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人間関係が広がるお年頃

魔法陣はヒロインだった(迷言)

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嫌々合同訓練を見学してたら魔法が飛んできてヴァイナモの魔法陣が発動した。俺は見学に来た甲斐があったなと思いました。(小並感)

魔法陣を目の前にして大興奮な俺を見てヴァイナモは呆れて溜息をついた。すまんな今はこの胸の高鳴りを抑えきれそうにない!

王国騎士の面々よ!そんな奇っ怪なものを見る目で見るでない!

「……と言うより、殿下。魔法を放った者への対処をすべきなのでは……?」

「あ~なんて美しい素晴らしい!一瞬で魔法陣に魔力を充満出来るとは優秀でこざるな!心做しか実験の時より強固になってるように感じますぞ!?何が起きたでござるか?おぬしの持久力はどれぐらいもつでござるか!?」

「……聞いてませんね……」

ヴァイナモは頭を抱えた。まあ対応は誰かがやってくれるでしょ!今はそれよりも魔法陣!魔法陣!!

魔法をこちらに放ったのが誰か知らないけど、生きろよ!いくら未遂とは言え皇子を危険に晒したんだから、何かしらお咎めがあるだろうけど!出来る限り俺も庇ってやるから!

俺はそんなことを考えながら、足取り軽やかにその場を去った。後ろをヴァイナモがついて来ているのを感じて、ふとさっきの出来事を思い出した。

ヴァイナモ、危険をいち早く察知して俺を庇ってくれたんだよね。身を呈して。まあ魔法陣は持っていたとは言え、それが100%発動する保証はなかった。それでも俺を護るために……。それが騎士の使命だとわかっているけど……。

「……エルネスティ様。先程の一件でどこかお怪我をされたのですか?」

「……ふえっ?何でです?」

「珍しく少し大人しいなと思いましたので」

「えっ?さっき大興奮でしたよ?」

「いつもならその興奮がなかなか引かないのですが、今日はもう落ち着いていらっしゃるので。……と言うより、何か他のことをお考えではありませんか?」

俺はドキッとした。今さっき何を考えていたか。ヴァイナモのことである。それを本人に指摘されると、なんか悪いことをした気分になる。

てか確かに俺のことながら珍しいな。一度魔法陣のことを考え出すと止まらないのに。なんか思考にブレーキがかかったって言うか。

「……確かに考えてましたね」

「その、僭越ながら何をお考えに……?」

「……内緒です」

俺が内緒のジェスチャーをすると、ヴァイナモは残念そうに眉を下げた。いやだって本人に『貴方のことを考えてました』なんてそれ何の恋愛小説って話でしょ。恥ずかしい。


* * *


そんなこんなで俺は図書館の小部屋までやって来た。俺が椅子に座ると、ヴァイナモは俺の前に紙とペンを準備した。今から俺が何をするのか、見当がついているようだ。

「では魔法陣を実践で使った感想をまとめていきましょうか。まずは効力について」

「……心做しか実験より強固な防壁が展開されたように感じました」

「ヴァイナモもそう思いましたか?私もです。何が違ったのでしょうか?」

俺は顬に指を当てて考え込んだ。実験はヴァイナモの魔力で行っていたため、魔力量の違いや適正属性の有無ではない。魔力操作は多少魔法陣の展開に影響が出るが、それは微々たるもので問題視するほどでもない。それについこの間まで実験は行われていた。いくらヴァイナモがメキメキ強くなっているとは言え、そんな短期間で変化が起こるのであればこれまでの実験でも顕著に現れていたはずだ。

「……となると、周りの環境か発動させる状況でしょうか」

「……そうかもしれません。防壁に伝わった衝撃によって硬さが変化したのでしょうか」

「それが一番無難ですが、何故そんな機能がついているのかわかりませんね……」

俺は顎に手を添えて考え込んだ。元々魔法陣にはそう言う効果があるのか。いやでも魔法陣に意思なんてないから、そんなこと出来るのか?まるで人間みたいに場合によって効力を変化させるだなんて。

「……そうだ。実験の時は何も考えずに魔力を送り込んでいましたが、あの時はエルネスティ様を絶対にお護りするのだ、と強く願って魔力を流し込みました。もしかするとその意思の強さが魔法陣にも現れたのかも……」

「なんと!新しい仮説ですな!」

ヴァイナモの仮説に俺はバンッと机を叩いてパアッと表情を明るくさせた。今まで考えられてこられなかった新たな説。それは俺を興奮させるのに十分だ。

「今まで魔法陣を機械的で抑揚のないと思っていましたが、発動主の感情の影響を受けるとは!だが有り得なくもありません!魔力は体力、即ち生命活動の源!感情の爆発による魔力の暴走なども存在する!つまり魔力は個人の感情に左右されやすい!そんな魔力を受け取る魔法陣に何らかの影響を与えてもおかしくありませんぞ!元より流し込む魔力の量で少しずつ効力が変わってくるとわかっております!それなら魔力の質によって変化してもおかしくありません!」

俺は紙に殴り書きで仮説を描き並べて胸を踊らせた。魔法陣はどんな魔力でも受け入れる器の広く、それでいて何の干渉も受けない崇高な存在だと思っていた。だけどもしかしたら、魔力に込められた感情に少し流されてしまう親しみやすい存在なのかもしれない。

これはアレだ。感情のないロボットだと思っていた人が、仲良くなるにつれて感情豊かになっていくアレだ。クラスのマドンナ的な遠い存在だと思っていたけど、関わっていくうちに親しみやすくなって、親近感が湧くアレだ。恋愛モノの王道ヒロイン設定!魔法陣はヒロイン(違う)だった!?魔法陣は俺の嫁ヲタクの定型詩乙

「もしかしてあまり顕著に現れないだけで、魔力によって魔法陣の効力が少しずつ変わってくるのかもしれませんな!そうであれば色々と問題が出てきますが、それと同時に夢も広がると言うもの!」

「問題、ですか?」

魔法陣に思考を巡らせていると、ヴァイナモが俺の言葉に疑問を口にした。俺はハッと自分の世界から現実世界に引き戻される。そしてヴァイナモに説明した。

「はい。今開発中の冷蔵庫は全て同じ効力を発動させる必要があります。持ち主によって中の冷え具合が違うだなんて、商品として欠陥ですから」

「……なるほど。差があれば買い手も不満に思うでしょうね」

いくら『製品によって些事が生じます』と注意書きをつけても、自分の家の冷蔵庫は冷えにくいのに、隣の家の冷蔵庫はキンキンに冷えている、なんてことがあったらクレームが来るに違いない。出来るだけ多くの人が満足する冷蔵庫を作りたいから、それ早急に解決すべき問題だ。

「ですが悪い点だけではありません。今回の防御魔法陣のように、危険の度合いによって防壁の硬さを変えられるのであれば、必要以上の魔力を消費しなくて済みます」

「……確かに石ころを避けるのと巨岩を避けるのとで同じ防壁を作るのは非効率ですし、火魔法を防御するのと土魔法を防御するのでは、必要な硬さや性質が異なりますね」

ヴァイナモは合点がいったように頷いた。いくら通常魔法より魔力が少なくて済むと言っても、魔力を消費するのには変わりない。魔力は体力に直結する。それであれば少しでも体力を温存出来る方が良いに決まっているのだ。




* * * * * * * * *




2020/08/16
中盤『違うかった』を『違った』に修正しました。
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