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第三十二話 「罰」
しおりを挟む「てめえは……」
「……」
目が合うと、奴は細めた目を僅かに丸くして驚いていた。
僕の顔に見覚えがあったからだろう。
あの時は急いでフードを被ったが、やはり彼には見られていたらしい。
同じように後方の仲間たちも驚愕を露わにしており、唖然と立ち尽くしている。
それに対してこちらは反抗的な視線を返すと、ルークディアは別段この状況を見られたという危機感を抱いていないような反応を示した。
「おいおい、あの時の魔女誘拐犯じゃねえか! こんな場所で奇遇だな。もしかして今度こそ俺に捕まりに来たのか?」
もしこれが魔女誘拐犯ではなく、一般の人間だったらどう対応していたのだろうか?
そんなのは知る由もないことだが、僕は否定の言葉を返す代わりに睨みを利かせてかぶりを示した。
わざわざ出てきた理由が、捕まりに来たわけもないだろう。
改めてそれがわかったルークディアは、肩をすくめて続ける。
「ま、んなわけねえよな? あのとき尻尾巻いて逃げた奴が、今さら冒険者に捕まろうなんて考えるはずもねえよな。……で、お前そこで何してんの?」
今一度そう問いかけてくる。
捕まりに来たのではないのなら、お前はそこで何をしているのか。
聞くまでもないことだと思ったのだが、この状況を特におかしくもないと思っているこいつには、言葉での返答が必要だろう。
だから僕はようやくのことで、重い口を開くことにした。
「別に、少しやりすぎじゃないかなって思っただけだ」
「はっ? やりすぎ?」
ルークディアの頬が途端に緩む。
「ぷはっ! なに言ってんだてめえ!? やりすぎってもしかして今の魔法練習のこと言ってんのか?」
「……他に何があるって言うんだ? 明らかに今のはやりすぎだと……」
少し苛立ちながら返そうとすると、それより先に奴は、対照的にゲラゲラ笑いながら言った。
「いやいや、闇冒険者相手にやりすぎもクソもねえだろ! つーかてめえがそれを言うのかよ!? むしろお前らがしてることの方がよっぽどやりすぎだと思うんだけど? 他人の物を盗んだり、人を誘拐したり、人を殺したり……」
「……」
妙に癪だったが、耳が痛いと感じざるを得ない。
そんなこちらの心中を見抜いたかのように、奴は続ける。
「てめえも同じことやってんだからよくわかるだろ? 悪い奴には”罰”が必要なんだよ」
……罰。
確かに悪い奴には罰が必要だ。
それを否定するつもりはない。
だが……
「……確かに僕も、闇冒険者として少なからずの悪事を働いてきた。いつかは何かしらの罰を受けるべきだと思っている。でも……」
言いかけ、一層瞳に力を込めて奴を睨んだ。
「犯罪者が相手だからって、その人に何をしてもいいことにはならない。その人にはその人なりの、”相応”の罰がちゃんとあるんだ」
この闇冒険者さんには、闇冒険者さんなりの罰が。
そして僕にも、僕なりの罰というのがきっとあるはずだ。
それなのに面白半分で魔法の的にするなんて。
そんなの罰でもなんでもない。だからこいつのしていることは間違っている。
視線と言葉でそう強く主張すると、奴は一瞬驚いたように目を見張り、次いでにやりと頬を緩めた。
「へぇ、罪人の割にかっこいいこと言うじゃんか。でもよぉ、その罰っつーのはいったい誰が決めるんだ?」
「えっ?」
……誰が決めるか?
素早い返答ができずに固まっていると、ルークディアはさらに挑発的に続けた。
「冒険者ギルドか? 町の住人たちか? いやそうじゃねえだろ。この場合はこいつを捕まえた”俺”だよ! 俺がこいつの罰を決めてやってんだ!」
そうと聞いた瞬間、はっとあることに気付かされた。
この闇冒険者さんに対する罰。
その決定権が捕まえたこいつにあるのだと思い込んでいるなら……
「まさかお前はそのために、『闇冒険者狩り』をしてるのか?」
「へぇ、んな情報まで掴んでんのか? その通りだよ。最初は魔法の練習台になってもらってたんだけどな、やってるうちにハマっちまってよ、今じゃこうして捕まえた闇冒険者をギルドに引き渡す前に、軽く仕置きを加えてやってんだ。多少傷ついててもギルドは何も疑問に思わねえからな」
「……」
憶測半分で聞いてみたのだが、まさか本当にそうだとは思いもしなかった。
こいつが『闇冒険者狩り』をしているのは、捕まえた闇冒険者を痛めつけるため。
魔法練習のための的にしたり、ただ単にストレス発散のためだったり。
確かにギルドに引き渡す前なら、多少の傷を付けたところで『交戦時にやむを得なく攻撃した』とでも言えば説明が付くからな。
でも、たったそれだけのことのために……?
「てめえも人を傷つけたことがあんならわかんだろ。あの言い知れねえ快感がよ。それを合法的に味わうことができんだ。マジで最高だぜぇ」
ルークディアはすでに、皆から慕われている一級冒険者の面影を残さぬまま下種な発言をする。
一方僕は、同意を求められはしたが到底理解できるはずもなかった。
人を傷つけることがそんなに楽しいことなのか?
闇冒険者狩りをしてまでやらなければならないことなのか?
これが、僕が手を伸ばしても届かなかった、心の底から憧れを抱いていた、冒険者という存在なのか?
「つーわけでてめえも的の一つにさせてもらうからよ。せいぜい今のうちに覚悟しとけよ」
……違う。
こんなのは僕が目指していた冒険者じゃない。
冒険者はみんなのために一生懸命になり、そして憧れを抱かれる存在なんだ。
そうであるべきなんだ。じゃないと、天職が原因で冒険者になれなかった僕が、とんでもなく惨めになるじゃないか。
認めない。こんな奴を冒険者だとは、絶対に僕は認めないぞ。
変わらずゲスな発言を続けるルークディア。
対して僕は歯を食いしばりながら奴を睨み続ける。
すると、その怒りの意思が仲間の方にまで伝染したのだろうか……
不意に後方から少女の幼げな声が聞こえてきた。
「『ポイズンミスト』」
瞬間、ルークディアとその仲間たちの間に、紫色の煙が立ち上った。
それはたちまち僕らの前で色を濃くし、毒々しさを露わにしていく。
「あの時と同じ毒霧です! 離れてください!」
するとルークディアの仲間のうちの一人が、毒の森で見た時のことを思い出したかのように叫びを上げる。
現在は毒の向こうに二人、こちらには闇冒険者さんを合わせて三人という状況だが。
おそらく向こう側にはリスカとドーラがいるはずだ。
事前に僕が仲間二人の足止めをお願いしていたので、いっそ分断してしまおうとドーラは思い至ったのだろう。
それに頷きを返すかのように、僕とルークディア、そしてそれ以外という形で分けるように毒霧が広がっていく。
ここまで広範囲に毒魔法を広げられる魔力もさることながら、魔法操作力もとんでもないな。
さすが魔女。
と、密かに感嘆していると、向こう側からはすでに声が聞こえなくなっていた。
徐々に毒霧が晴れ、反対側の景色が明らかになっていく。
思った通り、周囲には僕たち以外に誰もいなくなっていた。
仲間二人を上手く毒煙で巻き、おそらく今はどこかで足止めをしてくれているはずだ。
そうとわかった僕は、すぐさま次なる行動に移る。
「動けますか?」
「えっ?」
今までずっと抱きかかえていた闇冒険者さんに問いかける。
すると彼女はこちらの事情を察してくれたのか、すかさず返答してくれた。
「えぇ、なんとか」
「ならすぐにここから逃げてください」
そうと伝えると、彼女は何も言わず、若干鈍い足取りでこの場を後にしてくれた。
これで他の人たちに邪魔されることなく、ルークディアと戦うことができる。
「へっ、一対一がお望みなら受けて立つぜ。その安い自信に後悔しながら俺に捕まりな」
さすがに向こうもこっちの思惑に気付いたようで、にやりと不気味な笑みを浮かべていた。
そう、暗殺対象はこいつ一人だけ。
僕が倒すべき相手は一級冒険者のルークディアただ一人だけだ。
僕はすかさず腰裏から安物の短剣を抜き、それを逆手にして構えた。
僕の中からはいつの間にか、迷いや躊躇いが綺麗に消え去っていた。
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