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147 (※)ラインハルト
しおりを挟む絶命した魔獣を呆然と眺める。
プスプスと煙を上げた口から大量に流れでる血は地面を赤く染め、ピクリとも動かぬ巨体が息絶えていることを知らしめる。
「なにが……起こりましたの……?」
混乱と戸惑いが滲むロッティの質問に、答えることは出来なかった。
何故なら俺も周囲も同じ疑問を感じていたから。
起こった事実としては……エバンスが魔獣を倒した。
そう言ってしまえばそれが全てなのだろうし、それは喜ばしいことだ。
それでも…………まだ魔獣の残党たちが残る中、俺らは呆然とエバンスと魔獣を見比べずにはいられなかった。
突然の異変。
召喚士たちの必死の頑張りもあり、門はなんとか閉じることに成功したようだが……明らかに深層クラスの魔獣が数匹という最悪の状況。
クラウ・ソラスのメンバーが数人なれどこの場に居たのは不幸中の幸いだった。
だが、周囲を観客たちに囲まれたコロシアム。
大技を放てない地形と、観客たちを守りながら闘うという二点で効率はだいぶ落ちていた。
周囲を巻き込まないように加減した生半可な魔法では傷一つ負わせられない相手に、焦っていたところで放たれたカイルの一撃。
……弾かれた。
あまりにも固く強固な外皮に歯噛みする。
さらにはカイルにレイヴァン、リゼロの負傷。
見たところレイヴァンとリゼロはそう傷は深くなさそうのものの、カイルの方はかなりの重症だ。戦線離脱は免れないだろう。
ゼリファンがあの魔獣を倒すまでなんとか…………。
俺らでは攻撃を加えられない以上、なんとか凌いでゼリファンに任せるしかないと。
それまでどう対処するかと頭を巡らせている時だった。
レイヴァンの声に視線を向ければ、エバンスが彼に背を向け魔獣に向き合っていた。
頭から血を流すレイヴァンへと返された声は至って穏やか。
だけどその表情が、佇まいがいつもの彼とはまるで違っていた。
魔力の奔流にふわりと浮き立つ髪と服。
浮かぶ表情はわかりやすい激昂ではなく、冷静そのもの。
だけど紫電の瞳に浮かぶのは冷ややかな怒りで、揺らめく黒髪も、纏わりつく魔力の渦も彼の苛立ちを示すように言い知れぬ迫力があった。
声をあげるも、エバンスはそれには答えずロッティたちに指示をした。
少しの迷いもないそれは校外学習の時の彼と同じ。
指揮をすることに慣れた者のそれに戸惑いながらもロッティやリゼロが応じた。
『わかってる、カイル』
叫んだカイルの声にも冷静に答えるエバンス。
その様子に、怒りで我を忘れたわけではないらしいと安堵するも彼が何をするつもりなのかがわからない。訝し気に見ている先でそれは起こった。
真っ直ぐに突き出された腕。
魔獣へと一直線で飛んでいく魔法と武器らしきなにか。
直接攻撃は効かないのはわかっている筈……と思った次の瞬間、それらは跡形もなく消えていた。
バッと振り返り、エバンスを見るも彼に動じた様子は微塵もない。
ならば消失は彼がやったことか。
秀麗な顔に薄っすらと刷かれた笑み。
常の柔らかで穏やかなそれではない、支配者のような冷ややかな仮面をつけたまま彼は腕を振るう。
迸る絶叫。
魔獣が上げる苦悶の声。
何だ……?
何が起こっている?!
変わらず魔獣の外皮には傷一つないままなのに、エバンスが指を滑らかに動かす度に魔獣は拘束を逃れようと暴れ、身を捩らす。
『煩ぇよ。黙ってろ』
一際大きい絶叫が響き渡る中、怜悧な声がやけに響いた。
クッと細められた美しい紫の瞳。
そこに立つ青年は、俺が知るエバンスとは全くの別人のようだった。
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