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第十一話 「屋敷への侵入」
しおりを挟むジャララの町に到着した。
予想通り、ちょうど暗くなる時間帯。
泥棒をするにはこの上ない好条件なので、僕らはさっそくくだんのヴァイス領主のお屋敷にお邪魔することにした。
ポカポカの町よりも経済が潤っている町並みを駆け抜けていく。
そしてヴァイス邸が近づいてきた辺りで、いったん僕たちは足を止めた。
「それでは、どのようにして屋敷に侵入しましょうか?」
まさにその屋敷を目前にし、近くの民家裏に潜みながらリスカが尋ねてくる。
馬車では話らしい話ができなかったので、作戦会議もこれからだ。
今回僕が受けた依頼は、ヴァイス領主から宝剣とやらを奪取すること。
その剣の見た目はクロム受付嬢からご教授いただいているので、目標については迷う心配はない。
それよりも気にするべきことは、いかにして屋敷に忍び込むかだ。
まあ僕には『隠密』スキルがあるので難しく考える必要はないのだが、こちらの能力について存じないリスカは当然のように疑問符を浮かべた。
「まさか真正面から行くわけにもいきませんし、強行突破をしようにもこの町にはそれなりに大きい冒険者ギルドがありますよ。騒ぎを起こしたら捕まえに来てしまいます。何か都合のいいスキルとか持っていますか?」
「うん。まあ一応、こういうのをね……」
そう言って僕は、説明を兼ねて実践してみせた。
存在を薄めるようにして徐々に息を殺していく。
するとそれに伴って、僕の体も次第に薄くなっていった。
自分で見るかぎりはこの程度だが、他の人からは完全に姿が消えたように映っているはず。
現に眼前のリスカは、僕を見失ったように焦点が合っていなかった。
後ろに回って脅かしてみようかな、と少し意地悪なことを考えもしたが、それでクロムさんを驚かしてしまったばかりなので遠慮しておく。
僕は隠密スキルを解き、唖然としているリスカに問いかけた。
「今のが『隠密』っていうスキルなんだけど、これで屋敷からこっそり宝剣を持ち出せるかな?」
「す、姿を完全に消すことができるスキル……ですか。暗殺者というだけあって、さらっととんでもないスキルを披露してくださいますね。まあ、確かにそれなら……」
行けるかもしれない。
と続けてくれようとしたのかもしれないが、不意に彼女は言葉を詰まらせた。
そしてはっと何かに気が付く。
「あっ、でもそれでしたら、行けるのはアサトさん一人ということになりますよね。私はそんな反則的なスキルは持っていませんし、できることといえば戦うことくらいです。……というかやっぱり、私の手助けは本当に必要だったんでしょうか? アサトさんなら一人でも楽勝だったと思うんですけど。むしろ私、侵入する時に”邪魔”になるような……」
ふとリスカは、どこか寂しげに目を俯かせたような気がした。
その様子がなんだか重い感じがして、思わず僕は慌ててしまう。
「い、いやいや、そんなこと全然ないよ。一人だとすごい不安だったし、たぶん僕だけじゃ変な失敗とかしちゃってたと思う。それにリスカが邪魔になることは絶対にないよ」
柄にもないと思ったが、僕は力強く断言してみせた。
それでもやはりまだ、リスカは不安そうに顔を伏せている。
確かに彼女の言うとおり、やろうと思えば僕一人でも楽勝だったかもしれない。
誰かの手助けが必要ないくらいに。
でもそれでリスカが邪魔になることだけは絶対にないと言い切れるのだ。
それをなんとしても証明するために、僕は意を決して強行に打って出た。
「ひゃあ!」
リスカが突然、小さな悲鳴を上げた。
僕がいきなり”手”を掴んだからだ。
驚くのも無理はない。
フードで隠れた顔を真っ赤にし、恥ずかしそうに身をよじっているが、それでも僕は手を放さない。
そんな状況に、リスカは激しく動揺した。
「ア、アア、アサトさん!? これはいったいどういう――!?」
「ほらリスカ、これ見て」
「……?」
不意に掴んだ手を持ち上げると、そこは僅かに”薄く”なっていた。
次いでリスカは自分の体にも目を落とし、はっとなって気が付く。
手だけではなく、全身が朧気になっていたのだ。
それはまるで、リスカも僕と同じように隠密スキルを使ったみたいに。
「こ、これは、いったい……?」
「隠密スキルの副次効果だよ。スキル発動中にこうして誰かと手をつなぐと、その人にも隠密の効果が”付与”されるんだ。これなら一緒に姿を隠して、屋敷に忍び込めるんじゃない?」
「……」
隠密スキルの秘密を新たに語ると、リスカは口を開けて呆けてしまった。
そして掴んだ手と薄くなった体を、せわしなく交互に見る。
その表情には、驚きと別の感情が入り混じっているように窺えた。
やがて彼女は、一方的に掴まれているだけだった手を控えめに握り返し、納得したように頷いた。
「ま、まあ、確かにこれでしたら、一緒に屋敷に侵入しても問題はないかと思います。で、ではその……このままで行くことになるのでしょうか?」
「あっ、うん、そういうことになるね。もしこの手が離れたら、隠密の効果も解けて僕のこと見えなくなっちゃうから、しっかりと掴んでてね」
「……は、はいぃ」
とりあえずこれで、一緒に屋敷に侵入することができるようになった。
窃盗クエストの成功率も、これで格段に上昇することだろう。
まあ、物静かだったリスカが、さらに大人しくなってしまった気もするが、それはいいとして。
こうして僕らは、手をつなぎながら屋敷へ侵入することになった。
つないだばかりの手は、思った以上に熱を帯びている感じもしたが、それも気にしないことにした。
いざ、侵入開始。
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