家業を継ぐ人だっている。
そんな将来の話の他に、村の掟についても教えてもらった。
パルナ村では、少なくとも二十歳になるまでは村で仕事をしなければならないという掟がある。自分を育ててくれた村に恩を返すという意味もあるが、十五歳を迎えたばかりの新成人たちをいきなり外の世界に出すのは危険という判断だ。
村での仕事を五年続けてみて、それから自由に仕事を選べばいいという、現実的な掟だった。
ファナはそれについて聞いたのだ。
しかし僕は、逆に質問で返した。
「……ファナはどうするつもりなの? 召喚の儀が終わった後、たくさんの人たちから勧誘を受けてたよね?」
そして、胸の内が痛むのを自覚しながら続ける。
「それに、Aランクモンスターを召喚できたんだから、今すぐに村を出られるでしょ」
パルナ村の掟には例外がある。それは、Aランクモンスターを召喚できた者は、五年の奉公をまたず、自由に道を選べるというもの。突出した才能を持つ若者を、五年も村に縛り付けておくのは勿体ないという判断から生まれた特例らしい。
十五歳を迎えたばかりの子供を外に出すのは確かに危険だが、Aランクモンスターを従魔にしているのだから問題ない。
それに権利を行使するかどうかは召喚の儀を受けた新成人の自己判断。一応、もう大人なのだからということだろう。
「うん、そうなんだけど……」
ファナは曖昧な感じで首を縦に振り、そしてお馴染みのお気楽な声で続けた。
「私も五年は村で仕事しよっかな~って」
「えっ!? な、なんで!?」
その答えに衝撃を受け、反射的に聞き返していた。
「なんでって、それはまあ、なんとなくだよ」
「なんとなく……って。でも、色んなところから勧誘を受けてたでしょ? 王都の衛兵とか、隣国の王子様と……その……結婚とか。勿体なくない?」
「全然。衛兵とか王子様と結婚とか、興味ないし。それに、村にはお母さんがいるから」
ファナは本当に、なんでもないようにそう答える。
彼女の性格なら、ただ報酬がお高いだけの職業に目がくらむはずもない。
それに彼女は僕と同じように、親を亡くしている身だ。僕のように両方の親ではなく、お父さんだけだけど。
お母さんの名前はルナ・リズベルさん。ファナと同じく正義感が強く、お気楽で、それでいてしっかりしている優しい人だ。
両親がいない僕は小さい頃からそのルナさんによくしてもらった。
そんなお母さんと離れ離れになるのが寂しいという理由なら、確かに納得できる。
だけど……
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