千物語

松田 かおる

文字の大きさ
28 / 94

押しかけ天使

しおりを挟む
「おはよー!ございまーす!!」
スマホのアラームをかき消すほどの大きな声で、オレは叩き起こされた。
目を開くと、女が枕元に立っていた。
「…誰、あんた?」
オレが聞くと、女は
「私は『天使』です」
そう答えてにっこりと笑った。

「…つまり、オレが『少しでもいい生活』を送れるサポートをするために派遣されてきた…と」
聞かされた説明を繰り返すと、<天使>は頷きながら
「事前に通知が行っていたと思いますけれども、届いていませんか?」
と聞いてきた。
…そういえば、前に何か来てたっけ。
にしても、オレの所に<天使>が来るなんて、嘘か冗談かと思った。
それを<天使>に告げると、
「天使は嘘をつきません」
そう胸を張って答え、
「なので今日から一緒に生活して、あなたが『いい生活』を送れるよう、サポートいたします!」
と続けた。
「…無駄と思うけどなぁ」
そうオレが言っても<天使>は意に介さず、
「まぁまぁ、まずは何事もやってみてから。よろしくお願いします!」
と、文字通り「天使の微笑み」でそう言った。
「まるで押しかけ女房だな」
「違いますー、天使ですー」
「押しかけなのは認めるのかよ」

「おかしいですねぇ…」
<天使>が来てから一週間が経った頃。
黄身が崩れた目玉焼きを食べながら、<天使>が呟いた。
「おかしいって、何が?」
ダシを取り忘れた味噌汁をすすりながら、オレが聞く。
「私がここに来てから、少しも生活がよくなっていないんです」
「でも、悪くなってはいないかな」
「これでも私、優秀なんです。成功率エグいんです」
「ふんふん」
「でもなんかうまく行かないんです。目玉焼きの黄身は崩れるし、お味噌汁のダシは取り忘れるし」
「ただのぶきっちょなんじゃ?」
「違いますー」
「…でも、あんたがそう感じるのも、あながち間違いじゃない気はするなぁ」
オレがそう言うと、<天使>は
「どうしてですか?」
と聞き返してきた。
「だってオレ、悪魔だもん」
そう言ってやると、
「…へ?」
なんとも間の抜けたリアクションを返した。
「悪魔と天使が一緒にいたら、お互い打ち消しあっちゃうもんなぁ」
「そんなぁ…」
<天使>がうなだれる。
「どうする?諦めて帰る?」
<天使>はしばらく考え込んだあと、
「…取り敢えずごはんが上手に完成できるようになるまでは、頑張ってみます!」
と答えた。
「本当に押しかけ女房みたいだな」
「違いますー、天使ですー」
<天使>はそう言うと味噌汁を一気に飲み干して、盛大にむせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...