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しおりを挟むテストも終わった週末、俺は解放感に浮かれ気が抜けるどころか、ガッチガチに緊張していた。
「その飾りよりこっちの方がいいんじゃないかしら?」
「とりあえず両方合わせてみましょう」
「髪型は?」
あーでもない、こーでもないと忙しなく動き回るメイドたちに、大人しく着せ替え人形と化してる俺。
本日、アシュフォース邸へのディナーへと招待されています。
うーわーあーーー。
マジで心臓がバックバクなんですけど。
お付き合いしている子のご両親、っていうのもさることながら一家そろってやたらと美形すぎて余計に迫力あんだよね。
特に宰相閣下。
キレッキレの頭脳と美形度が緊張に拍車をかけまくるんだけどぉーー!
ドキドキバクバクしながら馬車を待つ。
迎えを寄越してくれるのは有り難いけど、この待ってる時間がまた心臓に悪いんだよね、すこぶる。
「本日はお招きいただき誠にありがとうございます」
出迎えてくれたアシュフォース家の皆さまに胸に手を当て礼をする。
ううっ、使用人さんたちまで一流の気配ガンガンで緊張するよぅ。
心の中では泣き言を垂れつつ、表面上は “優雅に、品よく” を心がける。
「ようこそいらっしゃいました。ラファエル。さ、こちらへどうぞ」
天使のような麗しい笑顔で俺を導いてくれるレイヴァンくん。
実に見事なアルカイックスマイルがほんの僅か崩れた周囲の皆さんに、その笑顔がどれだけレアかを改めて思い知る。
でも一瞬で動揺を押し殺した使用人さんらは流石。
料理はどれも素晴らしく美味しかった。
出来ればこのド緊張した状態以外で食べたかったっ!と心から思う程に美味しい。うまー。
「ほぅ、かなりの軽減が見られますな」
手元のグラフを真剣な目で眺める宰相サマ。
ちょっとマジで仕事モード入ってそう。
「いずれ魔獣達も慣れる可能性がありますから、今後も経過を見極めつつ本格的な導入へ移る必要がありますが……」
話題は先日エヴァンさんが家に来た時と同じ魔獣対策だ。
その場に一緒にいたレイヴァンからもさわりを聞いたらしく興味を覚えて頂けたっぽい。
「出来ればこの資料も是非持参を。父は優秀な人材が大好きですから」
そんなレイヴァンの指示に従い、音や臭いによる魔獣避けの実験結果を持参したんですよ、はい。
食いつきは上々だ。
小難しい話ばかりでは夫人も退屈だろうと、社交界や流行の話題なんかもしつつ晩餐は無事に終わった。
「素晴らしい晩餐のお礼をさせてください」
口元をナプキンで拭い、改めて姿勢を正し待機していた従者へと視線を送った。
本当は訪問時に渡そうかとも思ったんだけど……。
流れるようにレイヴァンに手を取られてタイミングを失ったんだよね。
恭しく従者が差し出したそれは宝飾品だ。
いやぁ、天下の侯爵家に贈る品に迷った、迷った。
半端なモンを贈るわけにもいかないし、だからといって高価なモンだろうといくらだって手に入るだろうしね。
だからいっそ他にはない品にしてみた。
「まぁ、綺麗。手にとってもいいかしら?」
「勿論です」
若干前のめりにな夫人の反応に、よしっ!と内心でガッツポーズをかます。
夫人が手にしたのは花があしらわれたブローチだ。
他に男性用のカフスとブローチも。
「まるでオーロラのような神秘的な輝きね。細工も精密で素晴らしいわ」
「宝石の輝きとは異なりますが、夫人の華やかな美貌にはこのような繊細な装飾もよくお似合いになると思いますよ。きっと宵闇に浮かぶ星のように美しいことでしょう」
「まぁ、お上手ね」
「真珠の輝きに似てますね」
「そう夜光貝に蝶貝、青貝なんかの真珠層を加工した工芸品で螺鈿細工って言うんだよ」
螺鈿細工……この世界ではまだ見かけたことなかったんだよね。
いや、どっかにはあるのかも知れないけどさ。
エバンス領には山もあれば海もある。
貝なんかもとれるから、ふと思い付きで口にしたら職人さんたちが見事に形にしてくれたんだよね。
いまではその技術もどんどん向上中。
手土産は無事気にいっていただけたようです。
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