行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

第24話 換金

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「「「「「「こんにちは」」」」」」

「ああ、いらっしゃい。ん? おとといの旅人さん達に『赤い狐亭』の2人か。どうしました、おそろいで?」

「偶然目的地が同じだっただけですわ」

「俺たちは店内を見てますから、お先にどうぞ」

「あら、すみません。ではお先に」

俺たちはおとといの時点で手元に金がないことがバレているので、鏡を売りたいと言っても足元を見られるだろう。なのでまずは、エピスがアリアの普通の鏡にいくらの値を付けているのか、アヤメさんに聞きだしてもらい、さりげなく近くで聞き耳を立てておく。

「エピスさん、鏡の購入を考えているんですが、今お店にあります?」

「ほぉ、鏡ですか。それはまた景気のいいことで…。奥にありますからお持ちしますね」

エピスは店のバックヤードの方に引っ込んで行った。鏡は表に出していないようだ。高価だし割れたり盗まれたりしないようにってことか?

「お待たせしました。今あるのはこの2つですね」

1つは小さな手鏡だ。うちわのような形の木の枠に、丸い鏡がはまっている。鏡自体の大きさは直径10cm程で、裏側の木の部分は花が彫り込まれている。控えめな細工で、年頃の女の子が持つにはいい感じかもしれない。
もう1つはB5サイズくらいで壁掛けのようだ。こちらも木の枠にはまっているが、特に装飾などはなくシンプルだ。
アヤメさんの事前情報通り、両方とも鏡自体の質はあまり良くない。

「小さい方はお花がかわいらしいですわね。おいくらですか?」

「こちらは6千5百リアです。サイズは小さいですが凝った意匠が施されていますからね」

装飾はあるが「凝った意匠」とまでは言わないんじゃ? アリアではそんなものなのか? ちなみに、このサイズの鏡だと、アリアでの相場は5千リアくらいとアヤメさんが言っていた。装飾があることを考えても、やはり高すぎる価格設定だろう。

「では大きい方は?」

「2万リアですな。この大きさは、田舎の村にはかなり珍しいサイズですよ」

「なるほど。この質でも結構なお値段なんですね」

鏡の相場というか、エピスがどれくらいで売ろうとしているかは分かったので、話に割って入った。

「この質でって、これは普通の、…よりもイイモノなんですよ」

強引にイイモノと言い換えて、エピスがジロリと睨んでくる。

「そうですか。なら、この鏡ならいくらで買い取っていただけます?」

サーヤの鏡を開いて見せる。エピスはフンっと鼻を鳴らして一瞬チラッと見てから、すぐもとの方向に視線を戻したのだが、その瞬間にバッと凄い勢いで振り返って食い入るように鏡を見る。そうそうお目にかかれない完璧な二度見だ。

「コ、コレはドコで…!!?」

「我々の故郷で作られたものですよ」

「そ、それはどこなんだ?」

かなり動揺どうようしているな。

「それは秘密です」

「秘密? なんだ、言えない訳でもあるのか? …故郷でというのは嘘なんじゃ?」

今度はいぶかしげな目を向けてくる。盗品だとでも思ってるのか?

「本当ですよ。ただ、これはまだ世に出回っていないものですし、製法の秘密を守るためにもお教えできませんね」

「ふ、ふん。よく見たらそれほどのものでもないじゃないか。特に装飾もないし、小さいし…」

世に出回ってないならばエステバンでの取引価格が自由にできると踏んで、買取値を下げる魂胆か?

「まさか! こんなすごい鏡、見たこともないですわ。旅人さん、こんな田舎の村でなく、ちゃんと価値の分かる王都の商会で売るべきですわ」

アヤメさんが横から口を挟む。ナイスパスだ。さりげなくエピスをディスるあたり、過去に痛い目にあっているのかもしれないな。

「そうですね、それがいいかもしれませんね。将来の販路としても「い、いやウチで買う! この店はトリスに本店がある商会の支店なんだよ。販路としても申し分ないぞ!本店は王都の商会や国外とも取引があるんだからな!」

エピスはかなりの慌てぶりで食いついている。今回限りの取引ではなく、今後この鏡のエステバンでの流通を独占するような契約でも結べば、本店に返り咲く足がかりになるだろうからな。
実際には今回限りだがな。

「そうですか? それでいくらで取引していただけるんでしょう?」

「そ、そうだな…6千リアでどうだ?」

「6千リア! 先ほどの花の手鏡より安いなら、私が直接買いたいですわ! こちらの方が断然気に入りましたもの」

アヤメさんがエピスにではなく、俺に迫ってきて至極当然のことを言ってくる。なかなか演技派だ。対してエピスは、そんな当然のことに気付かなかったとは…バカなのか?

「な! あ、いや、ちょ、ちょっと間違えただけだ。7千5百、7千5百リアでどうだ?」

目標額まではまだまだだ。これじゃ妥協できないな。

「7千5百リアですか…話になりませんねぇ」

俺が溜め息交じりに眉間に皺を寄せてそう言うと、アヤメさんが再び鏡を手にとってじっくり見る。

「本当に素晴らしい鏡ですわね。手鏡なのに、こうして置けば持たずに見られて両手が空きますし」

そう言って、カウンターにV字に開いて置き、ウットリと鏡を覗き込む。
鏡のクリアーさにウットリしているだけで、映っている自分にウットリしているわけではないはずだ。たぶん。

「それに、2面あるからこうして持つと少し横からも見えるんですのね。これは便利ですわね!」

「そうですね。形も色々と工夫されていますからね。ほら、こうするともっと見やすいですよ」

言いながら俺は、開いた鏡の片面が机の上面に接するように置く。この鏡は300度くらいまでしか開かないため、こうして置くと鏡の高さに顔を合わせずに見られる。

「まあ! なるほど、確かに先ほどよりも見やすくていいですわね!」

アヤメさんがエピスにでなく独り言のように呟くたびに、エピスが若干驚きの顔を見せたり、小さく「うぅっ」とかうめいている。
彼女がだんだん、有能美人秘書に見えてきた。おっとりとした雰囲気ながら相手を追い詰めていく手腕は見事だ。しかも獣耳のオマケ付き。

「わかった。1万リア出そう!」

一気に上げてきたな。とりあえず目標に達したことだし、ここで手を打つか?

「それ「ケインさんなら王都の商会にもきっと顔が利きますわ。紹介していただけるよう、お願いに行かれてはどうです? 私もご一緒しましょうか。」

俺がOKを出そうと口を開きかけたところにかぶせてきた。アヤメさん強気だな。先ほどからエピスを完全無視して話すのが、エピスをかなり焦らせているように思う。そして『ケインさん』でダメ押し。

「1万2千リアで買い取ろう。どうだ? 」

「そういえば、ケインさんは拠点にしていた街の領主様とも親しいと聞きましたわ。ケインさんにお願いして直接そちらに売り込んでみたら、商会を挟むより有利かもしれませんわね」

「なっ! い、1万5千出そう! 先のことを考えるなら、販売は商会に任せた方がいい! 貴族は商売など素人だ! 1万5千リアだぞ、これ以上は他の商会でだって出さんだろう。な!」

おおー、最初の倍以上になったぞ。ホントにいいんだろうか。 上手く売らないと下手したら赤字になるんじゃないか? エピスは頭に血が上ってちゃんと考えられてない気もする。まあ、俺が心配する必要はないだろうけど。

結局その値段で手を打って、無事1週間分以上の生活費を得られた。
『赤い狐亭』はアヤメさんがいる限り安泰だな。
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