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しおりを挟むふわり、と髪や裾が浮いた。
そよそよとそよぐそれらを感じながら、無言で魔獣へと向き直る。
風もないのに揺れるそれは膨大な魔力の発露。
所詮 “そこそこモブ” でレイヴァンや王子のように桁違いに魔力量が多いわけではない俺では、どれだけ練ったところで某戦闘民族みたいに髪が逆立ったりはしないが……それでもありったけの魔力を引き出すべく集中する。
「ラファエル?!一体なにを……?」
「頭をぶつけてるんだから動いちゃダメだよ」
「どうする気だ?魔法攻撃は弾かれるぞエバンス!」
「リーゼロッテ様、リゼロ様。アイツの手足を拘束してもらえますか?あと尻尾も」
「え?あ、は……はい!」
カイルの止血を終えたリーゼロッテ様と、クラウ・ソラスのメンバーに声をかければ戸惑いながらも従ってくれた。
光の環と鎖が魔獣の動きを封じる。
「おいラファエルっ、魔法は……!」
「わかってる、カイル。あの外皮に弾かれなきゃいいんだろう?」
レイヴァンの戸惑いも、王子やカイルの言葉の意味もわかっている。
俺の魔力じゃ全力を出してもあの外皮を貫くことなんてできない。
なら、それ以外の方法をとればいい。
俺の周りを取り囲む、小さな金色の弾丸に小指大の小瓶。
そして幾つかの攻撃魔法。
微かな頭痛と、急速に力が失われるような脱力感を感じながら足の裏に力を込めてなんとか踏ん張る。前進を示すように前に伸ばした腕と同時に俺の周囲のそれらが魔獣へと一直線に突き進んだ。
「え?」
呆気にとられた声は誰のだったか。
魔獣に被弾する直前、忽然と消えたそれらに間の抜けた声が響いた。
軽く握りしめた指を勢いよく開き、指先を指揮を振るうようにリズミカルに動かす。
形容し難い叫びが魔獣の口から漏れた。
散々手を振るったところで、そろそろか、とパチンと指を鳴らした。
ギャァアアアアアアアアアア!!!
「煩ぇよ。黙ってろ」
微かな黒い煙と共に、喉の奥から絶叫を漏らす魔獣に冷めた視線を逸らさず手を握る。
その動作と同時にあらわれた光の輪が、魔獣の叫びを遮るように喉を絞めて拘束した。喉を引き絞られながらの絶叫は歪な音色であたりを揺らす。
断末魔をあげる巨体を睥睨しつつ、最後のトドメとばかりに手を斜めに振り下ろした。
白目を剥いた巨体がぐらりと揺れた。
口からプスプスと黒煙を吐き出す魔獣は、拘束魔法によりその体躯を支えられている。
俺が首のそれを解いたことで、窺うようにこちらを見てくるリーゼロッテ様に一つ頷く。
もはや声で指示する気力もなかった。
リーゼロッテ様たちの拘束魔法も解かれると、魔獣はもはや暴れることなく地面に倒れ伏し、その口からはどす黒い血が次から次へと広がった。
それを見るとともに俺も限界だった。
気力だけでギリギリ支えていた体が力を失い、ガクリと膝を着く。
ああ、だっるい。
心底怠くて仕方がなかった。
「ラファエル?!大丈夫ですか?!」
慌てて駆け寄って肩を支えてくれるレイヴァンに、動いちゃダメって言ったのに……と思うも色々と限界だった。
「大丈夫……ちょっと大丈夫じゃないかもだけど、怪我とかじゃなく魔力中毒だから……」
頭がグラッグラする。
そんでもってめちゃくちゃ怠くて、心底眠い。
典型的な魔力中毒の症状、そのものだった。
ああ、出来るならこのままここで大の字になって寝たい。
そのぐらい、体力的にもう限界だった。
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