前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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動き出す時

海の死神は何如

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「……なっ!?そんな馬鹿な話はないだろう!」

パレンシア侯爵は面食らったように言葉を詰まらせたが、直ぐに威勢を取り戻して抗議した。俺は努めて平然と、首を傾げて口を開く。

「何故馬鹿な話なのですか?」

「何故って……当たり前だろう!?海の死神だぞ!?美味しいはずがないではないか!」

「何故そんな風に決めつけるのですか?パレンシア侯爵は召し上がったことがおありで?」

「いや、それはないが……」

「食べたことがないのに『不味い』と仰るのですか。それこそ食材が可哀想です。見目だけで味まで決めつけられるだなんて」

俺は嘆き悲しむように目を伏せてギュッと胸の前で両手を握った。パレンシア侯爵は反論出来ずに吃る。俺はこれは好機とパレンシア侯爵に畳み掛けるように語りかけた。

「美食家なパレンシア侯爵ともあられる方が独断と偏見だけで食材を不味いと判断なさるとは、この世界の食もこれ以上の発展はないのでしょうね」

「なっ!?食はもっと発展すべきだ!もっと美味しく!全ての食材が喜ばれて食べられるべきだ!私には虐げられている食材を救う使命がある!」

「ですが実際はどうですか。海の死神を食べてもないのに『不味い』と言うレッテルを貼っているではないですか。これでは美食家の名もお笑い話ですよ」

「ふんっ!そこまで言うなら食べてやろうではないか!海の死神を!そして堂々と『不味い』と宣言してやろう!」

パレンシア侯爵は胸を張ってバンッと胸を叩いた。ありがとう俺はその言葉を待っていたよ!

「おや?海の死神はゲテモノですから、美食家である貴方は食べないのでは?」

「私を舐めるな!どんな食材でも自分の味覚で味の善し悪しを判断するのが!美食家としての務めだ!」

ちょっと煽っただけで思い通りの展開になったんだけど。単純かパレンシア侯爵。その方がやりやすいから有難いけどさ。逆に心配になって来るよ。いつか上手い話に乗せられて取り返しのつかないことをやらかしそう。

「では料理人に頼んで海の死神の料理を作ってもらいますね」

「ああ!私の舌を唸らせる料理を期待している!まあ有り得ないだろうがな!」

パレンシア侯爵は嘲る調子でそう言う。パレンシア侯爵、それを人はフラグと言います。


* * *


「お待たせしました。海の死神のチヂミでございます」

数分後、料理人自ら料理を持って来た。目の前に出された料理にパレンシア侯爵は興味津々だ。あらゆる方向から見たり、皿を持ち上げたりして、料理として不足がないか確認する。

「……ふむ。見目には問題はないか。チラチラと海の死神が見えるのは気になるが、貴殿が先程まで食していた料理に比べれば、見目に対する配慮が感じられる」

「見目への配慮ですか。確かに海の死神に嫌悪感を覚える人に対しては必要なことでしたね。ですがそのせいで食材の味が損なわれては本末転倒では?」

「ふんっ!見目と味の両方に配慮すべきだと言っているのだ。貴殿が先程食していた料理は両方ともに配慮出来ていなかったから外道なのだ」

パレンシア侯爵は高圧的に鼻で笑った。ヴァイナモが今にも剣を抜きそうな勢いなので、手で制して宥める。パレンシア侯爵はヴァイナモの眼力殺気に怯みながらも、軽蔑の態度を変えない。パレンシア侯爵の中での大小関係は『恐怖<食材への愛』なのか。流石美食家変人。俺ならヴァイナモに睨まれたら生きていけない。

「まあいくら見目に配慮していても、味が伴わなければ意味はないがな。及第点と言ったところだ」

パレンシア侯爵はぶつくさ文句を言いながらも恐る恐るフォークで一切れ取り、そのチヂミを訝しむようにあらゆる方向から眺め、目を瞑って徐に口に入れた。

さて、海の死神タコはパレンシア侯爵の口に合うだろうか。いくら俺が美味しいと思っても、個人の好き嫌いがあるからな。パレンシア侯爵って凄く偏食家っぽい風格だから、少し心配になってきた。

パレンシア侯爵はゆっくりと口を動かし、長い時間をかけて飲み込んだ。だがパレンシア侯爵に反応はない。パレンシア侯爵の周りだけ時間が止まったかのようにシーンと静まり返った。俺は息をするのも忘れてパレンシア侯爵の動向を見守る。

どれぐらい待ったかわからない。パレンシア侯爵はいきなり何の前触れもなく膝から崩れ落ちた。

「……美味い……!面白い歯ごたえ!それでいてストレスになるほど硬くない!程よい弾力!素晴らしい!美味!この世にこれ程美味しい食材が存在していたとは!何故私は今まで『不味い』と決めつけて食べることを避けていたのだ!?愚かな!『美食家』を名乗るのも烏滸がましい!全ての海の死神に心から謝罪を!私は今まで見当違いな理由で海の死神を蔑んでいた!申し訳ございませんでした!』

パレンシア侯爵は完璧な土下座を披露する。……これは海の死神タコの美味しさをご理解いただけたと解釈しても良いのか?なんか想像以上の好反応なんだけど。

どうすべきかわからなくてヴァイナモの方を見上げると、ヴァイナモも驚きのあまり固まってしまっていた。だよね?めっちゃ溜めたと思ったらいきなり土下座奇行だと困惑しちゃうよね?でも、ヴァイナモ。早く戻って来て!俺一人じゃ収拾つかないよ!

パレンシア侯爵はガバリと上体を起こしたと思えば、素晴らしく輝いた目で俺に迫って来た。

「今すぐ料理人を呼んでくれ!他の海の死神料理も食べてみたいのだ!金は払う!」

「あっ、えっと……そこにいます」

パレンシア侯爵が俺の手を握ろうとしたが、それは戻って来たヴァイナモによって払い除けられる。パレンシア侯爵はその態度を気に止めることもなく俺の指差した方向料理人へズカズカと詰め寄り、料理人の手を握った。料理人は驚きのあまり肩を揺らす。

「貴殿!どうか私の元へ来て、海の死神料理を作ってくれないだろうか!?」

「えっ。ですが私は宮殿料理人でして……」

「そこを何とか!エルネスティ皇子!許可をいただけないだろうか!?」

「……私は構いませんよ」

パレンシア侯爵は首だけグルンとこちらを向いて興奮気味に聞いてきたので、俺は少し考えた後に許した。布教出来るし、問題ないはずだ。

「だそうだ!さあ!今から私の屋敷へ貴殿を招待しよう!」

「えっ、そのっ、あのっ!私には貴方様に料理を振る舞う資格はありません!」

パレンシア侯爵の気迫に押されていた料理人だが、物事が決定しかけた所でようやっと強く拒否の意を示した。パレンシア侯爵はキョトンとする。

「何故だね?こんなにも素晴らしい料理を作ると言うのに」

「これは私が考えた料理ではなく、帝都のとある定食屋の料理人が考えた料理です。それを我が物顔でお作りすることは出来ません」

料理人は目を伏せて悲痛そうにそう言う。確かにこの料理はウーノさんが考えたものだ。それをあたかも自分の料理のように振る舞うのは気が引けるよね。

だがパレンシア侯爵は不思議そうに首を傾げた。

「誰が考えたかなんて関係ない。私はその者の料理の腕を知らないからね。私は貴殿が作ったこのチヂミに感銘を受け、貴殿の腕を見込んで頼んでいるのだ」

料理人は目を丸くして息を飲んだ。だがみるみるうちに嬉しそうに頬を緩めて俯く。パレンシア侯爵はその反応に満足気に頷くのであった。

……俺の蚊帳の外感半端ないけど、何とか上手くまとまった、のか?
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