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怪盗現わる
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「ねぇ聞いた?また『シオカラトンボ』が出たんだって」
「聞いた聞いた。今度は田中さんの部屋だって?」
二人の女性がそんな会話を交わしている。
が、その口調は嫌悪感のようなものではなく、逆に楽しんでいるかのようなものであった。
むしろ「出た」ことを期待していたかのようにも感じられた。
その様子を見ていたある老人が、
「あの…すみませんが、その『シオカラトンボ』とやらの話、少し詳しく聞かせてくれませんか?」
二人の女性に声をかけた。
「あー、そっかー。おじいさんはこの間ここに来たばかりだから、知らなかったよねー」
ケアスタッフの一人が、老人の質問に答えてくれた。
スタッフが言うには
・入居者の私物がなくなることがある
・でも翌日には本人の手元に戻ってくる
・そのたびに、『シオカラトンボ』を名乗る入居者が犯行声明を出す
・ただ、純粋に本人の記憶違いだったりすることが多いので、本当に『シオカラトンボ』の犯行かどうかは解らない
とのことだった。
老人はケアスタッフにお礼を言ってその場を後にしたが、その目には不敵な輝きが点っていた…
ある日。
「『シオカラトンボ』!いるんだろ!」
老人が大声をあげながら、ある部屋に飛び込んできた。
一斉に部屋中の者がその声の方に振り返ったが、一人だけ違った反応を見せた。
「げげ!おやっさん…なんでここに?」
その老人の反応を見て、
「俺だってお前がここにいるとは思わなかったよ!」
部屋に飛び込んできた老人が答え、
「お前、まだ怪盗モドキをやってんだってな」
と続けた。
「シオカラトンボ」と呼ばれた老人は
「サテ、何ノコトデゲス?」
ととぼけるが、
「ネタは挙がってんだよ!」
と返された。
「おやっさん」と呼ばれた老人は、
「まぁいい、俺が来たからにゃあもうお前の好きにはさせねぇ。今度こそしょっ引いてやるからな、覚悟しておけ!」
意気込んで「シオカラトンボ」に言い放つが、
「現役時代にアゲることもできなかったのにですかい?」
当の本人は小馬鹿にしたように返す。
「うるせぇ!今度こそお前を捕まえてやる!」
「へへん、やれるもんならやってごらんなさいやし」
のどかな昼下がり、老人ホームに似つかわしくない会話が繰り広げられた。
それからというもの。
その老人ホームでは「シオカラトンボ」と「おやっさん」の「攻防」が日々繰り広げられているとか。
そしてそれは一種のアトラクション的なイベントとして、入居者や職員の間では概ね好評であるという。
「聞いた聞いた。今度は田中さんの部屋だって?」
二人の女性がそんな会話を交わしている。
が、その口調は嫌悪感のようなものではなく、逆に楽しんでいるかのようなものであった。
むしろ「出た」ことを期待していたかのようにも感じられた。
その様子を見ていたある老人が、
「あの…すみませんが、その『シオカラトンボ』とやらの話、少し詳しく聞かせてくれませんか?」
二人の女性に声をかけた。
「あー、そっかー。おじいさんはこの間ここに来たばかりだから、知らなかったよねー」
ケアスタッフの一人が、老人の質問に答えてくれた。
スタッフが言うには
・入居者の私物がなくなることがある
・でも翌日には本人の手元に戻ってくる
・そのたびに、『シオカラトンボ』を名乗る入居者が犯行声明を出す
・ただ、純粋に本人の記憶違いだったりすることが多いので、本当に『シオカラトンボ』の犯行かどうかは解らない
とのことだった。
老人はケアスタッフにお礼を言ってその場を後にしたが、その目には不敵な輝きが点っていた…
ある日。
「『シオカラトンボ』!いるんだろ!」
老人が大声をあげながら、ある部屋に飛び込んできた。
一斉に部屋中の者がその声の方に振り返ったが、一人だけ違った反応を見せた。
「げげ!おやっさん…なんでここに?」
その老人の反応を見て、
「俺だってお前がここにいるとは思わなかったよ!」
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「お前、まだ怪盗モドキをやってんだってな」
と続けた。
「シオカラトンボ」と呼ばれた老人は
「サテ、何ノコトデゲス?」
ととぼけるが、
「ネタは挙がってんだよ!」
と返された。
「おやっさん」と呼ばれた老人は、
「まぁいい、俺が来たからにゃあもうお前の好きにはさせねぇ。今度こそしょっ引いてやるからな、覚悟しておけ!」
意気込んで「シオカラトンボ」に言い放つが、
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「うるせぇ!今度こそお前を捕まえてやる!」
「へへん、やれるもんならやってごらんなさいやし」
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それからというもの。
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