冒険者試験に落ちた少年、思い切って闇ギルドの門を叩いてみる

空 水城

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第二十話 「次の依頼」

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「ご苦労であってな二人とも」

 闇ギルドに帰ると、僕の担当であるクロムさんが受付で出迎えてくれた。
 労りの言葉を掛けてくれた彼女は、相も変わらず感情のない表情を浮かべている。
 それはいいとして、とりあえず僕は依頼の報告を済ませることにした。
 盗み出すよう指示された宝剣を受付カウンターの上に置く。
 クロムさんはそれを別段驚くこともなく取り上げ、軽く確認してから頷きを返した。

「うむ、確かに。これは間違いなく依頼目標の宝剣だ。これで闇クエストはクリアだよアサト君」

「よ、よかったです」

 大きく胸をなで下ろす。
 するとこちらのその様子を見ていなかったのか、クロムさんが的外れなことを口にした。

「闇ギルドにおける初依頼の達成率は、およそ半々と言われているのだが、やはり君は難なくクリアしてきたか」

「あっ、いや、難なくってわけではないんですけど……」

 むしろ難しいことしかなかった気がする。
 少し間違えていればクエスト失敗も当然だったのだから。
 おまけに今回はリスカの手を大いに借りてしまったし、とても難なくクリアできたとは言い難い。
 しかしそれはクロムさんには伝わらなかったようで、彼女はかぶりを振った。

「何も謙遜することはないさ。先ほども言ったと思うが、闇ギルドにおける初依頼の達成率は、だいたい半分ほどと言われている。そんな中で君は、それを期限内に無傷で達成してきたのだ。他の者とは比べ物にならないほどいい成績だと言える。それに……」

「……?」

「まさかあの『狂戦士』までたらしこんでしまうとは、いやはや恐れ入ったよ」

 なんだか言い知れぬ‘視線を僕の後方へと向けた。
 その先に立っていたリスカは、慌ててクロムさんに返す。

「た、たた、たらしこまれてませんから!」

 これには僕も異を唱えたかった。
 まるで僕がリスカをナンパしたみたいな物言いはやめていただきたい。
 僕らはあくまで闇ギルド内におけるパーティーとして手を組んでいるだけだ。
 そういう言い方はリスカにも迷惑だろうし、是非とも訂正を求めたい。
 と思っていたのだが、クロムさんは何事もなかったかのように話を続けた。

「では、依頼報告も終わったということで、さっそくその報酬を渡したいと思う。少しここで待っていてくれ」

「あ、あぁ、そういえばそうでしたね」

 報酬のことをすっかり忘れていた。
 そういえば闇クエストにもちゃんと報酬があるのだった。
 罰金を免れるためだけに頑張っていたけど、当初の目的はお金稼ぎである。
 報酬金額は確かぁ……と懸命に思い出そうとしていると、それよりも早くクロムさんが戻ってきた。

「今回の闇クエストの報酬は50万ギルだ。確認してくれ」

 ドサッと卓上に大きな袋が置かれる。
 びっくりするぐらい重い音を立てて置かれたそれは、紐で口を縛ってあった。
 僕は恐る恐る中身を確認してみる。
 するとそこには……

「う……おぉ……」

 キラキラと光る金貨がどっさりと入っていた。
 これが、50万ギル。
 闇クエスト一回分の報酬。
 一拍1000ギルの宿に五百回も泊まれる。
 一個10ギルの饅頭を五万個も食べられる。
 そんな大金が、いきなりポンと目の前に置かれた。

「ど、どうしたんですかアサトさん?」

 固まる僕を後方から眺めて、リスカがきょとんと首を傾げた。
 僕はおもむろに振り返り、震えた声で返す。

「ぼ、僕、こんな大金見たことないよ。これなら好きなものたくさん買えるし、好きなものもたくさん食べられるし……」

 それに、これから無理して働く必要もないじゃないか。
 節約すれば当分は暮らしていける額だぞ。
 僕は一気に大金持ちになってしまったのだ。
 闇クエストは多額な罰金が背景にある分、成功するととんでもないリターンが見込める。
 一度クリアするだけで二ヶ月くらいは働かなくて済むのだ。
 やばい。色々とやばいぞ闇クエスト。
 不本意ながらハマってしまいそうだ。
 
 だがまあ、なるべく悪さはしたくないという気持ちは変わっていないので、このお金を持ってできるだけ大人しくしていよう。
 無理に働く必要がないのなら、働かないに越したことはないのだから。
 なんて思っていたのだが、唐突にクロムさんが口を開いた。

「よし。報酬の受け渡しも済んだところで、続いて次の依頼の説明をしたいと思う」

「えっ? 次の依頼?」

「そう、次の依頼だ」

 ふっと麗しい微笑をたたえた。
 思わず呆然としていると、そんなこちらを意に介さず彼女は続けた。

「窃盗クエストを受けてもらった後で、少々毛色の異なる依頼になるのだが……」

「えっ、ちょ、待ってくださいクロムさん!」

「んっ?」

 ようやくのことで声を上げて、クロムさんを止めることに成功する。
 僕は落ち着いて呼吸をし、恐る恐る彼女に尋ねた。

「そ、そのぉ……一つ目の依頼が終わった後で、休息期間的なものとかはないんでしょうか?」

 具体的には”お休み”とかはいただけないのでしょうか?
 という意味の問いかけをすると、クロムさんは異国の言葉でも聞いたみたいな顔で疑問符を浮かべた。

「……? あるわけないだろうそんなもの」

「……」

 ……ですよねぇ。
 ここは闇ギルド。ブラックなのも当然。
 闇冒険者に自由はないし、休みなんてもってのほかである。
 それにこれまた期限内に達成できなければ罰金を科せられるのだろうし、ここは涙を呑んで言われた通りにやるしかないのだ。
 悲痛な覚悟を決めると、そのタイミングでクロムさんが次の依頼とやらの話をしてくれた。

「で、その次の依頼についてなのだが、最初に受けてもらった窃盗クエストとは少し毛色が違っていてな……」

「は、はぁ。それってどんな依頼なんでしょうか?」

 特に何も考えずに、気落ちした声で問いかけてみる。
 するとクロムさんは心なしか、悪戯的な笑みを浮かべた気がした。
 その表情もとても綺麗で、麗しくはあるのだが、僕は嫌な予感を禁じ得ない。
 人知れず不安に思っていると、クロムさんは今回の依頼の内容を、悪戯チックに教えてくれた。

「今度は思い切って、『誘拐クエスト』を君に設定してみた」

「……はいっ?」

 名前からして、なんだか穏やかならぬ空気を感じた。
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