130 / 164
130
しおりを挟む傷の手当てを受け、ビショビショの服や髪を乾かした。
あちらは着替え一式を用意してくれるつもりみたいだったが、それは断った。
場所さえ移れば自分で乾かせるし、服を借りるのも面倒くさい。
あと違う服で帰ったら張り切ったメイドたちが悲しみそうだし。
「相変わらず繊細な魔法操作ですね」
「便利だろう?」
みるみる水分が蒸発し元の様相を取り戻す服にレイヴァンが感嘆の声をあげる。
笑いながら上着を手に取った。
別に着たままでも乾かせるが、モロに水を被った俺の方はびしょ濡れだったので上着だけ脱いだのだ。
その方が一気に乾かせる。
着たままだと火傷しないように結界で膜を張りつつ温度調整とかで地味に時間かかるからね。
脱いだのは上着一枚だけで他はちゃんと身に着けているのに、慎ましやかなレイヴァンは真っ赤になって俺に背をむけたまま。
いまも壁を向いて話している。
流石はお上品な貴族、部活動やってる奴らなんか平気で人前で裸になるぞ……なんて思いつつ上着を着こみ「お待たせ」と声をかけた。
服を元通りにするために借りていた小部屋から出ると……なんかやたらと人が増えてんすけど?
しかもその中にはレイヴァンのお父上である宰相さまやら王太子殿下のお姿もあって、思わず閉めたばかりのドアを開いて小部屋にリターンしたくなった。
お会いするならせめて心の準備が欲しかった……っ!
つか、何でここに?
そんな想いを込めて視線を王子へと向けた。
「近衛から兄上に報告があってな、心配だったから俺もついてきた。怪我は平気か?」
ラインハルト様は心配してくれただけらしい。
宰相さまも息子が襲われたわけだから心配して……ってのもあるだろうけど、単純にそれだけじゃないんだろうな。きっと。
「本当に申し訳ありませんでした。まさか魔道具を隠し持っているとは思わず……魔法が使えないからと油断しました」
まるでお手本のようにピシリと頭を下げる騎士たち。
その中には王太子殿下たちの護衛なのだろう、あの場に居なかったマルクさんの姿もある。
「巻き込んですまない。スネーク!お前も謝れ」
「え~!俺はさっき言いましたって」
渋面をつくるゼリファンに、菓子を摘みながら悪びれない諸悪の原因。
「それに責任とってちゃんと守ったしぃ」
なっ、と笑みを向けられるも素直には頷きがたい。
助けられたのは事実だ。
あのとき、スネークがあの男の魔道具をどうにかしなければ、今頃はびしょ濡れどころか水の刃に全身を切り刻まれていただろう。
けど、そもそもコイツが俺らを巻き込まなきゃ、なんも問題なかったっていう……。
魔法が使えれば魔法で防御なり反撃も出来たんだろうが、城などで行われるパーティーや式典では基本魔法が使用できない。
攻撃魔法なんか使えちゃったら要人の警護めっちゃ大変だからね。
予め空間に対策がされているし、武器だって近衛など一部の者を除いてご法度だ。
なんか堂々とナイフ隠し持ってた奴が目の前に居るけど……。
だからこその騎士たちの油断もあったのだろう。
水を操る魔道具……一目でわかる武器ではないし、飲み物など水なら会場のどこにだってある。
目の付け所としてはいい魔道具だ。
悪びれないスネークに憤るレイヴァンに、さらに謝罪を重ねる近衛騎士たち。
「ってか、さっきの結局なんだったんです?」
597
あなたにおすすめの小説
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
炎の精霊王の愛に満ちて
陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。
悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。
ミヤは答えた。「俺を、愛して」
小説家になろうにも掲載中です。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています
水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。
「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」
王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。
そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。
絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。
「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」
冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。
連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。
俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。
彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。
これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる