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人間関係が広がるお年頃

反省しております

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「……と言うことはこれからは、魔力に込められた感情を如何に均すか。もしくは如何に引き出すかの研究をなさるのですか?」

「その前にまず『魔法陣が感情に左右される』と言う仮説を立証する必要がありますね。まだ確証はありませんので」

「……ですがその仮説をどのように立証しますか?感情だなんて、自由にコントロール出来るものではないですよ?」

ヴァイナモは心配そうに首を傾げる。ヴァイナモの言い分はもっともだ。と言うか俺もその問題点に頭を悩ませている。

俺は椅子の背もたれにもたれかかった。

「そうなんですよね。ですから実験の協力者がもっと欲しいです。人の数だけ感情があるので。それに他にも魔法陣が受ける個人の影響も見ておきたいですし。もっと膨大な量の実験データが欲しいですね」

今は俺とヴァイナモと、時たまオリヴァアスモbotヤルノ限定的ドMペッテリ天使崇拝が協力してくれるが、それでは圧倒的に足りない。実験はやはり沢山の人によって繰り返し行われないと、品質の安全性が保証出来ない。

だが俺には残念ながら人脈がない。未成年の引きこもり皇子だからね。人と関わる機会が圧倒的に少ないのだ。

そんなことを考えていると、ヴァイナモがおずおずと提案してきた。

「……一応近衛騎士の先輩方に伝えて協力してもらえないか頼んでみます。まあ焼け石に水程度の人数しか集まらないでしょうが」

「本当ですか!?一人でも多く協力してもらえるのであれば有難いことこの上ありません!ありがとうございます!よろしくお願いしますね!」

ヴァイナモの提案に俺は表情を明るくして、ヴァイナモの手をギュッと握った。俺にはもう頼める人がいないからね!めっちゃ有難い!仕事の合間に協力してもらえるなら、その分の報酬も考えないと!貯まりに貯まった俺の貯金が火を噴く消し飛ぶぜ!

ヴァイナモはいきなり手を握られて目を丸くするが、直ぐにへにゃりとした笑みに変わって頷いた。

「お任せください」

だから!その笑顔は!反則だから!何だよヴァイナモはただのイケメンかよ!軽率に俺の心臓を爆発させようとすんじゃねえよ!

その表情に不覚にもドキッとしてしまった俺は慌てて手を離すと、机に向き直ってペンを手に取った。

「ではとりあえず今回の仮説が正しいと仮定して、対策を練っていきましょうか!」

「はい。仰せのままに」

俺は恥ずかしさを紛らわすように、魔法陣研究に没頭した。


* * *


俺はその後も図書館の小部屋で今回新たに立てられた仮説を紙にまとめていた。問題点が山積みであるが、より良い魔法陣を作るために一歩前進出来る良い機会だった。やっぱり実践は大切だね!ああ!夢が膨らんで宇宙まで飛んで行きそう!

そうだよ俺は今凄く魔法陣研究したい欲で溢れてんだよ!邪魔しないでくれ!

「あの場を放置して何を言う」

「全く以てその通りでございます……」

現在俺は玉座の間にて、玉座に座る父上の前で項垂れている。

俺が一心不乱に魔法陣のことを考えている最中、いつの間にかにやって来ていたカレルヴォ兄上から拳骨をくらった。そしてあまりの痛さに悶えている間に玉座の間へ連れて来られたのだ。玉座に深く座り頬杖をついている父上のこめかみには青筋が立っている。怖い!父上めっちゃご立腹だ!強面に青筋は存在だけで人を殺せる!

「せめてあの場で判断を我に委ねるとさえ言っておればここまで大事にはならなかったのだぞ?」

「本当に申し訳ございません……」

実は俺が訓練場を去った後、思った以上の騒動になっていた。

魔法を誤発したのは王国騎士の、それも目立って俺に嫌悪の念を送っていた騎士らしい。本人は注意力散漫によって手元が狂ったと言ったが、その騎士の憎悪を目敏く感じ取っていたカレルヴォ兄上が故意に魔法を打ったのだと主張。「よくも俺の弟を傷つけようとしてくれたな!」と激怒してその騎士の胸倉を掴み、頬を思いっきりぶん殴ったそうだ。兄上ったら弟想いブラコン

だが事故か故意か判断することは難しい。しかも被害者である俺は早々に退場してしまったため、その騎士の処遇を決めることが出来なかった。なのでとりあえずその騎士を不敬罪で牢屋へぶち込み、皇帝父上へ報告されたと言う訳だ。

「今、枢長を遣わせて魔法を誤発させた王国騎士と王国騎士団帝国遠征部隊隊長を呼んでおる。来るまでみっちり説教するぞ」

「……わかりました」

これは逃げられない。非は俺の方にあるし、何より父上の目がマジだ。今回マジで怒ってる。これは俺がちゃんと反省するまで収まらないヤツだ。

あ~早く来てくれ王国騎士さん!

「余計なことを考えずに我の話を聞け」

なんで考えてることわかるかな!?


* * *


「陛下。王国騎士の者を連れて参りました」

「うむ。ご苦労」

その後父上から長々と説教を受け、一段落ついた頃に枢長が王国騎士を2人連れて来た。なんかベストタイミングすぎない?もしかして終わるまで扉の前で待ってた?入って来て良かったんだよ??

2人の王国騎士のうち、若い方の騎士が俺と目が合って肩をビクつかせた。ああ、あの騎士が魔法を誤発してしまった不運な騎士か。なんてぼんやり考えていると、何故か憧憬の眼差しで俺とヴァイナモを交互に見た。

……え?なんで?

「……その若い騎士が、今回魔法を誤発した者か」

「……この度は誠に申し訳ございませんでした」

若い騎士は膝を地面につけて土下座した。心做しか声が震えている。もう1人の年配の騎士も腰を深く折って頭を下げた。

土下座はやり過ぎじゃ……と思うけど、仕方ない。俺はこれでも皇族だからね。その場で首が飛んでいてもおかしくなかったんだ。

俺は気にしてないけど、それを世間が黙認するはずない。めっちゃ死を覚悟してる。あの場で庇っていれば、なんか変わったのかな?……なんも変わらないか。

「顔を上げてください」

俺が努めて優しく声をかけると、2人は恐る恐る頭を上げた。俺は若い騎士の前で片膝立ちになった。若い騎士は目を見開く。

「今回、本当に故意ではなく事故だったのですね?」

「は……はい」

「私に対して害意はなかったのですね?」

「はい!」

俺はじっと彼の目を見た。不安気に揺れてはいるが、真っ直ぐこちらを見ている。嘘は言ってないようだ。

俺は確認のため父上を見る。父上は目を閉じて神妙に頷く。父上も、彼は嘘をついていないように感じたのだろう。

「……では今回の件は不問と致しましょう。幸い私に怪我はありませんし。父上はそれでよろしいでしょうか?」

「……お前がそれで良いなら、我が国からは直接罰は下さぬ。その者を好きにしろとアムレアン国王に伝えよ」

「……承知致しました。寛大なご決断、誠にありがとうございます」

年配の王国騎士は沈痛な面持ちで頭を下げ、若い騎士は諦めたように全身の力を抜いた。『好きにしろ』とは、王国がこの騎士にどんな処罰を下しても異論はないと言うこと。それは無罪放免でも、公開処刑でも。

……これもしかして、下手に不問とするより俺が何らかの罰を与えた方が軽い罪で済んだ?王国のお国柄的に、殺されてもおかしくない?

「……死なないでくださいね?」

俺はぽつりと呟くと、騎士2人は瞠目した。これはただの子供の戯言だから王国側が配慮する義務はないけど、どうか彼を殺さないで欲しい。

彼の命を背負えるほど、俺は強くないから。
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