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手術室の扉の上には、[手術中]と書いてあるランプが光っていた。
その色はまるで血のように真っ赤だった。
隆はなす術もなく、手術室の前の椅子に腰掛けていた。
しばらくすると、[手術中]のランプが消えて、手術室の扉が開いた。
隆は立ち上がり、今その扉の向こうから出て来た医師を捕まえて、
「先生、どうですか。千佳の容態は?」
と聞いた。
しかし医師の表情は暗く、どう見ても隆にとって期待している答が返って来そうでない事は明らかだった。
やがて医師は口を開き、
「生命に別状はありませんが…」
そう言って隆を、今手術を終えたばかりの手術室へと「どうぞこちらへ」と言って招き入れた。
隆が手術室に入って目にしたものは、手術台からストレッチャーに移されて横たわっている、千佳の姿だった。
「それで、千佳はどうなんですか?」
隆が聞くと、医師は
「ご覧の通り、外傷は大した事はないのですが、頭部に加わった衝撃が大きかったために、重度の昏睡状態に陥っています。自発呼吸は出来ますが、刺激などに対する生活反応はほとんど見られません」
と言った。
「つまり、それって…」
隆が聞くと、医師がその後を引き継ぐように、
「一種の植物人間状態であると言えます」
と言った。
『植物人間』と言う言葉を聞いて、隆は目の前が暗くなった。
「…千佳は、もう一生このままなんですか?」
隆がやっとの思いで言葉を出すと、
「以前の状態に戻る可能性は、確率的には限りなくゼロに近いでしょう」
「…限りなく、ゼロ…」
医師は隆の言葉に応える代わりに、
「私達も最善は尽くしたのですが…」
そう言って手術室から出て行った。
手術室に残った看護婦達は、千佳の乗ったストレッチャーを押して行く者、手術の後片付けなどでせわしなく動き回っている。
その中で隆だけが一人、その場に立ち尽くしていた。
それからは時間の許す限り、隆は集中治療室で眠り続けている千佳を見舞った。
もしかして、万が一、という隆の願いも空しく、千佳の容態は全く変わらなかった。
手を握っても、話しかけても、千佳は眠り続けるだけで、何も返事は返ってこなかった。
そんな千佳の姿を見る度に、隆はあの夜の出来事を思い出し、『嘘でもいいから、千佳の言う事を聞いてやればよかった。そうすれば…』という後悔を繰り返していた。
そんな日々を過ごしているうちに、千佳と一緒に楽しむはずだったクリスマス・イブになった。
千佳と一緒にいる事は出来たが、それは隆にとって何よりも苦痛である事だった。
クリスマス・ソングの代わりに、部屋の中には機械の無機質な電子音だけが響き渡っていた。
静かなクリスマス・イブだった。
隆は千佳の手を握り締め、
「千佳、ごめんな。本当だったら今ごろはこんな所じゃなくって、もっと楽しい場所にいるはずだったのにな…ごめんな、本当にごめんな」
隆の手に思わず力がこもった。
それでも何も返事のない千佳の手の握り続けているうちに、隆の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
『…俺の、俺のせいで千佳がこんな目にあってしまったんだ。俺の命と引き換えてもいい。千佳を元通りに…』
隆は心の中で繰り返しつぶやき続けていた。
すると突然、
「それ、本当?」
という声が頭上から聞こえてきた。
その色はまるで血のように真っ赤だった。
隆はなす術もなく、手術室の前の椅子に腰掛けていた。
しばらくすると、[手術中]のランプが消えて、手術室の扉が開いた。
隆は立ち上がり、今その扉の向こうから出て来た医師を捕まえて、
「先生、どうですか。千佳の容態は?」
と聞いた。
しかし医師の表情は暗く、どう見ても隆にとって期待している答が返って来そうでない事は明らかだった。
やがて医師は口を開き、
「生命に別状はありませんが…」
そう言って隆を、今手術を終えたばかりの手術室へと「どうぞこちらへ」と言って招き入れた。
隆が手術室に入って目にしたものは、手術台からストレッチャーに移されて横たわっている、千佳の姿だった。
「それで、千佳はどうなんですか?」
隆が聞くと、医師は
「ご覧の通り、外傷は大した事はないのですが、頭部に加わった衝撃が大きかったために、重度の昏睡状態に陥っています。自発呼吸は出来ますが、刺激などに対する生活反応はほとんど見られません」
と言った。
「つまり、それって…」
隆が聞くと、医師がその後を引き継ぐように、
「一種の植物人間状態であると言えます」
と言った。
『植物人間』と言う言葉を聞いて、隆は目の前が暗くなった。
「…千佳は、もう一生このままなんですか?」
隆がやっとの思いで言葉を出すと、
「以前の状態に戻る可能性は、確率的には限りなくゼロに近いでしょう」
「…限りなく、ゼロ…」
医師は隆の言葉に応える代わりに、
「私達も最善は尽くしたのですが…」
そう言って手術室から出て行った。
手術室に残った看護婦達は、千佳の乗ったストレッチャーを押して行く者、手術の後片付けなどでせわしなく動き回っている。
その中で隆だけが一人、その場に立ち尽くしていた。
それからは時間の許す限り、隆は集中治療室で眠り続けている千佳を見舞った。
もしかして、万が一、という隆の願いも空しく、千佳の容態は全く変わらなかった。
手を握っても、話しかけても、千佳は眠り続けるだけで、何も返事は返ってこなかった。
そんな千佳の姿を見る度に、隆はあの夜の出来事を思い出し、『嘘でもいいから、千佳の言う事を聞いてやればよかった。そうすれば…』という後悔を繰り返していた。
そんな日々を過ごしているうちに、千佳と一緒に楽しむはずだったクリスマス・イブになった。
千佳と一緒にいる事は出来たが、それは隆にとって何よりも苦痛である事だった。
クリスマス・ソングの代わりに、部屋の中には機械の無機質な電子音だけが響き渡っていた。
静かなクリスマス・イブだった。
隆は千佳の手を握り締め、
「千佳、ごめんな。本当だったら今ごろはこんな所じゃなくって、もっと楽しい場所にいるはずだったのにな…ごめんな、本当にごめんな」
隆の手に思わず力がこもった。
それでも何も返事のない千佳の手の握り続けているうちに、隆の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
『…俺の、俺のせいで千佳がこんな目にあってしまったんだ。俺の命と引き換えてもいい。千佳を元通りに…』
隆は心の中で繰り返しつぶやき続けていた。
すると突然、
「それ、本当?」
という声が頭上から聞こえてきた。
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