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波乱の建国記念式典

Shall we dance again ?

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「……あの、先程の料理には……」

マールテンが去った後、ヴァイナモは声を潜めて俺に尋ねてきた。俺は呆れた表情で手を振る。

「遅効性の毒です。食べていたらこの式典が終わった後に俺は倒れていたでしょう」

「よく気づきましたね」

「明らかに怪しかったので、鑑定魔法を使いました」

「……気づきませんでした」

「ええ。隠してしましたから。解毒魔法はわざと彼に気づかれる形でしましたが」

ヴァイナモは納得いったように頷いた。普通ならそこで「どう隠すんだよ……」ってなるんだけどね。俺TUEEEEテンプレな俺にとっては御茶の子さいさい。

「……何故、ベイエル王国の者が……」

「わかりません。私を標的したのか、皇族なら誰でも良かったのか……」

俺はマールテンが去って行った方向を見て考え込んだ。ベイエル王国と言えば最近財政難に陥っており、苦渋の決断で我が国に従属同然の友好条約を結んだ国である。そんな国が我が国に仇を成したなら、我が国の報復が恐ろしいに違いない。それでも暗殺しなくてはいけなかった?

「……私の魔法陣研究でしょうか……」

「……ベイエル王国にとって脅威だった、と?」

「軍事利用されれば恐ろしいことこの上ないでしょうね。何せ誰でも魔法が使えるようになるのですから」

「確かに有り得ますね……」

「問題は私の研究のことをどう知ったか、そして何故殺そうとしたか、ですね」

「……確かに、ベイエル王国の近年の財政難は魔法に優れた者の不足が原因でしたね。国内では魔法陣学の需要が高まっているはずです」

俺は思考を巡らせる。我が国での魔法陣学への理解は恐ろしく低いが、ベイエル王国では魔法不得手者が急増しており、国力を維持するために魔法陣学の研究が急がれていると聞いた。それなら俺を殺すんじゃなくて、脅迫・拉致・強要の犯罪三拍子をした方が余程国のためである。まあそんなことしたら我が国帝国に潰されるけど。今はそれほど国力の差があるからね。

その時ふと、第二王子のことを思い出した。若くして頭が切れると有名な、参謀まで務めると噂されている彼なら、俺たちの考えもしないような意図があるのではないか?

「……まあ、ここで考えても憶測しか出て来ないでしょうし、式典後父上に相談しましょうか」

「……そうですね。反帝国派の暴走とも言えます。その場合、皇族であれば本当に誰でも良いでしょうし」

「はあ。また父上に『甘い』って説教されるのかな……。面倒事が……」

「殿下の判断は正しかったと私は思いますよ。下手に大事にすれば即戦争でしたから。祝すべき日に血なまぐさい事件は、陛下としても避けたいでしょう」

「だと良いのですが……」

俺は気落ちして溜息をついた。ヴァイナモはそんな俺を慰めるように、ポンっと背中を摩ってくれた。


* * *


そしてパーティーはダンスの時間に入った。帝国御用達の音楽団の美しい音色が会場を包む。

「では、殿下。私と踊ってくださりませんか?」

ヴァイナモは俺の目線に合わせるように屈んで、俺に手を差し伸べた。それはまるで物語の中の騎士で。俺は何となくむず痒くなった。

「……はい」

俺は照れながらもヴァイナモの手をとった。ヴァイナモは壊れ物を扱うように俺の手を握った。

ヴァイナモは俺の歩調に合わせながら会場の中央へと俺をエスコートする。俺はなんか女の子になった気持ちになって、恥ずかしくなった。でもヴァイナモがエスコートしてくれているのだ。顔を落とさないようまっすぐヴァイナモを見上げる。

そしてダンスが始まった。

ヴァイナモはゆったりとした足取りで俺をリードする。その堂々さに俺は安心して身を預ける。くるりとターンする度にふわりと匂い袋が香り、俺を不思議な気分にさせた。

胸の高鳴りが収まらない。

まるで初恋相手とのファーストダンスだ。

……すごいな。衣装マジックかヴァイナモマジックかわかんないけど、こんな変人でもドギマギする。流石ペッテリ自慢の一品。流石イケメンヴァイナモ。

この魔法はダンスが終われば解ける。

この感覚は幻想だ。

でも何故か、

この時間がずっと続けばいいのに。

この感覚がずっと残ればいいのに。

そう思った。


* * *


ヴァイナモとのダンスの後は誰とも踊らず、2人して壁の花となっていた。でも視線は先程以上にこちらを向いている。何?何かおかしかった??

「……なんか視線が増えていませんか?」

「ヴァイナモも思いました?先程のダンスが何かおかしかったのでしょうか……」

「……それか殿下のあまりの美しさに釘付けになった、とか……」

「それを言うならヴァイナモの方でしょう。見惚れるくらいかっこよかったですよ」

「かっ……そ、そうですか」

ヴァイナモは面食らったように顔を紅潮させ、慌てて顔を隠した。照れてるな~なんかそんな姿見ると弄りたくなるんだよな~仕方ないよな~人の性だよな~。

「どうしました?ヴァイナモ。顔が赤いですよ?熱ですか?風邪ですか?」

「……違いますよ。わかっていらっしゃるでしょう」

「え~わかりません。どうしたのですか?」

「悪い顔になっておりますよ」

ヴァイナモはツンッと人差し指で俺のおデコをつついた。予想外の行動に俺はキョトンとしてしまう。するとヴァイナモも自分が何をしたのか理解したのか、みるみる青ざめた。

「あっ……すっ、すみません!出過ぎた真似をいたしました!」

「あっ、大丈夫ですよ。ちょっと意外だっただけで、嫌だった訳ではありません」

「いやっ、でもっ!一介の騎士が皇族になんてことを!」

「いえいえ!気にしてませんから!」

「ですがっ!こんな人目のある所で!」

ヴァイナモはきょろきょろと周りを見回す。未だにいくつかの視線はこちらを向いており、ヒソヒソという声も聞こえる。それが俺たちの話なのかわからないが、ヴァイナモの名に傷がつくかもしれない。

俺は顎に手を添えて考え、ヴァイナモに顔をこちらに持ってくるように手招きした。ヴァイナモは不思議がりながらも屈む。

「えいっ!」

そして俺はヴァイナモのおデコを人差し指でつついた。ヴァイナモは目を見開いて固まる。

「これでお互い様ですね」

「……はあ」

「ですから先程の件は水に流します。良いですね?」

「……はい」

ヴァイナモはへにゃりと笑った。先程のヴァイナモの行動はじゃれあっていただけだ、いつものことである、と周りにアピールしているとわかったのだろう。

……だから!至近距離でその笑顔は!俺の心臓が爆散するから!やめて!

「ふふっ。お仲がよろしいのですね」

そんなことをしていると、聞き覚えのない声がかけられた。
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