冒険者試験に落ちた少年、思い切って闇ギルドの門を叩いてみる

空 水城

文字の大きさ
3 / 35

第三話 「勧誘」

しおりを挟む
 
 先刻の強面男のような野太い声ではなく、高く響くいかにも幼女らしい声。
 いったい何事だろうと振り返ると、不思議なことにそこには誰もいなかった。
 確かに声がしたはずなんだけど、もしかして今のは幻聴?

「ちょいちょいどこ見てんだよ兄ちゃん! ウチはここだよココ!」

「……?」

 再び声がしたかと思えば、不意に眼下からぴょんぴょんと小さな手が伸びてきた。
 視線を下げると、ようやくそこに声の主を見つける。
 フード付きの灰色マントを着た、なんとも不可解な小さき幼女。
 目深まで被られたフードから覗く童顔は、いかにも友達と楽しくおままごとをしていそうな幼さがあり、短い銀髪は手入れが行き届いていてとても艶やかに映った。
 髪と同色のつぶらな瞳もまたあどけなく、どこからどう見ても十歳以下の幼女にしか見えない。
 誰なんだろうこの子? なんでこんな危ない裏路地にいるのだろうか?
 ていうか僕に何か用なのかな? と疑問に思った僕は、ぎこちなく首を傾げた。

「えっと……何か?」

「いやいや、何ってほどのことでもないんだけどよ、ちょいと兄ちゃんに話があってさ」

 ……話?
 いったい何のことだろうと首を曲げながら待っていると、やがて幼女はにこっと純真な笑みを浮かべて、嬉々として問いかけてきた。

「兄ちゃんさ、さっき冒険者試験に落ちた『暗殺者』だよな!?」

「……」

 喧嘩売りに来たのかこいつ。
 相手がいくら幼女だからといって、これにはさすがに手が出そうになった。
 僕がどれだけ冒険者試験に落ちて落ち込んでいるかまるでわかっていないのか。
 ていうか見てたんなら察してくれよマジで。
 出そうになった手を泣く泣く引っ込めながら、僕は額に青筋を立てて聞き返した。

「そ、そうだけど、それが何?」

「いやいやだから、何ってほどのことじゃねえんだよ。ただウチは、もしかしたら兄ちゃんはとんでもねえ素質を備えているんじゃねえかって思って、その才能を埋もれさせておくのがどうしても惜しかったってだけなんだよ。だからそんなに警戒すんなよ兄ちゃん」

 幼女はその容姿に似合わない気さくな口調でそう言う。
 素質だの才能だの訳のわからないことを言う彼女に、いまだに疑問を覚えていると、奴は唐突に懐に手を入れ始めた。
 そこから一枚の紙を取り出して僕に差し出してくる。

「ほいこれ」

「……?」

「少しでも興味持ったら気軽に来いよ! んじゃな!」

 紙をこちらに手渡すや否や、幼女はたたたっと走り去ってしまった。
 その背中姿を見つめながら、僕は呆然と立ち尽くしてしまう。
 まるで嵐みたいな子だった。もう見えなくなってるし。
 あの子はいったい何者だったのだろう? 
 ずいぶんと可愛らしい子だったけど、あの容姿に似合わないおっさんみたいな接し方はどこで覚えたのだろうか?
 あっ、いやいやそんなことよりも、これはいったい何の紙なんだ?
 そう不思議に思って手元の紙を確認してみると、そこには……

「はっ? なんだこれ?」

 思わず首を傾げてしまう内容が書かれていた。

【求人募集】元気のある方・未経験者・天職に自信のない方でも大歓迎!
【仕事内容】殺人・窃盗・誘拐・密猟・詐欺
【給  与】高額お約束!
【資  格】年齢不問・天職不問・簡単な試験がございます
【勤務場所】闇ギルド
      まずはお気軽にギルドに足を運んでみてください!
                 スカウト屋 サーチナス

 紙の下部にはその勤務場所と思われる地図が描かれている。
 あまりに出来の悪い、ともすれば地雷にしか見えないだろう求人広告。
 それを見て、僕は思わず唖然としてしまった。
 これ、ブラックバイトの求人募集にしか見えないぞ。
 ていうかこれ、単に『犯罪しませんか?』って誘ってるのと同じだよな。
 それを包み隠そうともせず、勤務地も堂々と記載してあるし、色々とツッコミどころの多い求人だ。

「……闇、ギルド」

 僕は人知れず呟く。
 闇ギルド。普通の冒険者ギルドでは取り扱わないような違法な依頼を、超高額で受け持つ闇側のギルドのこと。
 もちろんその存在は知っている。
 冒険者を志していた身として、その対となる存在は当然耳にしたことがあるのだ。
 闇ギルドを摘発し、悪者を捕まえることも冒険者の仕事の一つだからな。
 だから、こうも堂々とした勧誘を受けて驚きを覚えてしまっている。
 
 まさか僕がその闇ギルドに勧誘されることになろうとは。
 というかさっきの子は闇ギルドの関係者だったのか。
 紙の下部に『スカウト屋 サーチナス』と書かれていることから、これが彼女の名前なのだろう。
 大方、冒険者試験に落ちた暗殺者の僕に、闇ギルドの適性がありそうだと思って声を掛けてきたってところか。
 いやはや、まったくもって遺憾である。
 冒険者を目指して冒険者試験を受けたというのに、それで落ちてまさか闇ギルドにスカウトされることになるなんて。
 でも……

「……」

 天職に自信のない方でも大歓迎。
 おまけに給与は高額を約束してくれるという。
 先ほどまで天職のことで悩み、仕事探しをしていた僕のことを、まるで導いているようだと思ってしまった。
 この求人募集の紙と、あの幼女との出会いが、どこか運命的なものだと感じてしまっている。

「……い、いやいや、なに考えてるんだよ僕は」

 そんなの間違っているだろ。
 いくら冒険者ギルドに拒絶されたからって、その反対の闇ギルドに行こうとか、考えが安直すぎるんじゃないのか?
 むしろこの求人広告をさっきの冒険者ギルドに持って行けば、今度こそ僕が悪者じゃないと証明できるんじゃないのか?
 それで試験の不合格も取り消しになって、晴れて僕は冒険者に……
 と、そこまで考えた僕は、自分の浅はかな考えに自らかぶりを振ってしまう。

 それこそ、何をバカなことを考えているんだか。
 今さっきのことを忘れたとか言うつもりじゃないだろうな。
 あそこまで明確に拒絶されて、なんで僕はまだ小さな希望とか抱いちゃってるんだよ。
 ホントバカバカしい。
 心中で嘲笑を浮かべた僕は、すべてがどうでもよくなって手元の紙を放り捨てようとした。
 
 ……のだが。
 紙から手を放す直前、僕はピタッと体を硬直させてしまう。
 耳の奥で蘇るのは、受付嬢さんからの拒絶的な言葉。対して手に握られているのは温かな希望。
 本当に自分のことを必要としてくれる場所とはどこなのか。
 ――少しでも興味持ったら気軽に来いよ!

 僕は手元の紙を放り捨てることはせず、綺麗に折り畳んでポケットの中に仕舞った。
 
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...