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しおりを挟む……で、だ。
結論からいうと、最終的に説得されたのも丸め込まれたのも彼ではなく俺の方だった。
お付き合いに付随する不利益を語れば、
「僕がそれらを少しも考えはしなかったと?貴方が男性であることも、自分の性別も重々承知しています。それに伴う影響もわかったうえでラファエルが好きなんだから仕方がないでしょう?」と返され。
「そもそも先程から僕の将来を案じて下さってますが、別れる前提なのが気に食いません。はっきり言います。僕が申し出ているのは婚姻を見越したお付き合いです」
「婚姻……」
「ええ、別れる前提でなければ、将来の他の婚姻相手を心配する必要なんてないでしょう?」
にっこりといい笑顔でレイヴァンは紅茶を優雅に飲んだ。
「最近はじめて気づいたのですが……」
長い睫毛が憂い気に伏せられる姿が絵になる程に美しかった。
「僕は意外と執着が強いみたいです。いままで心から何かを望んだことがなかったので自分でも知らなかったんですが……」
困ったように微笑するその姿は儚いばかりに美しいのに、
「なのでラファエルが僕の気持ちを受け入れてくれない方がよほど面倒なんですよね。今後貴方の隣に立つ女がいるかと思うと……縊り殺したい程の嫉妬と殺意に駆られます」
なんかむちゃくちゃ物騒な単語が聞こえた気がした。
気のせい?
聞き間違えだよね??
「きっと今までなら親が勧めた縁談を義務感で受け入れ、無難な夫婦生活を取り繕うことも出来たでしょう。感情を知らなかった頃なら出来たそれも、もはや出来そうもありません。貴方以外の誰かを愛せる気もしないし、僕もお相手の女性も不幸になるだけです」
「……」
なんだかとっても重みを増しつつある会話に、物凄く喉が渇いて俺もティーカップを手にした。
冷めても芳しい紅茶で口を潤すもちっとも潤った気がしない。
その間にも彼の唇は滑らかに動き続けた。
「両親、特に母上は僕の情緒を心配していたので、例え男性であろうと僕自身が執着出来る相手が出来たことを喜ぶと思います」
だの、
「古い考えの貴族もいますし、同性ということにとやかく言う輩も一定数はいるでしょう。だから何です?不利益など実力で黙らせればいい。くだらない陰口など取るに足らないことでしょう?」
クッと唇の端を持ち上げたイケメンスマイルを披露され、
「あ、父上は実力主義なのでラファエルのこともきっと気にいって下さる筈です。子は養子をとれば問題ありませんし」
やたらと持ち上げられたうえ、まさかの子どもの話まで発展した。
こうして、俺の説得はことごとく論破され…………。
最後のスコーンの欠片を口へと放り込んだレイヴァンは困った相手を見るような笑みをその顔に浮かべて俺を見た。
「説得の方法を間違えましたね」
「え?」
「本気で断わりたいのなら、「あの時のあれは気の迷いだった」「君のことは好きになれない」とでも言うべきでした」
「そんなことっ」
目を見開き、反論しようとする俺にレイヴァンは笑みを深める。
「そんなだから僕につけこまれてしまうんですよ?嘘でもそう言えばよかったのに。ラファエルの主張は僕の立場や今後を慮るものばかりだった。
言ったでしょう?僕は貴方を愛してるんです。どんな不利益も貴方を得られぬことに比べれば大したことじゃない。他にも何かあげてみます?いくらでも論破してみせますよ」
どうやら先程まで黙って俺の主張を聞いてくれていてのは、相手に全部言わせたうえで徹底的に論破する為だったようだ。
「だから、 諦めて ?」
嫣然と囁かれたその一言に、俺は白旗をあげた。
とりあえず、アレだ。
宰相家の英才教育、ハンパない。
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