前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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学園生活をエンジョイする

わっかりやすいなお前

話がまとまったので、早速誓約書を書いて正式に依頼をし、詳しい依頼内容を話すことになった。

マティルダ嬢は俺の依頼内容を聞いて、「初めて受ける依頼注文の内容じゃない……」とボソリと呟いたが、直ぐに吹っ切れたような真っ直ぐな瞳で了解してくれた。マティルダ嬢は第一印象に反して、熱い職人魂を持っているみたいだ。信頼出来るな。

冷蔵庫の設計図を作るに当たって魔法陣について色々知る必要があるだろうと思い、俺は魔法陣について簡単にまとめた資料を渡した。そしてゆくゆくは冷蔵庫開発の魔法陣部分を担当してもらおうと思っている、イキシアと引き合せることにした。

イキシアは近衛騎士団の訓練所で今日も魔法陣実験と文字の練習をしている。だからマティルダ嬢には少し手間をかけさせてしまうけど、一同で訓練所へと向かった。

マティルダ嬢にはイキシアが声を出せないことだけを伝えておいた。初対面から犯罪奴隷であることを知っていたら、今後の仕事にも影響が出る可能性があるからだ。マティルダ嬢にイキシアが犯罪奴隷であることをいつ伝えるか、そもそも伝えるかどうかはイキシアの判断に任せることにしようと思う。イキシアもバレたくないかもしれないし。

と言うことで初対面。ヤルノがイキシアに文字を教えている所に、マティルダ嬢を連れて来た。マティルダ嬢は緊張の面持ちで自己紹介をする。

「初めまして。エルネスティ殿下に雇われました、家具職人のマティルダ・スヴィ・トゥオメラと言います」

マティルダ嬢は流石男爵令嬢で、庶民向けのワンピースを着ながらも美しい淑女の礼をした。可愛らしい顔立ちだし、意外とモテそうだな。前世、と言うか今世でも大人気な身分差恋愛物語シンデレラストーリーのヒロインやってそうだな。

マティルダ嬢は完璧な挨拶をした。だけどイキシアはそんなマティルダ嬢を見つめて、ピクリとも動かなかった。あれ?どうしたのかな?せめて「よろしくお願いします」ぐらい、そのスケッチブックに書いて見せないと。失礼じゃない?

イキシアの様子がおかしいことに気づいたヤルノは、肘でイキシアをトンッと突く。イキシアはハッとなって慌てて筆を動かした。

[イキシアです。よろしくお願いします]

見せられた不器用な文字にマティルダ嬢は目を丸くしながらも、すぐにフワッと笑って「こちらこそ、よろしくお願いします」と返事した。イキシアはそれを見蕩れるように眺める。

……なんか様子がおかしい?

チラリとヤルノを見ると、ヤルノは何かを察したのか呆れたようにこめかみに指を当てて溜息をついた。

「……イキシア、詳しい話は後で聞いてやるから、今はしゃっきりしろ」

ヤルノがイキシアの背中を叩くと、イキシアは我に返ってヤルノに謝る身振りを見せた。心做しか顔が赤い。……えっ?もしかして、恋か?マティルダ嬢に一目惚れしちゃった?

「今はまだ魔法陣は実験段階ですが、ゆくゆくは魔法陣部分をイキシア、外装部分をマティルダ嬢が担当して、共同で冷蔵庫を開発してもらう予定です。仲良くしてくださいね」

俺の言葉にイキシアはパアッと表情を明るくし、ピンッと尻尾と犬耳(比喩もしくは幻覚)を立てた。そんなに嬉しいのか。そうかそうか。後で詳しく事情聴取だな(下世話&鬼畜)

「まあイキシアはまず文字を覚えて、それから魔法陣の勉強をしなきゃだけどな」

ヤルノの言葉にイキシアは目を輝かせて力強く頷いた。ヤルノがボソリと「わっかりやすいな……」と呟くのが聞こえた。それな。表情コロコロ変わってわかりやすいよな。ほら、マティルダ嬢も「もしかして……?」みたいな表情をしてるよ。バレバレじゃん!

「まあ今日は顔合わせだけなので、イキシアとヤルノは実験に戻ってください。私はマティルダ嬢を見送ってからまた戻って来ます」

俺がそう言うと、イキシアはしゅん……と力なく尻尾と犬耳(イメージ)を下げた。俺はよくわからない罪悪感を覚えつつも、ヤルノに「後は任せた」とアイコンタクトを送った。ヤルノが「任せてください」と頷いたので、ニコリと微笑んでマティルダ嬢を連れてその場を後にした。


* * *


マティルダ嬢が帰りの馬車に乗る際、躊躇いながらもこう尋ねて来た。

「……あの、イキシアさんのこと、どうすれば良いですか……?」

どうすれば、と言うのはイキシアの好意のことだろう。本人が明言明文?していないから定かではないけど、十中八九マティルダ嬢の予想通りだろう。「彼、私のこと好きだよね~」とか一歩間違えれば自意識過剰な痛い発言ではあるけど、今回は仕方ない。これから仕事仲間になる異性からあからさまな好意を向けられたら、どうすれば良いか迷うのも無理はないよね。

「……まあ、まだ本人が伝えて来た訳ではないので、暫くは知らないフリが良いのではないでしょうか?」

「……ですよね。私たちの勘違いって可能性もありますし……!」

「その可能性が恐ろしいぐらいに低いのが不安ですが」

「ですよね……」

マティルダ嬢は頭を抱えた。彼女も学生で、色々多感な時期だ。イキシアのせいで気を悩ますのも忍びない。

……イキシアには悪いけど、現実を突きつけるしかないかな。それで仕事に支障をきたされても困るし。

「まあ安心してください。イキシアは立場が特殊なので、イキシアから何かして来ることはないと思いますよ。私からも注意しておきますし」

「……特殊、ですか?」

「はい。詳しくは言えませんが……イキシアは色々と行動に制限がかけられています。結婚することも許されていませんし」

マティルダ嬢は目を見開いた。アムレアン王国イキシアの出身国では犯罪奴隷だろうが労働奴隷だろうが、結婚は認められていない。我が国ではそもそも奴隷が認められていないためそう言った規則はないが、例外的に奴隷を受け入れた場合は原則アムレアン王国の規則に従うことになっている。数少ない奴隷が認められている国だし、あれほどしっかりとした奴隷制度が確立している国は他にないからね。

まあマティルダ嬢は奴隷制度なんて知らないだろうから、流石に『イキシア=奴隷』って考えには至らないかな。好きなように解釈してくれて構わない。それが態度に出ないならね。

「おっと、これはご内密に。イキシアの事情はほんの数人しか知りませんので」

「……制限って、恋愛することも禁止されているのですか……?」

俺が人差し指を口の前で立てて内緒のジェスチャーをすると、マティルダ嬢は悲痛な面持ちでそんなことを聞いてきた。俺はキョトンとしつつも答える。

「いえ、恋愛は許されてますよ」

「……そう、ですか。……わかりました。とりあえずはイキシアさんのお気持ちは知らぬ存ぜぬで通します」

マティルダ嬢は思案顔でそう返事をした。……何を考えているかはわからないけど、これだけは言っとこっかな。

「……くれぐれも変に気を回さないでくださいね。貴女ひとりの力でどうこう出来る問題ではありませんから」

「……っ!わかりました」

マティルダ嬢は目に見えて落ち込んだ。ちょっと冷たい言い方だったけど、本当にどうしようもない話だからね。俺や、下手したら皇帝父上ですら手に負えない案件だ。変に動かれてイキシアを傷つけられたら困る。

そんなこんなで不安も残る中、俺はマティルダ嬢に別れの挨拶をし、馬車を見送った。




* * * * * * * * *




いつも本作品をご愛読くださり、ありがとうございます。
作者の予定とモチベーションの関係上、今後暫くは更新を週に一度、木曜日にさせていただきます。有言不実行ですみません。
決して投稿が嫌になったのではなく、毎日が忙しく、疲れてしまって書く気力がないだけですので、悪しからず。
亀更新ではありますが、これからも本作品をよろしくお願い致します。
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