行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

第16話 交渉

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ホーンラビットの解体をしてもらって情報も得た後、いよいよ素材を換金するために雑貨屋へ向かった。ありがたいことに、素材や肉の運搬用にマックスが小さい台車を貸してくれたため、運ぶのがずいぶん楽になった。
マックスが案内してくれたのは村の中心部にある『クラリス雑貨店』という店だ。小さい村なので雑貨屋はこの一店だけだそうだ。店は村で目にした建物の中ではかなり大きい部類で、店内は日用品や衣類、武器に防具、調味料や何かの薬品のようなものなど、実に様々なものが所狭しと並んでいる。

「エピスおじさん、こんばんは! お客さん連れてきたよ~」

「マックスか。ん? 珍しいな、冒険者、いや旅の人か?」

マックスがエピスおじさんと呼んだのは、なかなか恰幅のいい40代くらいのおじさんだ。この店の店主らしい。客商売らしくニコニコと話しかけてくる。

「うん! 薬草採りに行ったらホーンラビットに襲われそうになって、通りかかったこの兄ちゃん達に助けてもらったんだ!」

「ふーん、 そりゃ運が良かったな、マックス。じゃあホーンラビットの素材を売りに来たのか?」

「はい。肉以外の買い取りをお願いします」

肉も買い取ってもらえるらしいが、雑貨屋に売るよりも食品を扱う店に売るか、宿に持ち込みする方がいいとケインさんに聞いている。それに、案内のお礼として後でマックスにも肉を分けるつもりだ。マックスは助けてもらったんだからいらないと言っていたが、もともとマックスがいなければ得られなかったものだからな。

そういうわけで、売るのは素材となる毛皮、牙、角、尻尾、肝臓、睾丸こうがんだ。毛皮はもちろん皮として加工され、高級なかばんなどになるが、牙や角は武器などに加工されるらしい。また、尻尾はお守りとしても装飾品としても人気がある素材で、肝臓や睾丸は乾燥させて薬を作るのに使われるそうだ。肝臓はまだしも、睾丸を使った薬はちょっと遠慮したいが…。

「はいはい、肉以外ね。それにしても兄さん達が着てる服は珍しいな。それにメガネなんて高級品まで。なんだってこんな田舎に?」

店主は先ほどまでのニコニコ笑顔をひっこめ、こちらを値踏みするように若干鋭い目つきになっている。

「ええ、まぁ、イロイロと事情がありまして。それより買い取りの査定をお願いします」

俺と店主が話している間に他の面々は商品を物色し始めていたため、店主に素材を渡してから、品物と相場を軽くチェックしておいてくれるよう頼んだ。

「ふむふむ…。なかなかの大きさだったようだな。牙や角も立派だし、これなら、ん~、全部で1200リアってところだな」

リアというのはこの世界での通貨単位だ。この村くらいの田舎で庶民が食べる食事が一食50リア程度、古着を買うなら一着800リアほど、宿も一泊朝食付きで一人300リアだと聞いている。
店主のエピスさんが提示した金額は、ケインさんに聞いていた1500リアくらいという予想よりかなり低い。旅人ならこのあたりの相場をよく知らないだろうから、上手くすれば多くもうけが出るとの思惑があるのだろう。

「1200リアですか。ん~、それなら肝臓と睾丸だけここで売って、明日にでもすぐ出発「ちょ、ちょっと待ってくれ!」なんですか?」

いかにも不満そうに呟くと、エピスは慌てて口を挟んでくる。

「1400出そう! たくさん持ったまま行くのも荷物になるだろう? な?」

200リア上乗せしてきた。すぐにパッと出てくるあたり、それくらいなら店にとってまだまだ充分な儲けになるんだろうか。だが店主のこの慌てぶりからして、客を逃がすよりはある程度買い取り価格を上げても取引したいんだろう。それならケインさんの言う金額までは上げてもらえるかな?

「1400…。サーヤ、ちょっとこっち来てくれ!」

声を上げてサーヤを呼び寄せた。サーヤなら俺の意図に気付いて話を合わせてくれるだろう。他の二人は素直すぎるからな…。

「買い取り価格なんだが、1600って聞いてたよな?」

俺がそう言ったとたん、エピスの眉がピクっと上がった。聞いていた価格よりもさらに100リア多く言ったためサーヤは少し驚いたようだが、ちゃんとこちらに合わせて肯定してくれた。

「っ! …そうですね。大きいし、毛皮に傷も少ないからイイ値段がつくだろうってケインさんが言ってましたね。どうかし「ケ、ケインさん!?」」

サーヤがケインさんの名前を出したところで、店主が再び慌て始めた。なんだ? ケインさんがどうかしたのか?

「ええ、ケインさんに解体をお願いしましたが…。どうしたんですか?」

「…わかった、1600出そう」

エピスは少し顔を引きつらせながら、俺の言ったデタラメな金額であっさりOKを出した。1600は無理だからと、間をとって1500に落ち着くくらいだと思ったのに、拍子抜けというか少し申し訳ない気がしてきた。ケインさん何者なんだ?

まぁ若干後ろめたい気はするが、高めに買い取ってもらえたのは文無しの身としてはありがたい。1600リアを受け取って店を出ると、外はもう暗くなっていた。

宿の場所をマックスに尋ねると、雑貨屋エピスの数軒隣にある『赤い狐亭』というのがそれだとのことだ。
…赤いパッケージのカップうどんが脳裏に浮かぶ。戦闘したせいか、思い出したら急激に腹が減ってきた。横でコータも腹を鳴らしている。

まぁ、腹の虫は少し置いといて、宿はここからすぐ近くなのでさすがに案内は必要ない。あたりが暗くなっているので二手に別れ、2人はマックスを送っていき、2人は宿にホーンラビットの肉を持ち込んで宿泊費交渉をすることにした。俺とサーヤは交渉組だ。マックスにやるつもりの肉をコータに託し、残りの10kgほどの肉を持って宿へと向かった。

30秒ほど歩いて、看板に『赤い狐亭』と書かれた建物に着いた。酒場も兼ねた宿ということで、この村では一番デカイ2階建ての建物だった。この世界で使われている文字などもちろん知っているいる訳がないのだが、なぜだかスラスラと読める。読めないと困るし覚えるのも面倒なのでありがたいんだが、なんというか、…気持ち悪いな。

建物に入ると、正面には受付けのようなものと階段があり、左に行く廊下の先からは賑やかな声が聞こえてきた。そちらが酒場になっているんだろう。
すぐに受付けにいたケモミミの女の子が声をかけてきた。サーヤより少し年下くらいに見える。頬のそばかすとクリクリの目、それにウェーブのかかった赤い髪が印象的な、可愛らしいの女の子だ。

「いらっしゃいませ!旅人さんですよね。ご宿泊…あれっ?4人と聞いてたんですが…」

ん? 聞いてた?

「ああ、あと2人いるよ。今はマックスを送っ「ああ! そうなんですね~! じゃあ4名様であってますね。うちは一泊朝食付きでお1人様300リア、前払いになります!」

元気はいいが、人の話を聞かないだな。

「誰かに聞いたの?」

「はい、さっき門番のライルさんに聞きました! 他にも見かけたって人もいましたし」

サーヤの質問にすぐ返事が返ってくる。小さい村だからって情報が早すぎる。よほど余所者よそものが珍しいんだろうな。

「夕方に仕留めたホーンラビットの肉があるんだが、酒場で引き取っ「ホーンラビット! ちょっと待っててくださいね!」」

聞けよ! 最後まで! 去っていく後ろ姿に内心毒づいていたが、その尻尾に目を奪われた。綺麗でフワフワな狐の尻尾だ。あれは手触り良さそうだな。
待つこと1分、先ほどの少女ではなく30代半ばくらいの美人が、酒場の方から現れた。少女と同じケモミミと狐っぽい尻尾で、綺麗なストレートの黒髪だ。色白の黒髪だからか、日本人ぽく見える。あまり似ていないが母親だろうか?

「お待たせしてすみません。赤い狐亭へようこそ。4名様のご宿泊で、ホーンラビットの肉をお持ち込みと伺いましたが、間違いありませんか?」

「「はい」」

「お肉を確認させていただいてもよろしいですか?」

頷いて台車に載せていた肉を見せる。宿の女将さん(?)は、さっきの少女と違って丁寧でおっとりしたしゃべり方だ。

「新鮮で美味しそうですね。何泊されるご予定ですか?」

「はっきりとは決めていませんが、とりあえず2泊ですかね」

「それではこのお肉で2泊と朝食2回を4名様分とさせていただくのでいかがでしょうか?」

うん、ケインさんから聞いていた通り、適正価格のようだな。

「それでお願いします」

「かしこまりました。では、こちらの宿帳に記名をお願いします。3泊以上される場合は、その時に前払いでお願いしますね」

宿帳と聞いて一瞬ヒヤっとしたが、名前だけということなのでなんとか書けた。住所とかまで書けと言われればアウトだったかもしれないが、名前だけならセーフだ。読むのと同じく、書こうと思い浮かべれば自然とこの世界の文字が頭に浮かんだので問題なく記入できた。その後は部屋に案内され、ミーコとコータの到着を待った。
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