千物語

松田 かおる

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宇宙の果て

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今から数年前。
人類はついに「超光速航法」の技術を確立し、光の速さを超えて宇宙を旅することができるようになった。

いわゆる「宇宙大航海時代」が幕を開けた。

そうなると誰しも考えることは同じようで、世界各国が「どこまで遠くに行けるか」と、競うように宇宙開拓を推進し始めた。
我が国も右へ倣えで「宇宙の果てを目指す」と言う壮大なプロジェクトが開始され、このたびめでたく俺が国の代表として、「宇宙の果てへの旅」にチャレンジすることになった。

とは言っても特に何かする訳でもなく、超光速航行に合わせたコールドスリープから目が覚めたときに、状況を報告するだけのことだ。
ただし出発からどれだけの日にちが過ぎたのかは判らず、宇宙服の生命維持装置に表示される「乱数」をレポートの初めに記録する決まりになっている。
あまりの長期間にわたる行程なので、日にちの経過を感じさせない配慮なのかもしれない。

「第238D44F日、特に変化なし。外に見える星々も恒星図どおり。見覚えがある」
「第PG454L31日、若干の変化あり。恒星図にない星が現れ始めてきた」
「第322AS日、外に見える恒星の数が減ってきた」
「第Y6日、恒星も銀河も見えなくなった」
「第9BGU3245E87日、前回報告と同じ、なにも見えない」
「第J98W日…」
「第5U87RGF5日…」
ここからは、何度起きても報告する内容は変わらなかった。


そして何度同じ報告をしたかわからなくなったある日。
目を覚ました俺は、何故か地上に立っていた。

…なぜ俺はこんなところに立っているんだ?
そもそもなぜ宇宙船の外に出ているんだ?
もしかして途中でどこかの星に着陸して、その星の人間にコールドスリープを解除されたのだろうか…

生命維持装置を確認すると、乱数表示は「∞」を示していた。

辺りを見回してみる。
ここはどうやら宇宙基地のようだ。
しかも地球の俺の国の宇宙基地に似ている、というかまるで地球の基地そのものに見える。
さらに見回すと、遠くの方に人影らしいものがあった。
まずは現状を確認する必要がある。
あいつに聞いてみることにして、俺は人影の方に向かう。

徐々に人影に近づくが、そいつは俺に気づいていないのか、向こうを向いていた。
俺が話しかけようとすると、そいつは振り返らずに向こうを向いたまま、
「ようこそ、宇宙の果てへ」
と言った。
そして俺の方に振り返って、顔を見せる。


振り向いたその顔は、俺だった。
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