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学園生活をエンジョイする

スキンシップに免疫などない

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ヤルノとそんな話をした後、俺はエンケリ教の方々が展開してくれた魔法陣をヴァイナモとひとつひとつ確認して行った。

「……微かではありますが、他より硬さにムラがありますね。まあこれくらいは誤差の範囲ですが」

「魔力の量がちょっと少ないと思います。もう少し流し込んで魔法陣内を魔力で満たせば、ムラも解消されるかと」

「ええっと、No.23は僅かにムラあり、だが誤差の範囲、原因は魔力の量と考察……と」

俺とヴァイナモが魔法陣をじっくり観察してそう言うと、記録係のライラがせっせとメモを取る。これを魔法陣の数の分ひたすらやって行く。そんな地味で大変な作業を見て、クスターが視界の端で「途方もないな……」と少し引いていた。

「エルネスティ様、観察が済んだ魔法陣はどうしますか?」

「そうですね。欲しい人は自由に持って行っても構いませんよ。残った魔法陣はこちらで処分しますし」

「はあっ!?この紙を全部捨てるのか!?」

俺が魔法陣の観察をしながらヤルノとそんな会話をしていると、クスターが怒った様子で口を挟んで来た。ライラはメモからガッと顔を上げて「皇子殿下様に馴れ馴れしく話しかけんなやこの礼儀知らず!」とクスターをった。いや、別に俺は気にしてないから大丈夫だよ!?ほら!クスターが萎縮しちゃってる!

「いえ、ちゃんとリサイクルしますよ」

「リサ……えっ?なんだ……なんですか?それ」

俺の言葉にクスターだけでなく他の皆もキョトンとした、あっ。そう言やこの世界に『リサイクル』って概念はまだ存在してなかったな。失敬失敬。つい前世がポロッと出てしまった。

「えっと……再生利用です。原料に戻してもう一度紙を作り直します」

「何っ!?そんなこと出来るのか!?」

クスターはキラキラと目を輝かせてズイッと俺に顔を近づけて来た。俺が肩をビクッとさせると、ヴァイナモが流れるような所作で間に割って入ってくれた。そしてライラが「近い!あと口調!ちゃんとしやがれ無作法者!」とクスターの首根っこを掴んで引き離す回収する。手馴れてるなあ。

「……大丈夫ですか?エルネスティ様」

「えっ?大丈夫ですよ。少しびっくりしただけです」

ヴァイナモは心配そうに俺を覗き込んで来たが、俺がいつもの調子で答えると安心したようにへにゃりと笑い、俺の頬をひと撫でして上体を上げた。……お、おう。ヴァイナモがスキンシップとは珍しい。これが恋人同士の距離感か。そうなのか。……心臓に悪いな、うん。

「エルネスティ様……?どうされたのですか……?顔が真っ赤ですよ……?」

「えっえっふえっ!?なんでもありませんよ!?」

ペッテリの指摘に俺は顔を慌てて隠してブンブンと首を横に振った。いや!ちょっと頬を撫でられただけで赤面とか、初心かよ!いや確かに俺は恋愛に対する免疫ゼロだけどさ!!

俺があたふたしていると、イキシアに文字を教えていたヤルノは、俺たちの会話を目敏く聞きつけて、疑わしげに俺に近づいて来た。

「……もしかして、エルネスティ様。ヴァイナモ様と何かありました?」

「えっ!?別に何もありませんよ!?」

「……そうですか。おめでとうございます」

ヤルノは俺の様子に何かを察して、素晴らしい笑顔でお祝いの言葉を口にした。いや!俺は何もないって言ったでしょ!?何ちゃっかり祝ってんだよ!そう言うのは鋭くなくていい!

「ヤルノ……?何がおめでとうなの……?」

「さあ?何だろな」

ペッテリが不思議そうにするが、ヤルノはニヤニヤと曖昧な返事をして誤魔化す。……言いふらさないのは有難いけど、それなら最初から気づいてないフリをして欲しかったかな!?

「……それより!紙を原料に戻す方法を教えてくれませんか!?」

クスターがライラに首根っこ掴まれた状態でジタバタしながら聞いて来た。なんかクスターの食いつきが半端ないな。確かクスターって会計士だっけ。なら紙をたくさん使うだろうから、リサイクル出来れば経費削減になるのか。なるほど。

「私の分解魔法で紙を溶かして除去魔法で異物を取り除き、再び紙にします。クスターが真似出来るものではありませんね」

「そう……なのか」

クスターがしょぼんとして動きを止めた。い、犬……反応がいちいち犬……。大型犬クスター飼い主ライラか。なるほど理解した(?)

「何故紙のリサイクルに興味があるのですか?」

「……紙って意外と高価なものだって、俺は最近知りました。仕事で必要とは言え、大量の紙を使っているのが少し申し訳なくなりまして」

「あれ?クスターって平民ですよね?紙が高価だと知らなかったのですか?」

「クスターの父親は数学者で、母親はアウッティ商会の会計士長だったので、平民にしては裕福な家庭でしたし、紙が身近な存在だったのです」

俺の疑問にライラが補足した。なるほど。ちょっと金銭感覚が露店で甲冑を買うとかおかしいと思ってたけど、実家が裕福なのか。しかも両親共に計算で生計を立ててるとか、そりゃクスターも性格に似つかわしくない会計士なんて職をやってる訳だ。

「ですが慈善活動で色んな人々と関わるようになり、俺が普段何気なく使っているものも、人によってはとても貴重なものなんだって知りました。だから何か、そんな人たちのために出来ることはないか、と思いまして……」

クスターは自信なさげにそう言った。……クスターって向こう見ずだけど、考えなしではないよね。ちょっと思考がぶっ飛んでる所があるけど。単純過ぎる所があるけど。

……でも、そうだね。リサイクルの考えを普及させるのも悪くないかも。既に平民はリデュースとリユースはやってるから、どうせなら3Rを揃えるのも悪くないかも。前世の工場みたいな感じの施設作って、巨大な分解魔法陣で溶かして……みたいな。別に紙に拘らなくても、他にもリサイクル出来そうなものは結構あるし。

「……魔法陣を使えば誰でも出来るようになるかもしれません。時間がある時に研究しておきますね」

「ほっ、本当ですかっ!?ありがとうございます!」

クスターの背後にブンブンと揺れる尻尾幻覚が見える。犬か。どんだけ嬉しいんだよ。

「あまり期待しないでください。最優先は今している魔法陣展開の個人差についての研究ですから。時間がなければリサイクルの研究は進みません」

「そうですか……。なら!俺もたくさん手伝って、その研究を出来る時間を作ります!何か手伝えることはありますか!?」

クスターが期待に満ちた目をこちらに向けてくる。えっと、何かクスターの利点を有効利用出来ることは……。

「……では、魔力量が多寡な魔法陣を集めて、どれほどの魔力量を操作すれば適正な魔力量になるのか、ヴァイナモと一緒に数値化してくれますか?」

「おうっ!任されました!」

クスターは威勢のいい返事をして、意気揚々と片付けた魔法陣の元へ向かう。元気だなあ。

「ヴァイナモ、よろしくお願いしますね」

「……わかりました」

俺がヴァイナモにクスターを頼むと、ヴァイナモは少しもの惜しげにしつつも、さらりと俺の髪を人撫でしてクスターについて行った。

「……ヴァイナモはエルネスティ様と共同作業をしていたかったみたいですよ」

「……そのようですね」

ヤルノの指摘に俺は目を逸らして頷いた。……スキンシップは嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいよ、ヴァイナモ。
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