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【第6話】どうなっても知りませんよ
しおりを挟む「あ……あっ! さっきの奴ですよぉ!」
慌てる御者。
対して、フォマローは落ち着いていた。
「一旦、止めてくれ」
「ええぇ!? まさか近寄る気ですかい!?」
「心配ない。考えがある」
馬車を降り、女の元へ進むフォマロー。
その後ろを、御者もクロスボウを構えながら追従した。
あと数メートル。
その時。
「フォマロー様っ!」
御者が武器を構える。
女が目を覚まし、ゆっくりと身体を起こしたのだ。
女とフォマローの目が合う。
「わっ!!? わー!!!」
彼女は驚いた様子で、座ったまま後退りした。
「君、大丈夫かい?」
心配そうな顔でフォマローが距離を縮める。
「あっあ……! いえっ!! ……はいっ!! 大丈夫です……!!」
女は慌てて、再び後退る。
そして顔を背けて目を瞑った。
彼女の妙な様子に、フォマローと御者は顔を見合わせる。
御者が言った通り、女に外傷は見られず体調に異常も見られない。
しかしフォマローを見ての意味有り気な驚き様。
そして何より……。
「……アンタ、なんでズボンを上に着てるんだぁ?」
思わず御者が問いかける。
女は薄汚れ、更には奇怪な服装をしていた。
両脚部分に腕を。股間部を割いて穴を開け、そのから顔を出している。
その他の部分も、取り敢えず布巻いとけと言った様子のいでたち。
「これは、そのっ……長旅で服がぼろぼろになってしまったもので……へへへっ」
返答しつつも、まだ顔を背けて目を瞑り続けていた。
「アンタ、怪しいなぁ」
「えっ? いやいやいや、あの……ただの冒険者ですっ!」
「冒険者ぁ? そうには見えないぞ!」
「まあ、待て」
訝しむ御者をフォマローが制した。
「その格好で冒険者は無理だな」
そう言いながら、彼は更に女に近づいた。
僅か数センチ。
目を背け続ける女の顔をしげしげと見つめる。
「こっちを向いて、目を見せてくれないか?」
「だめですっ……!」
「どうして?」
「どっ……どうしてもですっ!!」
意固地な態度。
しかしフォマローは気にせず顔を近づけ、耳元に囁いた。
「私は、君と同じ人間を知っている」
「えっ……!?」
驚いた女は、思わずフォマローの顔を見た。
目と目が合う。
「やはり……“君も”なのか」
「え……?」
「いや……疲れ果てた事だろう。私のところに来なさい」
「えっえっ……!? いやいやいやっ! いきなりそんなっ……だめですよ!
私みたいな浮浪者にっ!」
「私なら、君を“自由”にできる」
改めて、女は眼前の男を見た。
深く澄んだ、力強さを帯びた瞳。
それは、彼が何かを確信している様に見える。
「どうなっても……」
「うん?」
「……どうなっても知りませんよっ」
「大丈夫、心配いらない。教えてくれないか? 君の名前は?」
女は立ち上がり、静かに衣服の砂を落とした。
風が、彼女の短い黒髪をそっと揺らす。
「キノーです。ただの、キノー」
「良い名だ……さあ、馬車に乗って」
フォマローに促され、キノーは客車に座った。
そしてしばらく馬車に揺られたのち、村へと着いた。
「キノー。今日からここが、君の故郷だ」
そう言われた瞬間だった。
キノーの脳内に突如、無機質な声が聞こえた。
『実績解除。新たなスキル【把握(キャッチ)】がアンロックされました』
◇◇◇◇◇
「そうして、彼女を使用人として雇う事にしたんだ。どうだ? ドラマチックだろう?」
父親の話を聞き終え、リュンヌは唖然とした。
「いやいやいや、ドラマチックかどうかなんてどーでもいいし……
てかあの家政婦、やっぱりヤバい人じゃん……」
「人柄と言うのは“目”に現れるものだ」
「そうだね……あの人すごいヤバい目してたし……」
「リュンヌ……」
フォマローは溜息を吐きながら娘の肩へと手を移した。
「俺は反省しているんだ。君をいくらか甘やかし過ぎたと」
「え……?」
「妻が……キュリオジテが亡くなって、一番傷ついていたのは
リュンヌだったろう……そう思って今日まで来た」
「……そうだよ。なのにすぐ、あんな人と再婚して……!!」
「オルディネールの事を悪く言うのは許さないぞ」
怒気を含んだ父親の瞳に、リュンヌは思わずうつむいた。
「ごめんなさい……でも……」
「キノーをクビになんてしない。彼女は話した通りだ。可哀想だろう?
リュンヌもこれに懲りて、家政婦に意地悪するのを辞めなさい。いいね?」
「……」
落ち込む娘を尻目に、フォマローはカーテンを開けた。
外を見ると、こちらに気付いたキノーがブンブンっと元気よく手を振った。
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